[携帯モード] [URL送信]
それはもう、愛ではなくて別の何かだ【G*L】(pukapuka*氷良様/相互記念)
初めて見た時の感想。
へぇー、可愛いじゃん。


で、話してみたらいい奴で面白い。
見た目によらず純情ってのもけっこうツボ。


時間が経って、チームになって、傍にいるのが当たり前になって。
気がつけば、顔を見るたび構ってやりたくなるし、お願いされたら叶えてやりたくなる、そんな存在になっていた。


アイツに向ける感情。
一言で表すならばそれはもう、確実に『愛』以外の何物でもない。



――まあ、あくまで“妹”みたい、が前提だが。




* * *




「う、わー、走っ……たー」


息を切らしながらルーシィは薄暗い玄関にへたり込んだ。
その拍子に頭から被っていた白いシャツが床に滑り落ちる。慌てて拾おうとしたそれを、グレイが横から拾いあげた。


「俺洗面所に居るから早く着替えろよ」
「あ、こら、濡れたまま……!」
「あとで拭きゃいいって」


口うるさくするときだけは元気なルーシィに思わず苦笑。水を吸って重くなったシャツを右肩にかけたグレイは部屋の明かりを付ける。
魔水晶の照明が照らす中、髪や服から水滴を床に垂らしながらルーシィの部屋をずかずか進み、目当ての引き出しを開けて新しいタオルを二枚取り出した。
「ほら」と一枚はルーシィに投げ、残り一枚を自分で頭からかぶったその時、


「ってなんでそんな淀みなくタオル取り出せるのよ?」
「………」


ルーシィのツッコミにグレイは一瞬動きを止めた。
言わんとすることがよくわかったからだ。
手にしたタオルを見て、今し方、まったく迷うことなく自分があさった引き出しを見て。


「……さてと」
「さてとじゃない!ちょっと待って。まままさかグレイ他のっ、ししし下着の場所とかも知ってるんじゃ……」
「さてと」
「さてとじゃなぁああい!?」


ヒステリックなツッコみから逃げるようにグレイはそそくさと、これまた勝手知ったる洗面所に消えた。






――突然雨が降り始めたのは、二人がギルドを出て数分してからだった。
傘はなかった。しばらく雨宿りしてはみたものの、一行にやむ気配はなく、むしろ次第に本格的になりはじめたそれ。
やがて二人は腹をくくった。
雨打たれながら、1番近いルーシィの家までとにかく全力で走る腹を。


その際にグレイは着ていたシャツを脱ぎ、少しはマシだろうとルーシィに頭から被せてやったのだ(「グレイが意味を持って服を脱ぐだなんて!」と大袈裟に驚かれたので、そこは額を小突いて黙らせた)。
しかし残念ながらシャツもほとんど意味をなさなかったようだ。
二人が部屋に着いた時には、二匹の濡れ鼠ができあがっていた。







「……牛乳、温めたわよ」
「サンキュ」


カップに注がれたホットミルクがほかほか湯気を立てる。寒さには殊更強い体質だが、体温を奪われた身体に温かいミルクが染み渡る瞬間は心地良い。


お、ハチミツ入り。
ルーシィの隣に腰を下ろしたグレイは口元を綻ばせた。

こういう細やかな気配りが女の子だよな、と感じる。
服だってそうだ。着替えもなくタオル一枚で出ようかと思っていたところ、星霊のバルゴに用意させてくれた(まあ正直自分はタオルでもかまわなかったのだが)。


それにしても。


「んだよルーシィ。まだ怒ってんのか?」


隣で同じミルクを啜る、あまりにもぶっすーとしたルーシィの横顔。
不機嫌ですよー、怒ってますよー、と露骨に訴えかけるそれにグレイは苦笑した。


「誰も見ねーって。あんな用途不明の下着」
「がっつり見たんじゃないのよ!」


顔を真っ赤にしてテーブルにカップを乱暴に置く。
恥ずかしいならもっとちゃんと隠しときゃいいのに、と思ったがこれ以上機嫌を損ねるのもあれなのでそこには触れないことにした。


「――で?」
「へ?」


グレイはニヤリと笑った。


「あれは使用したことあるんですかね?」
「グレイ、セクハラよそれ。ってゆーか見たって認めてるし」
「なんだ。ないのか」
「あああああるに決まってるでしょオホホホホ〜」
「おー目が激しくクロールしてんなー」


言って、ふ、と柔らかく微笑む。


「――ま、なさそーでよかったよ」
「えっ」


それどういう意味?みたいにルーシィが顔を強張らせるが、グレイは気付かないふり。
しれっと甘いミルクを口に運んだ。


ふと窓を見ると雨はさらに強くなったようだ。
風まで強くなって、夕立どころか本格的に嵐にでもなるんじゃないだろうか。


「あの時走っといて正解だったな」
「ほ、本当ね」


ルーシィがいつもの調子を“装って”返事。
そこでグレイはあえて口を閉じる。すると沈黙に耐えられなかったルーシィが「で、でさ」と妙に明るい声を上げた。


「ご飯どうする?」
「ん?」
「だって雨が止むまでは居るんでしょ?」
「居ていいのか?」
「そりゃこの雨の中送り出すほど鬼じゃないわよ」
「――じゃあ一晩やまなきゃいいのにな」
「へ?」
「そしたらお前もあの下着付けられるし」
「はっ?そ、なっ……!?」


小刻みな奇声を上げながら、カチン、と音を立ててフリーズするルーシィ。
持ち前の純情さを全開にするルーシィに、グレイは熱い視線を向けた。するとルーシィははわはわとさらに困惑しはじめる。
そのあまりの可愛さにグレイはついに我慢ができなくなって――


ぷっ、と噴き出した。


「……へ?」


途端にルーシィはぽかんとする。
グレイはくつくつと肩を震わせながら「あーもうチクショウ」と耐え切れなかった自分を悔やむ。
折角ここまで“伏線”を張ったのだから、もうちょっと楽しみたかったのに。


「かかかかからからかったわねっ?」


ルーシィは目を潤ませながらグレイを睨んでくる。
ルーシィには悪いが、いちいち反応が面白いのでつい意地悪してやりたくなってしまうのだ。
「悪い悪い」と平謝りしながらまだほのかにしっとりとした髪に手をやる。


「冗談だって。お前をそんな目で見たことねーし」
「……ないの?」
「おー。ないない」


ルーシィのことは愛しいとは思うが、この年頃特有のガツガツした欲求は沸いてこない。
一緒に居ても心は穏やか。まるで外の豪雨とは真逆。常に静かに凪いでいる。


たぶん、これが『愛』ってやつなのだろうとグレイは思う。
口にしたら痛いから言わないが。


「な、なーんだ残念っ!」ルーシィはフンと鼻を鳴らした。「私、グレイのためにならあああアレッ、つけてもよかったのに……!」


なんて言いながら、ちらりと上目使いされたら。


「へーそりゃどうも」


からからと笑って頭をぽんぽん叩く。


「……コラ、ちょっとくらいドキドキしなさいよ」
「してるしてる」
「嘘だー」
「ホントだって。ほら胸触るか?」
「セクハラですから!」
「シャレ?」
「違う!」


自分で仕掛けておきながら真っ赤になってる純情な女の子。愛しくてたまらなくて、思わず笑みが零れる。
ったく、可愛い奴め。
もちろん“妹”みたいなものとして。


そんなことを考えながらうりうりと動物にするみたいに髪を掻き混ぜていると「もうっ」と手を振り払われた。
どうやら調子に乗りすぎてしまったようだ。
「わりぃ」と謝るが。


「………」


無反応。


「……ルーシィ?」
「………」


完全無視。
ただそっぽを向くだけで席を立たないということはご機嫌を取れというサインだ。
だからグレイは低くかすれた柔らかい声を出した。


「――なあ、機嫌直せよ」
「………」
「ルーシィ、ほら」
「………」
「そんなことしても可愛いだけだぞ?」
「………」


ピクリと微かな反応。しかしまだ許してはくれないらしい。
グレイは甘ったるい苦笑を漏らした。


「ルーシィ」


そっぽを向いたルーシィの頬を指先で撫でる。
すべやかで触り心地がいいそこを指先でくすぐるように。


それでもまだ“頑張って”無視してくれるルーシィ。だからグレイはちょっと方法を変えた。
身を乗り出して、今まで指があったそこに。


唇で、触れる。


「………」


……ん?


今のは何かおかしい気が――なんて考えている間に、ルーシィは漸く振り向いてくれた。
その目の周りは今にも泣きそうに真っ赤。


「グレイ……?」


これもまたからかってるの?と不安げに濡れた瞳が揺れた瞬間、今までずっと静かだったはずの水面がざわりと波立つ。
違う、の意味を込めて一瞬だけ、淡く唇同士を重ねる。
見開かれたルーシィの目。しかし拒絶の色はない。


これは、なんだ?何かおかしくないか?
これがさっきまでと同じ『愛』か?
この気持ちは、衝動は、何だ?


「………」


唇だけで音にはせずに名前を呼ぶ。
それを合図にルーシィの長い睫毛が震えて、ゆっくり伏せられた。


再び唇に。
今度は、少し長めに。
自分のより多めに入れられてたらしいハチミツの味まで知ることができた。







「……まだ雨降ってるわね」
「……だな」


互いに何事もなかったふりをしながら、窓に視線を移す。
確かに雨は降っているが、少し勢いを無くしたように思える。この分だとあと1時間もすればやむかもしれない。


グレイは窓を見るルーシィの横顔をこっそり窺う。
こうして見ていても心は妙に静か。先程のようにざわめく感覚はない。
やっぱりさっきのも『愛』なのかと思っていると、不意に、つい、とルーシィの視線がグレイに移った。


「……グレイ」
「なんだよ」
「服着れば?」
「はっ!?」


いつの間にか脱いでいた服を慌てて纏えば「折角用意してあげたのに意味ないわねー」といつもの軽口を浴びせられた。
ふとルーシィが椅子を立ち上がる。どこ行くんだと視線で問えば「ご飯」と返って来た。


「食べるでしょ?」
「作るのか?」
「まあ残り物でだからどうなるかわからないけどね」
「いや――ルーシィの作るもんならなんでも楽しみだ」


言った瞬間。
ルーシィはかあああと頬を紅潮させた。そのまま全力で逃げるようにキッチンに向かう。
グレイは唖然。いちいち反応が良すぎるのが面白いルーシィだが――これは少し異常だろう。


「……やべー」


しかしながら自分もつられて赤くなってることに気がついて、グレイは慌てて氷で頬を冷やす。


今まではこんなことなかったはずなのに。
ちゃんと仲間として家族として兄として接してきたはずなのに。


『愛』だったはずなのに。







――――それはもう、愛ではなくて別の何かだ






別の何かって――



『恋』かよ、チクショウ。








* * *
お待たせしました!氷良さんに相互記念グレルー!
リクエストが甘い〜だったのですが……あれ?甘い、かなこれ。少女漫画かなこれ。カッコイイグレイを目指したらただのニブチンのケダモノなグレイになってしまいましたごめんなさい何か途中で間違えたことに気付きましたが手遅れでした。まる。
ナニワトモアレ、かなり今更ですが相互ありがとうございました!これからもよろしくお願いします。






使えなかったおまけ↓

食事中。


「ねぇグレイ」
「ん?」
「このあと、私あの下着付けたほうがいいかなぁ」
「……!!?」
「ぷぷっ、やーねぇ冗談に決まってるじゃないのー」
「な……」
「やだもうグレイってば真っ赤になってかーわいーんだー」
「………っ」

クソ、やられた……!


(形勢逆転)

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!