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星霊たちの7days★Weekday★(河野麻深様リクエスト)
星霊界。
そこは人間には住めない、星霊たちだけの世界。彼らはそこに暮らし、そこに生き、“扉”が開かれるのを待つ。


星霊界は広大だ。人間界と彼らを繋ぐ“鍵”の座標はリンクしていると言えるが、人間界のたった数センチ四方は星霊界では約数万キロメートル四方にも及ぶ。そのためオーナーを同じくする星霊たちでもあまり交流を持たないのが一般的。
彼らは長い長い時間をほとんど独りで過ごす。


そうして今日も彼らは古き盟約により、“扉”を開いた人間に従う――





星霊たちの7days★





★Monday★処女宮と白羊宮★




その日アリエスの元を尋ねたのは同じ黄道十二門に属し、オーナーをも同じくするバルゴという星霊だった。
メイド服の彼女は基本的に表情を変えない。ほとんど交流のない星霊な上何を考えているかわからないバルゴに、人見知り(星見知り?)のあるアリエスはもじもじと脚を擦り合わせる。


「こんにちはアリエス」
「こ、こ、こんにちは〜」


アリエス相手にも、バルゴは丁寧な一礼。アリエスも慌ててそれに倣う。


「アリエスに姫から預かりものがあります」
「わ、私に……?」
「はい。姫はまだアリエスは先日の傷が癒えていないだろうということで、私に渡すように、と命じられました」


淡々と紡がれる業務的な説明に「はあ」と生返事するアリエスに。


「それから」バルゴは少し口調を柔らかくした。「あなたのことを、とても案じていました」
「――ルーシィさん……」


ルーシィはアリエスの新しいオーナーだ。もちろんバルゴのオーナーでもある。
星霊たちのことを友達と呼んでくれる。“死ぬ”ことのない星霊を心から心配してくれる。


今までのどんなオーナーの誰よりも優しく、温かい人。アリエスはまだ契約したばかりだがルーシィのことが好きだった。
バルゴも同じ気持ちなら、仲良くなれる気がする。
アリエスは笑顔をつくった。


「あ、あの、それでルーシィさんは私に何を?」
「はい。これを」


バルゴから渡されたそれは。


スリッパ。


しかも片方だけ。


「………」


私嫌われてるのかなぁ……?
アリエスは、ふにょにょ、と泣きそうになる。
バルゴはアリエスの様子に構わずに続ける。


「姫いわく、これでお兄ちゃ……レオを教育しろとのことです」
「はい?れ、レオ?獅子宮の?」
「はい。レオの女好きを矯正してやってくれ、と」
「レオが?女好き?」


アリエスは首を傾げた。
星霊にとってほんのわずかの時間とはいえ交流があるアリエスのよく知るレオは硬派で、オーナーだったカレンに誘われてもまったく靡かなかった。いつもびくびくしてばかりのアリエスにも優しくしてくれた紳士のような星霊だ。
女好きなレオなんて、アリエスには想像がつかない。


「知っての通りレオはここ数年の間いろいろありまして」
「え……」
「おそらく、人間界に長く居すぎた影響と思われます」
「………私の、せい……?」


レオが3年もの間星霊界を追放されていたというのは聞いていた。帰還において星霊王が関わるような事態があったことも。
だがそのせいで性格まで変わったなんて。オーナーであるルーシィを困らせているなんて。


――その原因をつくったのは私?
全ては、以前のオーナーのカレンから私を庇ったから……?


「――そんなことない!」
「え……」


バルゴらしくない口調で言われ、アリエスは俯きかけていた顔をはっと上げる。
目が合うと、ふわり、とバルゴは微笑んだ。


「姫ならきっと、そう言います」
「………」


アリエスの中にオーナーの――ルーシィの明るい笑顔が頭に浮かんだ。
温かく、優しく――この人のためなら、と星霊の誇りを強く胸に抱かせる笑顔。
ルーシィなら、アリエスの罪を望まない。絶対に違う、と強く否定してくれる。それから、あの笑顔で包んでくれるのだ。
そう思った途端、アリエスはふにょにょと顔を歪めた。


「あ、ありっ、ありがとうバルゴ〜」
「泣かないで下さい。私が姫にお仕置きされてしまいます」
「う、うん……ごめん」
「いえむしろお仕置きされたいのでもっと泣いてもらってもかまわないのですが」
「ぅええ〜?どっち〜?」


あはは、と笑いながらアリエスは涙を拭った。
バルゴは確かに淡々としてて、ちょっと変だ。
でも、優しい星霊。
仲良くなれる。強く、アリエスはそう思った。


「バルゴ、私頑張ってレオを元に戻すわ。ルーシィさんのためにも」
「はい、お願いします」
「でもこれ、スリッパ……よね?」
「はい。スリッパです。トイレの」
「トイ……ど、どうやって使えば?」
「簡単です。もしレオが暴走したら――」


とバルゴはおそらくアリエスの持つスリッパと対になるもう片方を取り出した。
ヒュッと手首のスナップをきかせて軽く振るい。
にこ、と無邪気に笑った。


「これでお仕置きしてやるのです」







★Tuesday★双子宮と金牛宮★




『………』
「………」


その星霊たちは睨み合っていた。
子供よりもさらにさらに小さな双子と大人よりもずっとずっと大きな牛。体格は違えど同じ黄道十二門に属する特別な星霊たち。
そして、その一方――牛を模したタウロスは、ついこの間敵として対峙した双子のジェミニにしてやられたばかりだ。


「……MO〜……」
『………』


オーナーに変身され、大好きな乳を使った色仕掛けされたとはいえ、タウロスにしてみればそれは屈辱的な敗北だっただろう。
変身していない間は無力に等しいジェミニは身構える。もし、何かあればすぐに何かに変身するつもりだ。
やがてタウロスはフン、と鼻息荒く。


「MO〜!」


と大きく天に吠えた。
『ピーリッ』と変身しようとしたジェミニに。


「──頼む!」
『!』


崩れ落ちる勢いのタウロスの土下座。


「ルーシィさんになってえっちぃポーズ取ってくれぇえええ!」
『絶対嫌』


――即答であった。







★Wednesday★宝瓶宮と天蠍宮★




「スコーピオぉン☆」
「ウィーアー!なんだいアクエリアス」


いちゃいちゃと人目もはばからず――まあ人目もないのが星霊界なわけだが――身体を寄せ合うのはアクエリアスとコーピオン。
広大な星霊界ではあるが、オーナーたちの人間界での“鍵”の座標が交わりでもしない限り星霊たちは交流することはない。
その人間界の指定する座標から外れるには人間界に自力で行くのと同等の魔力が必要になる。以前までのアクエリアスなら恋人のスコーピオンに会うため、星霊界で毎回魔力を使っていた。


だが今は。


「ああん、スコーピオン……あなたは何故スコーピオンなの?」
「ウィーアー、アクエリアス……君は何故アクエリアスなんだい?」


スコーピオンとアクエリアスはオーナーを同じくするため、いくらでも会えるしいちゃいちゃし放題。
あの小娘のおかげ、とは言わないが、まあ少しくらいならよくやったと言ってやってもいいだろう、とアクエリアスは思っていた。


しかしその前に。


「ところでスコーピオぉン、あのこむ――新しいオーナー私について何か言ってなかった〜?」
「ルーシィかい?」
「そう、るぅしぃ〜☆」


スコーピオンに“ルーシィ”って名前で呼ばれてんのかあの小娘。生意気な。つか余計なこと抜かしてやがったら殺す。なぶり殺す。
そんなことを考えているなんてまったく顔に出さず、アクエリアスはごろにゃ〜んとスコーピオンに甘えまくる。


「ウィーアー!言ってたぜ!」
「な、なんて〜?」


余計なことか?よし、殺――


「アクエリアスをよろしくってさ!」
「え……」
「時々怖いし我が儘だけど、自分が駄目なときは叱ってくれるしっかりしたイイ奴だからって言ってたぜ!」
「っ……あの小娘っ」
「ん?」
「ああん、なんでもにゃ〜い☆」


ごろごろにゃ〜ん。すりすりすり。
最初のほうは気に入らないが、まあいい。余計なことは言ってないようだし。
ふと今日が呼び出されてもいい契約の日だったと思い出す。
もしも呼び出されたら――今日だけはあの小娘を流さないでやるか、とアクエリアスは思った。


「ところでアクエリアス、今から二人で旅行でもどうだい?」
「きゃー行きゅ行きゅ〜☆」


やっぱり呼び出したらコ・ロ・ス☆






★Thursday★獅子宮と人馬宮と巨蟹宮★




「あーあ最近ルーシィ呼んでくれないなぁ」


レオが呟き、ため息をつく。
そのため息は重苦しく、本気で気にしているのが伝わってくるものだった。


今日のようにレオが大人しく星霊界でじっとしているのは珍しいことだ。魔力が強く、とある事情で人間界の空気に慣れたレオはふらふらと“扉”を開けて出掛けてしまうことが多い。ルーシィのところに行ったり、または違うところに行ったり。基本的にせわしない(落ち着きのない、とも言う)星霊だ。


「でもレオは自由に行き来してるでありますからして、もしもし」


そんなレオに、真面目に応えるのはサジタリウス。
その隣にはキャンサーも居たが、彼は基本無口なので、聞いてはいたのだろうが応えることはなかった。


「でもさ、喚ばれるっていいよねー。必要とされてる感じで」


ぼやいて、レオは無言でそこに立つキャンサーにサングラスの下の視線を投げた。


「昨日、またルーシィの髪きったんだって?いいなーキャンサーはひょいひょい呼び出されて」
「……エビ」
「サジタリウスもこの前喚び出されたばっかだしねー」
「いや、そんなことは……もしもし」
「あーあ、必要な君たちはいいなー」
『………』


完璧やさぐれてる……、とサジタリウスは思った。
ルーシィはまだ未熟で魔力が強くない。そのため強力な星霊を何度も喚びだしたりできないのだ。
強力な星霊は本当に必要なときだけ。あとは極力魔力が少なくてすむ“扉”を開く。
星霊魔導士として己の力を知るのは当然のこと。


なのだが。


「結局さ、僕じゃやっぱり特別にはなれないのかな。ルーシィは僕のこと……本当に必要なのかな?」


レオは呟き、そして再び嘆息。


「………」


キャンサーはまた無言。
正直相手にするのはめんどくさい、とサジタリウスも思った。


だがレオは人間界で決して弱音なんか吐くような星霊ではない。
仲間の前だから、ということであれば。
信頼してくれているのであれば。


「――それがしがルーシィ嬢に仕えることになりましたのはS級クエストの報酬だったからであります」


サジタリウスは、静かに言った。「?」とサジタリウスに向き直るレオに、「それがしは出会いとして、特別なものもないわけでありますが、もしもし」と続ける。


「しかしルーシィ嬢とレオの絆は特別であります。それゆえ、それがしには少しうらやましいですからして、もしもし」
「え……」
「その絆を、レオは疑うのでありますか?もしもし」


それは真面目なサジタリウスには許せないことだった。
レオのために、ルーシィは星霊王と真っ向から対峙した。ヒゲオヤジとまで言ってのけた。
その際、ルーシィはサジタリウスを含めた星霊を、“仲間を守りたい”という意思の元に顕現させてくれた。星霊王に一瞬でも仲間を思う気持ちを伝えさせてくれた。命を懸けた、何体にも渡る同時開門で。


その時、サジタリウスは本当にいい主に仕えたと思ったものだ。
その優しい主を少し喚ばれないくらいで疑うなんて。
サジタリウスからしてみれば――ふざけるな、だ。


「……そう、だよね。ごめんサジタリウス」


レオは苦笑した。


「あの時は、本当にありがとう。……キャンサーも」
「………」


キャンサーは小さく頷く。
ただ、レオを叱り付けたサジタリウスにもレオの気持ちもわからないでもないのだ。
レオがルーシィに特別な感情を抱いているのではないかと、琴座のリラがキャーキャー騒ぎ立てているのを耳にしたこともある。
だとしたら、思い人に喚ばれないというのは、普通の星霊がオーナーに喚ばれないよりも辛いかもしれない。


それでも。


それでも、サジタリウスだったら主であるルーシィの意志を誰より尊重する。
それがルーシィの星霊としての誇りだ。


「……うん。なんか久しぶりに愚痴ったら元気出たな」
「それはよかったであります、もしもし」


サジタリウスがニッコリ笑うと。
レオも笑い返し、「よし!」と気合いの一声。


「じゃあちょっと人間界行ってナン……遊んでくるね!」
「………は?」
「ルーシィから喚び出しあったら代わりに対応よろしく☆」
「も、もし……」


ぽかん、とするサジタリウスを残し。
レオは軽快なスキップで“扉”の向こうに消えた。


「……それが喚ばれない原因なんじゃないか?……エビ」


キャンサーの的確なツッコミはレオに届くことなく、星霊界に溶けたのだった。







★Friday★子犬座と琴座と南十字座と時計座★




「ねねねね、クル爺聞いてぇ!!!」


と現れたのは琴座のリラだった。相変わらずのハイテンションぶり。久しぶりに会ったクルックスは慌ててホロロギウムを呼んだ。


「最近ルーシィったら全然呼んでくれないのぉっ!レオより扱いひどいわぁ!私のこと忘れられちゃったのかしらっ!プンプン!!」
「プーン」
「違う違うニコラ……じゃなくてプルーの真似じゃないのぉ!ってかプルーはいいわよね。いつも呼び出されてて。あーあ私も歌いたい歌いたい歌いたい〜らら〜……あ、いい歌できちゃったぁ!きゃー!聴いて聴いてぇ!!」
「ほマ、だったら契約日増やせばよろしいでしょうに、と申しております」


リラの独特なキンキン声から逃れるため、時計座のホロロギウムの中に避難したクルックス。星霊in星霊。星霊界でもなかなか見られない珍しい光景である。
そんな中からもっともなことをいう、とは思うのだが。


「でもでもでもぉ、私これでも少し増やしたのよ?なのになのになのにルーシィってばぁ!!」
「プーン……」
「そうなのプンププンよね、プンプンププ〜ン!」
「ほマほマ、プルーを振り回してはいけませんぞ、と申しております」


プルーの腕を持ってくるくると踊り出すリラ。
リラという星霊は落ち着きがなく、人の話を聞かない。歌っているときが一番静かでまともなのだ。「私歌を歌うための星霊だしぃ、歌さえ歌えばいいのぉ〜!!」とはリラの弁であるが。
はあ、とクルックスはホロロギウムの中で嘆息した。


不意にリラは踊りを止め、「そぉそぉなんかね、噂で聞いたんだけどぉ」と再びクルックス(ホロロギウム)に詰め寄る。


「なんかねぇ、タウロスがレオのこと気に入らないんだってぇ!ほら、レオとルーシィの絆はちょっと特別だからヤキモチ妬いてるのよぉ。だから今度レオが帰ったらシメるとか言ってたんだぁ!面白そうだから見に行こ見に行こぉ〜!」
「プーン?」
「ね?プルーも面白そうだよね?一緒に行こうねぇ!」
「ププーン……」


余程暇をしていたのだろう。やけに楽しげに再びプルーと踊り出すリラに。


「ほマ……それはそれは、と申しております」


ホロロギウムの中のクルックスだけが静かに苦笑していた。







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