肯定すべきyesterdayだ【Gj*L】(リクエスト)
ガジルは2階から眺めるそのギルドの空気が好きだった。
階下には酒を飲み、馬鹿騒ぎするギルドの連中。
以前いたギルドは、ガジルからしてみれば仲間と呼ぶのも我慢ならないクソッタレな連中ばかりだった。
だが、ここは違う。
馬鹿みたいな連中だが、クソではない。そして、ガジルはそういう馬鹿は嫌いではないのだ。認めたくはないのだが。
「………フン」
輪の中には入らず、遠くから酒をちびりちびりとやりながら、毎日性懲りもなく騒ぐ連中を見下ろす。
しかしこの日。
そんなガジルに、
「おーい、ガジィこっちー!」
金髪の少女――ルーシィが大きく手を振ってきた。
肯定すべきyesterdayだ
「おーい、こっちー!」
声をかけられ、ぶんぶんと手――というか腕を振られたガジルは。
「………」
気のせいだったことにして身体ごと目を逸らした。
階下の声に背を向け、天井を仰けば。
「ガージールー。こっちだって、無視しないでよ」
「………」
この騒がしい中でもよく通る声が広い背中にさらに呼び掛ける。
「おーいガジルー。鉄分豊富な人ー」
「………」
「こっち降りてきなさーい。ガァちゃーん」
「………」
「ガァアアジィィイイイ!」
「………」
その粘着質で執拗なまでの叫びと微妙な呼び方に恥ずかしくなってきて、嘆息して下に降りる。途端にギルド内のざわめきが小さくなった。
未だに恐れられている自分。
だからなるべく離れていたというのに。
しかし、
「来たわねガジィ」
とルーシィはまったく気にすることなく笑顔で自分の隣を示す。
珍しくナツやグレイの姿はなく、一人で飲んでいたらしい。というか飲むのを見るのも初めてだな、とガジルは思った。
「つか何なんだその妙な呼び方は」
「アンタだっていつもバニー呼びするじゃないのよ」
「バニーはバニーだろ?」と、とりあえず指定された位置に座る。立っていると目立つ。これ以上の威圧感を周囲に与えたくもない。
「バニーじゃないっつのに、も〜」
きゃはは、と笑うルーシィ。
どうやらルーシィはすっかりできあがっているようだった。
真っ赤な顔に、とろりとした目。
色っぽいといえば色っぽいが、にへらー、と幸せそうに緩んだ笑みが全部台なしにしている。
ふと。
「プーン」
プルプル。
ガジルの前のテーブルで妙な生き物が片手?を上げる。
「……なんだこの生き物」
「私の星霊。可愛いでしょ?」
「ププーン」
と再び鳴いたそれを、じ、と見て。
突然、ガジルに衝撃が走った。
な、なんだこの汚れのないつぶらな瞳は……!
よく見ると全体的な丸いフォルムもたまらなく愛らしい。プルプルしてるのもまた愛くるしい。尻尾の微妙な長ささえ、完璧だ。
はわはわ、とガジルは手を空中で泳がせる。
抱きしめたい!いやだがしかし……!いやここは……!と葛藤していると。
「……プルーを怯えさせないでくれる?」
「!」
ルーシィの冷ややかな一言。
確かに最初よりプルプル具合が高まっている。ぬぅ、と喉で唸り、ガジルは手を下ろした。
すぐにプルーは「プーン」と鳴きながらルーシィの元へ。
ガジルが、チラ、と名残惜し気にプルーを見ながら、酒を一口やると
「ねぇねぇガジル、見てー」
「?」
ルーシィはいきなり自分のTシャツをめくりあげた。
「ぶばっ……!」
流石のガジルも酒を噴き出し、慌てて目を逸らせば。
ルーシィはさっと下ろしてしまう。
「見えた?」
「み、見てねぇよ!」
細い腰に白い肌、なんて。ブラジャーは白だった、なんて。しかもレース付きだったなんて――いや見てねぇ見てねぇ。ガジルは瞼にしっかり焼き付いたものを振り払うように頭を振った。
ルーシィはムゥと頬を膨らます。
「何よぉ。ちゃんと見なさいよ」
「おまっ……!」
露出狂か!とツッコもうとして。
「――アンタに蹴られてできた痣よ?」
「………っ」
ガジルは息を飲む。
――あの時の。
途端、じわり、と思い切り蹴り上げた右足に、彼女の腹の生々しい感触が蘇る。
「なかなか消えないのよね〜、これだけは」
嘆息して左脇腹を撫でる。
ガジルが蹴った、脇腹を。
「アンタさぁ、まさか忘れてないわよね?私に何したか」
「………」
「レビィちゃんたちはもう片が付いたみたいなことになってるけど、私はまだ何も許してやった覚えないわよ」
その目はもう酔っている目ではない。静かな、しかし、確かな憎悪を滲ませたそれ。
ガジルがフェアリーテイルに入った後、最初からルーシィはレビィのようにガジルを怖がったりしなかった。
普通に接してくれた。突っ掛かってもきてくれた。“仲間”にするみたいに。
だから、きっと、忘れてたのだ。
1番酷いことをしたのは、誰にか。
1番傷付けたのは、誰をか。
心も、身体も、1番痛かったのは誰だったのか。
謝る、などという気はガジルにはもちろんない。謝って赦されるものではないのはわかっている。だからレビィたちシャドウ・ギアにも口では謝らなかった。
どうすることもできないガジルは、結局、いつものように口を閉ざすしかない。
「――ねぇ」
凍り付いたように無言でいるガジルに、ルーシィは静かに言った。
「私、最近仕事してないの」
「……あ?」
「おごってよ、ここ。そしたらチャラにしてあげてもいいけど?」
そして、手にしたグラスを傾ける。乾杯しよう、と言うように。
そんなことでいいのか?と問うような目をすれば。
ルーシィはニッと笑う。親しみやすい、気さくな笑み。ギルドの連中に向けているのを、何度も見たそれ。
ガジルはギヒと苦笑し、ルーシィにグラスを傾けた。
「――ああ、わかっ」
た、と二つのグラスが合わさる前に。
「みんなー!今日は全員ガジルの奢りだってー!」
「!!?」
うおおおおおおおおっ!?
騒がしいギルドがいっそう盛り上がる。
「ち、ちがっ」と否定する前にカナが酒樽を1コ追加。それを皮切りに基本的に図々しいギルドの連中は次々注文を追加していく。
「いやぁんガジィ超優しい〜」
「プッププーン」
けらけら笑い、肩をバシバシ叩いてくる酔いどれとその星霊。
このアマ、とか思ったりもしたが。
「ガジルごちそうさん!」
「よっ、男前!」
「惚れるぜ!」
ギルドの連中から掛けられる調子のいい声。中にはまだビビりながら遠慮がちに「ごちでーす……」とか言う奴も居ないではなかったが。
それでも、悪い気はしなかった。
「あらガジィ、嬉しそうね〜」
「……フン」
「知らなかったわアンタがドMだったなんて」
「違……」
「はいかんぱーい」
ガジルのツッコミを許さず、勝手にグラスを合わせてくる。さらに「人の話をき……」「あ、あ、すみませーん!おつまみ追加でー!」とガジルの注意までスルー。
酒のせいか、ルーシィのテンポがおかしい。今日はどうも振り回されている感の否めないガジルは、酔いが醒めたら覚えてやがれ、と舌打ちした。
「――アンタさぁ」
おつまみが届き、漸く一息ついたルーシィは苦笑するようにガジルを見た。
「こんなふうにもっとみんなと混ざればいいのよ。あんなところでいっつも一人で見てないで」
「………」
「ガジィ、返事は?」
「……チッ」舌打ち。
「うわ生意気。ってゆーかどうせアンタのことだからまだ私たちのことを“ギルドの連中〜”みたいに考えてんでしょ?」
「………」図星だ。
「――ばぁか」
言って、
「私たち、“仲間”じゃん」
でしょ?とフェアリーテイルの印の入ったその手で、印の入った肩を叩くルーシィ。
一瞬。
ガジルは目を細めた。
どこまでも底抜けに明るい、ルーシィの笑顔。
いつだって、ガジルにも分け隔てなく向けられるそれは、ガジルには眩しいくらいで。
「――ルーシィ」
「え?」
今何て、という顔を向けてくるルーシィに。
「ガジル、だ」
「は?」
「ガジル。呼べ」
「ガジ、ル」
「……よし」
「?」
首を傾げるルーシィに満足げに頷くガジル。
とりあえずガジィ呼びだけは認めたくない。
それから。
「腹、悪かった」
「………」
珍しくガジルが謝罪の言葉を口にすれば。
ルーシィは、きょとん、として。
突然。
「あ、あー。うん」
目を泳がせる。おどおど〜とあちこちに。
そのなんとも言えない微妙な態度を訝しみ。
「……もう一度見せろ」
とガジルはルーシィのTシャツを掴んだ。
「へ?あ、ひゃんっ、やだって!こら!」
抵抗しようとするルーシィを力で押さえ込み――誤解を生む図ではある――無理矢理Tシャツをめくりあげて。
舐めるように肌に視線を滑らせた。
結果。
そこには、どこまでも滑らかな白い肌しかなかった。
「………」
「え、えへ☆」
「……バニー」
「は、はーい」
気が付けば、まるでガジルがルーシィを組み敷くような体勢。
それどころではないルーシィはプルーで顔を隠し、隙間から上目使いで覗いてくる。
ガジルは、ギヒ、といつものように武骨に笑った。
「次はピンクにしろ」
「は?」
と、ガジルに胸の上までシャツを捲くりあげられた自分の状態――つまり下着はまる見え――に気付いたルーシィは。
みるみる顔を酒とは別の意味で紅潮させ。
「変態っ!」
とガジルに向けて何かを振り下ろす。
まあ、ビンタくらいの罰は受けるべきだろう、と心に決め、甘んじて受け入れようとしたガジルの額に。
ぐざっ
「!」
プルーの鼻が突き刺さった。
* * *
プルーにはわはわしちゃうガジルくんが書けて楽しかったです。何より大事なのは、そこ。
本当のリクエストにあったファントム編の話は書けず申し訳ないです。でもガジルくんはフェアリーテイルに入ってからのほうが輝いていると思います。はわはわしていると思います。
ガジルーリクエストありがとうございました!
*リクエスト下さった方のみお持ち帰りも可能です。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!