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馬鹿中の馬鹿に向かって馬鹿馬鹿と↓


「倉持先輩って御幸……先輩と仲良いっすよねー」

「………あ゙?」


床に寝そべって漫画を読んでいた倉持は上げた顔を思い切りしかめた。
しかめるにしても顔面がピクピク引き攣って、いちいちヤンキー風で怖いそれ。だがすでに慣れっこな沢村には何てことなく、「いつも一緒に行動してるじゃないですか」と遠慮なしに続ける。


「キモいこと言うな。見ろ、鳥肌立っちまったじゃねぇか」


チッと舌打ちした倉持は気分を変えようとコーラを呷った。もちろんコーラはそこにいるパシリ犬が買ってきたものだ。


「2人は最初から仲良かったんスか?」

「だから仲良しとか言うな。また鳥肌増えただろ」


とぐちりながらも倉持は身を起こし、その場にあぐらをかいた。
話す姿勢に入った倉持に、沢村も何となく居住まいを正す。


「――最初は全然喋ったこともねーよ。地元も違うし。それにアイツ、恒例の自己紹介終わった早々監督直々に『御幸は一軍の練習に合流』だぜ。俺らと扱い全然ちげーの。クソムカついた」

「へぇ」


昨年の春先、御幸は倉持世代の唯一の1年レギュラーだった。今年でいう降谷よりも時期的に早いレギュラー入りだ。
天才捕手御幸一也の名は中学の頃から有名だったし、最初の頃は先輩にも同じ1年にもちやほやされるのも当然。
だが先輩にも同輩にもする歯に衣着せぬ物言いや、へらへらした軽薄とも取れる態度がレギュラーになれない者たち――特に3年――の反感をかうのも時間の問題だった。


御幸は一時期の沢村と違う意味で浮いた存在となった。
無視やリンチ、なんて馬鹿みたいなことは名門だけあってなかったが、部内の御幸に対する空気は一時期相当冷えこんだ。


「うわ、1年から御幸節爆発っすね」


うんうん、と大仰に頷く沢村。
すっかり御幸に先輩をつけ忘れているが倉持はその辺注意はしない(むしろどうでもいい)。
やがて沢村は「それで?」と身を乗り出した。


「どうして今みたいに仲良くなったんすか?」

「……次仲良しやそれに属する言葉使ったらマジで絞め落とすぞ」


鳥肌をさすりながら、ギヌロ、と睨めばびくっと身を竦めるパシリ犬。それでも純真無垢な瞳は聞きたいわんへっへっはふはふ〜なオーラを発してくる。
倉持は仕方ねぇなぁと言うように頭を掻き、足を組み直した。


「まあしばらくして御幸を屋上に呼び出したわけよ」

「は?屋上……?」

「――『御幸、てめぇ生意気なんだよ』
ドカッ、バキッ
(中略)
壮絶なダブルノックアウト。
『はっ、お前なかなかやるなぁ……』
『ヒャハ、お前こそ……!』
二人で仰いだその時の空はどこまでも青かっ――」

「はい嘘ぉおおおお!」


バンバンバン!と沢村は遮るように床を叩く。


「あんだよ。いいじゃねーかよこんなんで」

「よくねぇ!………であります!」


途中で拳を鳴らされて慌てて妙な敬語を付け加える。


「お前がよくなくても終わり。めでたしめでたし」

「めでたくねぇえええ!?すよ!こんなところで切られたら気になりやす!」

「気になっとけ気になっとけ。昔話なんてアホくせぇ」

「ほんの一年前なのに!?」

「ヒャハ、俺にとっては昔だっつの」


ごろん、と再び腹ばいになった倉持は読みかけの漫画を再度広げる。
もう話す気はないとあからさまに示すその態度。
むぅううんと唸っていた沢村だったが、やがて、勢い込んで立ち上がった。


「なら俺っ、御幸に聞きに行きやす!」

「おー行ってこーい」


手の変わりにひらひら足首を揺らして応えればドタドタと足音がしてバタンと扉が閉まる。
倉持は小さく嘆息して、それから苦笑い。




あんなだっせー話、御幸が真面目に話すわけねーのに。
馬鹿だなぁアイツも。


なんて考えて。
ん?と眉間に皺を寄せる。


……いや、でも待てよ。
よく考えたらあの頃の俺たちも相当……――









馬鹿中の馬鹿に向かって馬鹿馬鹿と













*続いちゃう、とか!



101127 再UP

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