さわむらくんとわかなちゃん の なつやすみ 「ねええーじゅん、ちゃんと夏休みの宿題やってる?」 「んー?なんだよきゅうに」 若菜の先を歩く沢村が振り返りもせず答える。 田んぼのあぜ道を覆うように茂る夏草。先日刈り取られたばかりのはずなのにもう伸び始めていて、サンダルから覗く素足をちくちくと刺激する。 沢村は赤いプラスチックのバケツを手に下げていた。中にはスルメとタコ糸が入っている。 これから2人でザリガニ取りに行くのだ。 「だってえーじゅん毎日あそんでばっかりだし」 「へぇへぇ。ったく、かーちゃんみたいなこというなよ」 「だって」 かーちゃん、なんて言われた若菜がむくれると、 「若菜、きょうは何日だ?」 「? 19日、だけど」 「じゃあよゆーだろ」 ふ、と沢村は足を止めて振り返った。 そして無駄に胸を張り、 「――おれたちの夏はこれからだ……!」 「そんな打ち切りのマンガみたいなこといって」 も〜、と若菜は嘆息した。 どうせまったくやってないのだろう。毎年のことながら、本当にどうしようもない幼馴染である。 再び意気揚々に前進を始めた幼馴染の後ろについて歩きながら、若菜はまたその背中に声をかける。 「えーじゅん」 「なんだよー」 「また2日くらいでまとめてやる気なの?」 「ふっふっふっ、きょねんできたからことしもできーるっ!」 「でもこんかい登校日には絵と作文ていしゅつだよ」 「………!?」 突然カチリと硬直した沢村。 やっぱわすれてたんだ、と若菜の目がじとりとしたものになった。 登校日は20日。つまり、やるなら今日しかない。 ぱくぱくと金魚のように喘いでいた沢村だったが、ぎぎぎ、と首だけ若菜のほうを向く。 それから親指を立て、無理やり、ニカッ、と笑った。 「さ、沢村せんせーの次回作にごたいきください……!」 「さわむらせんせー、『ごきたい』だとおもいますー」 じと目のまま間違いを訂正。 それから、手がかかるんだから、と嘆息して。 「べつに、てつだってあげてもいいわよ」 「ほ、ほんとか!?」 「そのかわり来週のおまつりでわたあめはんぶんこだからね」 「うおおりょーかい!若菜、さんきゅー!」 現金なもので、すぐに立ち直る沢村。 まったく、私がいないとだめなんだから。 困った弟を相手にした姉のような気分で苦笑し、「じゃあかえってすぐやろうよ」と若菜は来た道を引き返しはじめた。 来週のお祭りで、新しい浴衣に袖を通すのがもっと楽しみになった。 (えー?もうやんの?ザリガニつってからでもよくね?) (………) *おさななじみは さいこうだぜ! 130812 [*前へ][次へ#] |