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金丸くんと春乃ちゃん


びたーん!と豪快な音を立ててマネージャーが1人倒れた。
よもや熱中症か、と辺りの空気が緊迫したのも束の間。


「す、すみませぇん……」


倒れた――否、転んだそのマネージャーがむくりと起き上がるのを見た誰もが『あーあの子か』という顔をして興味をなくす。
野球部内でドジの代名詞としてすっかり有名になってしまった1年のマネージャー、吉川春乃だ。


吉川の辺りには点々と散らばる白球。どうやら磨こうとしていた球をぶちまけたらしい。
たまたま近くに居た金丸は、あーあ、と溜息を付いて一緒にボールを拾い出した。


「ご、ごめんね金丸くん」

「おー」


吉川は金丸のクラスメイトでもある。
それに、最近どこかの馬鹿の面倒を見ているせいでこういうのを放っておくことができなくなっているのだ。


「つか吉川ってよくコケるよな」

「そ、そんなことないよ。今日はまだ二度目だし」

「……お前いつか死ぬんじゃね?」

「えぇ!?なんでっ!?」


ガーンと目を潤ませる吉川。
1日に何度もコケるとかありえねー、と金丸が言うと、うー、と唸る吉川。反論はできないらしい。
金丸は嘆息した。


「……でもまあドジ以外は最初の頃よりマシ」

「え、本当?」

「おー。少しな」


確か5月くらいまでは吉川とは話したことがなかった。
同じクラスでしかも野球部マネージャーだというのに、全く、だ。
その頃の吉川を金丸はおどおどしてて鈍臭い、正直苦手なタイプだと思ってたのだ。


なのに気がつけば普通に話してて、クラスの野球部の集まりの中に居て、沢村の追試回避を一緒に喜んだ。
いつの間にか、金丸の中で吉川もついでに沢村も“身内”になっていた。


「金丸くんも変わったよ」


吉川は嬉しそうに笑った。


「最初とかすごく怖かったから私全然近寄れなかったもん」

「………あ、そう」


軽くショックだった。
だがにこにこ人懐っこく笑う吉川にまったく悪意はなさそうだ(それが逆に辛かったりもする)。


「ねぇ、私たちが変われたのって沢村くんのおかげだと思わない?」

「は?んなわけねぇし」

「えーそうかな?」


金丸はフンと鼻を鳴らした。
沢村のことは一応認めてはいるがあんな馬鹿が自分に影響したとは思いたくもない。
ごまかすように「つかお前も拾えよ」と吉川を促す。「あっ、ごめんなさい」と慌てて疎かになっていた手を動かし出した。


不器用な吉川は口と手を同時に動かすことができない。
そういうところが見てて鈍臭くてイライラしていたのだが。


今は、そうでもない。
吉川も吉川なりに頑張ってるのはよくわかってる。
そして金丸自身、頑張ってる奴は嫌いじゃないし支えてやるのも悪くないと最近気付いた。誰のせいとかは言わないが。


「えーと……うん、これで全部」

「あそ」


吉川が言うと、さっさと金丸は立ち上がった。
今から練習に向かう途中だったのだ。


「あ、金丸くん、ありがとね!」

「おー」

「えと、練習頑張ってね!」


なんとなく、だが。
吉川がぶんぶん手を振ってるような気がした。
だから金丸は苦笑して背中越しにひらりと手を振り返した。







金丸くんと春乃ちゃん








(よーし私も頑張っ……きゃあっ!)

(!)

(……はぅう、またやっちゃったぁ……)

(……もう知らね)








*世話焼き金丸とドジっ子春乃の間に沢村繋がりで友情的なものが芽生えてると良い。あくまで友情希望。



100913

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