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彼女がパジャマを着た理由《後》(Cait Sith Whisker*歌海ねこ様/相互記念)
前回までのあらすじ。
パジャマパーティでなんやかんやあったとさ。


で。


「――開け、処女宮の扉!」


ルーシィは“扉”を開いた。
おいしい夜食を求めて。






彼女がパジャマを着た理由《後》






「――お呼びでしょうか?」


ぽん、と紙袋が弾けるような音を立てて主の呼びかけに応えたのは、相変わらず無表情のメイド服の星霊――ではなかった。


白いエプロンにヘッドセットまではいつもの通り。だが彼女が纏うのは濃紺のメイド服に代わり、ルーシィたちと似たデザインのパジャマ。
もちろん何かの狙いかのように下は履いていない。肉感こそないが、すらりとした少女特有の細身の美脚がたまらなく眩しいのである。


「えーっと……」


そんな星霊をぽかんと見ていたルーシィだったが、やがてのろのろと彼女を指差した。


「……なんでパジャマ?」
「はい。パジャマパーティとお聞きしましたので」
「……アンタも参加したかったのわけね」
「お仕置きですか」
「しないって」


といういつものやり取りに、「成程、パジャマにエプロンも萌えですなー」と一人ふむふむ頷くレビィに、「……レビィ何言ってんの?」とちょっと引き気味にビスカ。
今日のレビィの妙なテンションにはちょっぴり身の危険を感じているビスカである。


「あ、そうだ。バルゴ、用件なんだけど」
「――わかってます」
「え?」


その次の瞬間。


『おおおお〜っ!』


どよめきが怒った。
魔法のように美味しそうなお菓子現れたのだ。
バルゴは丁寧に一礼してみせる。


「――星霊界で用意してきたお菓子とお紅茶、カナ様にはお酒とおつまみでごさいます。どれも低カロリー且つ美肌効果のあるものばかり揃えてみました」


なんとも気の利くバルゴの説明にさらに盛り上がる。
時間も時間なので乙女にカロリーは天敵だ。
さっそくバルゴの用意したお菓子を摘みながら、


「それでは、改めて女だらけのチキチキポロリ有りパジャマレースを再会しまーす!」


とミラジェーンが言うと。
ジュビアがあれ?と首を傾いだ。


「さっきとタイトル違いませんか?ってゆーかポロリって……」
「ふむ。そろそろルーシィが脱ぐ時間ということだな」
「は?エルザ何言って……」
「わかりました。それでは」
「きゃあ!こらバルゴ、何して……!」
「お仕置きですか?」
「しないから脱がすな!」
「むふふ、仕方ない。カナさんが代わりにお仕置きしてやろう〜」
「せんでいい!」
「あ、ぜ、是非っ……」
「こらバルゴっ!」
「嫉妬ですか?」
「違うわよ!」


わいわいがやがや。
菓子効果で再び騒々しくなるのをなんとかエルザが押さえ込み、「じゃあルーシィからね」とミラジェーンが改めてスタートしようとしたら。


『ちょっとまったぁ!』


割り込んだのはなんとカナとエバーグリーンだった。


「ルーシィの前にミラ!やっぱりアンタ先に話なさい!」


カナがずびし!っとミラジェーンを指差した。
「あら私?」、と指名を受けたミラジェーンが困ったように小首を傾ぐ。
するとエバーグリーンが「そ、そーよ!」と声を荒げた。


「フリードがどうとか、元雷神衆として気になるんだからね!一応!」
「わあ、ついにエバさんが打って出ましたね!」
「いいわよエバ!もっと言ったれ!」


やんややんやと盛り上がる。
何しろあのミラジェーンが初めて持ち出した男の名前である。
グラビアをやってる看板娘でもあり、正直かなりモテる彼女。だが、レビィやルーシィ以上に色恋の噂は聞かない。
そんな彼女がまさかフリードのことを?
気になる。皆気になって仕方ない。


「うーん、さっきも言ったけど」


皆にせがまれたミラジェーンは微笑して告げた。


「フリードは可愛いと思うわよ」
「か、可愛い、だけかしら?」とエバ。
「ええ」
「ラブは?ああん好きっ、グチャグチャにされたいわーん!とかは?」
「ないわねー」


ほわわん。
カナの過激な質問にもミラジェーンは笑顔のまま応じる。


「ナツもグレイもフリードもビックスローもジェットもドロイもエルフマンもアルザックも、みーんな可愛いわよね」
『あ……そう……』


ミラジェーンらしすぎる答えに皆はがっくりと肩を落とす。
おかげで、この名前を上げられたメンバーになら含まれてもいいはずのある人物の名前がなかったことに気付く人間は居なかった。


「ねぇねぇところで私ね、ナツはルーシィのこと好きだと思うの」
「そ、そうなのか?」
「信じないでエルザ。ミラさんが言ってるだけ」
「ああああのっ、グレイ様はどうですかっ?」
「んー、グレイはねー……ハッピーが好き?」
「なっ」
「つ、つまりネコミミ萌え……」
「シャルル、ジュビア、信じちゃ駄目よー」


ビスカがやんわり否定した。


「でもさー、実際ギルドの男共ってどう思う?」


言って、カナが酒を呷る。


「あ、アルは」
「はいはい好きな人以外ねー」


のろけ話をしそうになったビスカをすぱっと遮る。
えー急に聞かれてもなー、みたいに彼女たちは少し困ったように笑って。
一斉に口を開いた。


「馬鹿が多い」
「基本ガキっぽい」
「恋人は絶対無理」
「へたれ」
「私より弱い」
「全員ボケ」
「ガジルさんはちょっと怖いです」
「ツッコミ不在」
「いい人止まりかな」
「てゆーか正直有り得ないわね」


あえて発言者は伏せさせていただくが、こういうときの女に容赦はない。こんな本音を男が聞いたら真っ青になることだろう。もしくは泣き出してしまうかもしれない。
好きなようにこき下ろして、男を評価する。女にはその権利があると思っているのだ。
そしてこの直後男達に会ったとしても笑顔の仮面を忘れない。
そういう恐ろしい生き物だ。


「……申し訳ございません、姫」
「きゃ!ま、まだいたのバルゴ!」
「お仕置き」
「しないわよ」
「………」


全部言わせて貰えなかったことに傷ついたのか、心持ちしょぼんとする。
しかしすぐに気を取り直し――優秀なメイドとしてのプライドである――バルゴは静かに一礼した。


「では皆様、私は失礼させていただきますが、このあと……」


と言った瞬間。


「きゃあああああルーシィイイ!」


キンキンとする声が響いた。
特に「ひゃうぅ!」「きゃぁ!」とウェンディとシャルルは身を縮こまらせて耳を押さえている。
二人共耳がいいのだ。
突然現れた星霊――やはりパジャマ仕様――は落ち着きなく手を振り回し、来たよ来たよ!とアピールする。


「り、リラ!?」
「ひどいひどいぃ!なんで呼んでくれないのぉおお!?パーティなら私の歌が必要だと思って私ずっとずっとずっと待ってふぎゃっ!」


リラの首根っこをむんずと捕まえたのは、てっきり入れ違いに帰ったものと思っていたバルゴだった。


「失礼いたしました。さあリラ、帰りますよ」
「え、え、え?だってまだ私出たばかり……」
「帰りますよ」
「やあああんバルゴちゃん私歌いたぁあああい!?」
「星霊界でどうぞ」
「やだやだやぁだぁ!ルーシィに聴かせたいのぉおおおお!」
「却下です」
「ひどいひどいひどいぃいい!バルゴちゃんの意地悪ぅううううう!」


あ、これ同時開門だなーなんて他人事のようにルーシィが考えている間に2体の星霊は姿を消した。
瞬く間に静かになるルーシィの部屋。
リラに慣れていない皆はあまりの存在の濃さに呆然としている。


「ルーシィ、お前の星霊は騒がしいのが多いな」
「うぅ、すみません……」


唯一慣れていたエルザに言われて小さくなる。
後でよく言っておきます、と頭を下げれば皆は漸く我を取り戻し、すごかったねー、なんて顔を引き攣らせて笑う。


「さて、反省ついでにルーシィの恋バナにいってみるか」
「えっ?」


エルザは不敵に笑う。これを狙っていたのだとばかりに。
また回ってきてしまった、とルーシィは顔色を変える。
だが逆に散々焦らされた他の皆はきゃあ〜と一際高い声を上げた。


「ルーシィ、早くしてください。ジュビアが後につかえてるんですよ!」
「き、聞いてあげてもいいんだからねっ!」
「ほら、言ってしまえ」


とジュビア、エバーグリーン、エルザが促し、


「あの、やっぱりナツさんでしょうか?」
「いやいやまだロキがいるわよ」
「ガジルって手もあるんじゃないの?」
「うふふ大穴はエルザね」
「私か!?」


ウェンディ、ビスカ、シャルル、ミラジェーンが好き勝手予想し、


「オラオラ言っちゃいなさいよぉ」
「ルーちゃぁん、言わないと触っちゃうよぉ?」


カナとレビィが手をわきわきさせて脅した。
ルーシィはあうあうと声にならない声を上げる。
集まる注目。興味津々の目。もう、逃げ場はない。


「〜〜〜わかったわよ!もう!」
「お、ついにルーシィが腹を括ったわよ!」
「カナ、しーっ!」


ミラジェーンが止めて、ルーシィ告白の場は完璧に整った。整ってしまった。
そして。


「わ……わ、私の好きな人はっ……」


ついにルーシィが、口を開いた。
それはもう今にも泣き出しそうなくらい顔を真っ赤にして、もごもごとさせていた口を開いたのだ。


と、同時に。


ぽん、と軽い音がした。


「――お、お呼びでしょうかっ?」


もこーん、と突然現れたのは羊のような姿の女の子だった。残念ながらパジャマではない。
もじもじっと膝をすり合わせ、ふにょにょ、と瞳を潤ませる――アリエスである。
ルーシィは呆然としながら彼女を見上げた。


「……いや、呼んでないけど?」
「ふえ?……はぅ、そうでしたっ!か、勝手に出て来てすみませぇえん!」


オーナーに向かってぺこぺこ頭を下げる。
最初は突然の来訪者に皆一様にぽかんとしていたが、注目を一身に受けたアリエスが顔を真っ赤にしてもじもじもじもじし始めれば、嗜虐心をくすぐられたカナは鼻息を荒くした。


「ちょ、何この羊っ子!ムラムラするっ!」
「ふえぇ!?すみませぇえんっ!」
「カナ!アリエスをいじめないの!」
「えぇ?いじめないわよぅ。ちょっとこう、キモチよく……」
「しなくていいの!」
「あ、あのあのあのっ!」


羊娘はカナから逃げながら、どこからともなく大きな水瓶を取り出した。
流石は星霊。ルーシィたちがぎょっとする中、たっぷり水の入ったそれを軽々と抱え上げ、どすん、と皆の中央に下ろす。


「えと、あの、それでは私はこれでっ!」


もじもじっと礼をして去った。
いったい何だったのかしら今の……と呆然としていると。


ざばん。


水瓶から勢いよく何かが現れた。


「――オイ小娘。恋バナに何故私を呼ばない?」
「あ、アクエリアス!?」


人魚の姿をした星霊アクエリアス。ルーシィの持つ星霊の中で、色んな意味で“最恐”の星霊だ。
うわぁアクエリアスまで自力で出てこれるようになってたのか――と、ルーシィは頭の片隅で考えた。


「ってゆーかアンタ今日契約の日じゃ」
「――口答えか?」


ぐわし、とルーシィの顎を掴む。


「一丁前に、この私に、口答えしたのは、この口か?あん?」
「しゅしゅしゅしゅみましぇん……」


ぷにゅぷにゅ、と頬を潰し、ヤクザ屋さんも尻尾を巻いて逃げるくらいのガンをくれるアクエリアス。
誰もが知っているとは思うが、ルーシィはアクエリアスのオーナーである。念のため言っておいた。意味はない。


「この中で今唯一の彼氏持ちだぞ、唯一の。話を聞きたいだろ?うん?」
「そ、そーですねー」
「よーし小娘ども、今からオーナーに頼まれた私が本当の恋愛ってもんを教えてやる」
『えぇっ!?』
「……なんだ?文句あるのか?」


ちゃぽ、と水瓶の中で水が揺れた。皆の顔からざあっと音を立てて血の気が引く。
この星霊、その気になればこの部屋でだって大洪水を起こせる。そしてそこにオーナーが居ようと容赦なんてしない(というかむしろ喜んで巻き込む)。
あわあわと誰もが恐怖に震える中、エルザがそっとルーシィに耳打ちした。


「ルーシィ、強制閉門したらどうだ?」
「したら殺す」
「す、すまん……」


聞こえていたらしい。
エルザまで目だけでビビらせるアクエリアスの迫力。エルザが駄目ならもうここに反論できるものはいない。


「よし、そこの小娘……そう、お前だメガネ。私の分の菓子を用意しろ。紅茶もだ」


あのプライドの高いエバーグリーンさえびくびくとアクエリアスの分を準備。
そう、最早彼女たちに抗う術はなし。
皆、腹を括った。





――こうして楽しいパジャマパーティはアクエリアス様のノロケ大会朝までコースに変更を余儀なくされたのだった。


「でねでね、スコーピオンたらぁ〜ん」
「はうぅー」
「我慢してウェンディ。寝たら死ぬわよ」
「ちょっとルーシィ、なんとかしなさいよ!」
「ルーちゃぁん」
「ジュビアも恋バナしたいですぅ!」
「ルーシィ」
「はうぅ〜」
「すぴー」
「――そこのちょんまげ娘、起きんかぁい!」
「ああっミラさーん!?」













* * *
大っっっっっ変お待たせいたしましたぁあああ!もう、どんだけってくらいの長さだし!
でも女の子たち大好きな私としては絶対に妥協ができない内容でしたのでもう最後まで全力投球MAX130(それほど速くもない)でお送りさせていただきました。なのにぐだぐだ感すみません!
歌海さん、今更ですみませんがどうぞ相互記念としてお納め下さい。
そして相互本当にありがとうございました!これからもよろしくお願いします!


もす

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あきゅろす。
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