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どう名づけても同じさBaby【N*L】(ゆん様リクエスト)
「どうしてナツはルーシィとチームを組むことにしたの?」


ある日ナツはミラジェーンに訊かれた。
今までハッピー以外とは仕事したことなかったのに、と。


ルーシィだからだ、とその時ナツは即座に答えた。
考える必要さえなかった。


「あらまあ、それじゃあルーシィはナツの特別なのね」


――特別?


「だってそうでしょ?」


それが当然のようにミラジェーンは言う。いつもの和やかな笑みで。
だから、


――……そっか。うん。そうだな。


ナツは頷いた。


――ルーシィは、特別だ。


無邪気な笑顔で頷いた。
ミラジェーンの示す“特別”の意味も知らずに。
考えることさえせずに。




もう、1年も前のことだ。







どう名づけても同じさBaby








「わー、ここ涼しーっ」


ルーシィの軽やかな声が洞穴内に反響する。
彼女の開口一番の感想通り、ひんやりと流れる程よい空気が夏の太陽に焼け付いていた肌の痛みを和らげてくれる。
マグノリア東の森に位置する鍾乳洞。そこに、ナツとルーシィは来ていた。


実はナツも初めて来たのだが、ここでは照明代わりの炎は必要ないようだ。何か特殊な鉱石でも混じっているのか、辺りの岩は淡く光りを放っている。
その光景はどこか神秘的でさえあった。


「あ、そういえばなんで今日ハッピーは一緒じゃないの?」


不意にルーシィは尋ねた。
エルザとグレイはともかく、ナツとは何処に行くでも一緒のハッピーが居ないことが気になるらしい。
ナツはどこからか漂う湧き水の臭いに鼻を鳴らしながら答えた。


「今回はハッピーが一緒じゃ都合がわりぃんだ」
「へ、へぇ〜……わきゃっ!」


悲鳴が上がる。
振り向けばルーシィが両手を広げたなんとも間抜けなポーズで固まっていた。どうやら転びかけてなんとか持ち直したところのようだ。


「あ、あっぶなー……」
「歩きにくい格好してくっからだろ」
「うるさいわね。だったら手ぇ貸しなさいよ」


何が、だったら、なのだろうか――という疑問もないこともなかったが、偉そうに言い放たれたそれにナツはギクリとした。
それでも断る理由などなく、「ほら」と差し出すとそっとルーシィのそれが乗る。
ナツより一回り小さく、柔らかい手。ここに来て冷えたのか少しひんやりしているそれを、そっと、壊れないように気をつけて握る。


「ありがと」
「………」


礼を告げるルーシィ。ナツは何故か顔も見れずにむっつりと押し黙り、その手を引いた。人が二人、やっと通れるくらいの道を肩を並べて進む。
大きさ、感触、温度。そんなものを全く意識していなかった頃が嘘のようにひとつひとつを確かめてしまうのはいつからだったか。痛くないようにと気遣ってしまうようになったのは、いつからだったか。


「ねぇ、どこまで行くの?」
「んー、もう少し奥だと思う」
「だと思うって……」


最近になって、ナツは漸く“特別”の意味を考えるようになった。
ルーシィが“特別”なのは何故か考えるようになった。
だが何度考えたところで答えは一向に出ない。まるで苦手な計算問題でも押し付けられた時みたいに。


「ま、迷わないわよねっ?」
「いざとなったら来た時の匂い辿れば大丈夫だろ」
「アンタは犬か」
「うっせ。ルーシィの匂いがあればできんだよ」
「………あ、そう」


ルーシィの手が一瞬震えて、握る力が強くなった気がした。
怖いのだろうか。握り返してやるべきか、でも痛くしたら、といろいろ考えていると、


「あれ、ここだけ広くない?」


言って、ルーシィの手がするりと解けた。
それを惜しいと思いつつも、ナツはルーシィに倣ってその場を見回す。


確かにそこはここまでよりずっと広く、横幅もざっと見てギルドのメインプールくらいはあるだろう。天井は高く、2階建ての家がすっぽり収まりそうな空間だ。
ふむ、と唸り、ナツは纏まらぬ思考を一旦脇に置いた。


「――てことは、この辺だな」
「は?」


何の話?みたいにルーシィが首を傾いだ瞬間。



キシャシャシャシャァアア!



洞窟の更に奥から甲高い音――否、声が響いてきた。


「へ?ななな何何何何っ?」


戸惑うルーシィ。
次の瞬間、視界を埋め尽くさんばかりの黒い何かが飛来する。
吸血蝙蝠の大群――それも普通の蝙蝠の2倍の大きさはあった。


「きっ……」


ルーシィは目を丸くして息を飲んだ。


「きゃあああああああああああああ!?」
「おし、やっぞー」


全力で悲鳴を上げるルーシィに対し、ナツはぐるぐる腕を回して準備運動。
やる気十分といった体だ。


「は?ややややるってなな何をっ?」
「だから仕事。洞窟の巨大蝙蝠退治」
「はぁ!?そんなの聞いてないわよ!」
「んん〜?」


ナツは炎を両腕に纏いながら首をひねる。その間に縄張りを侵されて気が立っているらしい何匹かを燃やす。
やがて、ぽん、と手を打った。


「あ、わり。言うの忘れてた」
「わり、で済むかぁああああ!?」


ツッコみながらルーシィは慌てて鍵取り出す。ナツとチームになって慣れてきたのか、彼女もこういうときの切替えは早い。


「ううう……もしかしたら、とか期待した私がアホだった……」
「あ?何か言ったか?」
「なんでもないわよっ!――開け、金牛宮の扉!」
「MOー!」


“扉”を抜けたタウロスの斧がルーシィに押し寄せる蝙蝠を弾き飛ばした。負けてられないとばかりにナツも腕の炎で黒い集団を巻き上げる。
もしもハッピーがいたらこの中に紛れて攻撃もままならなかったことだろう。やはり置いてきて正解だった、とナツが一人で納得していると、


「ところでこれ報酬いくらなわけ!?」


ルーシィが怒鳴った。
蝙蝠の羽音と鳴き声の中で会話するには語調は自然と強いものになる。


「一人5万Jだ!」
「嘘でしょ!せめて10万は欲しいわ、ねっ!」


言葉を切るのにあわせてルーシィは鞭で蝙蝠を叩き落とす。しかし鞭という武器はすばしっこいそれを相手にするには向いていないようだ。一振りで一匹撃ち落とせればいいところだった。
しかも蝙蝠は洞窟の奥から無限に沸いて来る。どんなに燃やしても斧で打ち落としても、まったく減る気配がないのだ。
これでは割に合わないと思うのももっともかもしれない。


「だからだろ!」
「何が!?」
「だから取り分考えて二人で来たんだろ!」
「っ……、あーそーですかっ!」
「何怒ってんだよ!」
「うっさいわね!怒ってないわよ!」
「いや怒って」
「ないっつってんでしょぉおお!」



キィイイイイッ!



まるでルーシィの怒りに呼応したように1匹の蝙蝠がナツに向けて何かを放った。


「ぐあっ……!」


ナツの皮膚が幾ヵ所も裂ける。まるで見えない無数の刃でも飛んできたかのように。
だがそれだけではない。襲い来るのは人には聞こえない類いの音の波。
耳から脳を掻き回されるような悍ましさに、ナツは耳を塞いで身をよじる。ナツの耳のよさが仇となったのだ。


「ナツ!?」


ルーシィの鞭がナツの腕を搦め捕った。目には見えない音の影響下から自分のほうへ乱暴に引きずり出す。
ナツは平衡感覚が狂っていたらしい。勢い余ってルーシィの上に倒れ込んだ。


「んきゃっ!」
「むおぅ?」


むにゅーんと柔らかいものがナツの頬に当たる。目を開ければルーシィを組み敷くような体勢になっていた。
どうやら超音波には範囲と方向性があるらしく、直接的に受けなければ影響はないらしい。
「MOーうらやましいっ!」と二人を庇いながら鼻息を荒くするタウロスには悪いが、揺すぶられた脳の回復を待たない限り動けそうにもない。
と、そうも言っていられないようだ。


「ふわ?ちょっ……」


ナツはルーシィの身体を抱えて身体を反転させた。咄嗟に離れて立ち上がろうとするルーシィの頭が邪魔だったので、片腕で胸に引き寄せ、


「――うおりゃッ!」


背後から襲い掛かろうとした蝙蝠たちを腕一閃で消し炭にする。
炎を逃れた数匹はタウロスが打ち落とし、その間にルーシィはナツの腕を解いて立ち上がった。


「ルーシィ、顔赤いぞ!?炎で焼けたか!?」
「う、うるさい!ねぇ、コイツら火竜の咆哮あたりで一気に焼き払えないの!?」
「やってもいいけどよ!」
「ならやりなさいよ!」
「わかった!洞窟崩れていいか!」
「いいわけあるか!?」
「じゃあ諦めろ!」


広範囲に焼き払おうにも、この洞窟は狭すぎるのだ。
ナツの炎は敵を焼き払い、消し炭にする炎としては最上級。
ただ、矢を作ったり一定の力にセーブしたりという、普通の炎の魔導士ができるような繊細な制御には向かない。だからいつも広範囲に炎を放つと街や山が壊れている。決してわざとやっているわけではないのだ。


「――じゃあナツ、私の星霊であいつらを一カ所に集められたら!?」
「……あぁ?」


ルーシィの力強い目がナツを捉える。
こんなときだというのに、ナツの心臓がどくりとひとつ鳴った。
それをごまかしもせず、ナツはニッと不敵に笑う。


「――俺が炎で焼き尽くす!」
「よしっ!」


ルーシィも頼もしく笑い、「タウロス、ありがと!」と金牛宮を閉門。
続けて、


「――開け、白羊宮の扉!」
「お、お呼びでしょうかぁ〜?」


ぽわわん、と現れた少女星霊にルーシィはすぐさま指示を飛ばす。


「アリエス、あの群れを追い込むことはできるっ?」
「は、はい、やってみますぅ!」


アリエスの魔法が細かい網目状に広がり、洞窟内を縦横無尽に跳び回る蝙蝠たちをぐるりと囲う。
少しずつ包囲を狭め、天井にほど近い場所に大きな塊を一つつくる。


「ナツ、今!」
「――火竜の咆哮ッ!」


吹き出した炎がひとつの群れを綿ごと包んで燃やし尽くす。狙いさえ定まれば制御も難しくないのだ。
これなら洞窟や広範囲に被害はないし、纏めて敵を葬れる。効率は格段に上がった。
「よっしゃ!」と目を向けた先、緋色の炎で生じた風がルーシィの髪を靡せて輝く。
その鮮やかな光景に、一瞬だけナツは目を奪われた。


「アリエス、ナツ、もういっちょ!」
「はいぃ〜!」
「お、おう!」


まだ終わりではない。慌てて新たな炎を具現化させる。
同様に繰り返して何群かを潰し、足元に大量の灰が積み上がった頃だった。



キシャアアアアア!?



耳をつんざくような鳴き声が轟いた。肌がビリビリと痺れるほどのそれに、3人は思わず攻撃をやめて耳を塞ぐ。
不意に、ぞっ、とナツの首筋が粟立った。


「避けろ!」
「へ?」
「はぅうっ?」


ルーシィと星霊をまとめてその場に引き倒す。



キィイイイイイイイイッ!



それまでルーシィが立っていた場所の岩が粉砕した。
今までの蝙蝠たちの喧しさが可愛らしく感じる、比べものにならないくらいの力だ。
それが放たれた方向から現れたものを見て、


「おぉー、でっけー!」
「な、何コレ……」


目を輝かせるナツと唖然とするルーシィ。対照的な反応だ。
その生物は今まで戦っていた空間すべてを覆わんばかりの大きさだった。
黒い体躯に羽といった特徴はそのままなのでギリギリ蝙蝠だとわかる程度。突然変異にしても、もはや怪物の域だ。


「や、やっぱり報酬5万じゃ足らないんじゃないの?」
「うわ、また金の話かよ」
「私には重要なのよ!あんただって私があの家住めなくなるの困るでしょ!?」
「はっ、俺の憩いの場か……!」
「てか勝手に憩いの場にしてほしくないわよ!」


言い合いながら転んだルーシィを後ろから抱え上げるように立たせた。第二波が来る前に体勢を立て直さなくては。
ナツの身体は自然にルーシィを庇う。動きもすべて、ナツと比べれば身体能力に劣るルーシィに合わせる。そういうふうに、もうできている。


「あとで絶対報酬額の交渉してやるんだからね!」


転んだ場所が悪かったのか、ルーシィは灰まみれだった。
なのにルーシィは笑っていた。何がおかしいのか、大口開けて笑いながらナツの腕にしがみつく。


ナツも笑ってしまう。楽しくて楽しくて仕方ないのだ。
ルーシィだから。
一緒に居るのが、ルーシィだから。


「あ」


唐突に、気付いた。
本当に、どうしようもないくらい場違いにその事実は弾けたのだ。
自分にとってのルーシィという存在の意味。価値。影響。力。特別。そういったもの全て。


そうだ。最初から理由なんてなかった。理由なんてこじつける必要なかったのだ。
だって、最初からナツは知ってた。


――ルーシィはナツの特別なのね。


ミラジェーンの言う通り。ルーシィだけが“特別”。
それは当然。理屈なんかいらない。どうでもいい。


ルーシィだから。


それが、答えだ。



キュィイイイイイイイイイ!



「ふわわ後ろに下がってくださいぃ!」とアリエスが綿で障壁を築く。
直接受けなくともそれはナツの苦手な音だ。


「ルーシィ!」


顔をしかめ、それでもナツは突き動かす衝動に任せて叫んでいた。


「話がある!」
「何よ!賃金値上げの方法でも思いついたわけ!?」
「ちげーよ!でも絶対驚くぞ!」
「何を今更!アンタと居るといっつも驚かされっぱなしよ!」
「いや、ぜってーいつもよりびっくりする!」
「あっそ!つまらない話だったら……」
「お仕置きですかっ?」
「何故アリエスが!?」
「すすすみませぇぇ〜ん!」


べそべそしながらも無差別に放たれる超音波から厚くした綿の防御壁で主たちを包むように守る。幾重にも重ねた綿は音を通さないのか、ナツの耳にも影響がない。
見た目と性格によらず頼りになる星霊だ。


「ともかくルーシィ、話を」
「あーはいはい!話なら後にしなさい!」
「いやでも今のほうが勢いがあって」
「うるさい!黙れ!」


黙れって。
確かにこういう状況だけど今まさに大事な話をしようとした俺に黙れって。
ナツはしょんぼりと肩を落とした。アリエスに向けられたちょっぴり同情的な目が今は煩わしい。


「〜〜っ、わーった!じゃあ終わったらな!」
「はいはい!」
「絶対だからな!」
「わかってるってば!しつこいわね!」
「ああああのあのっ、今はあの蝙蝠を優先していただけるとぉ〜」
『わかってる!』
「ふえぇんすみませぇえん〜」


二人に怒鳴られ、ふにょにょと泣き出す星霊。
完全にとばっちりだ。


「っしゃー!やっぞルーシィ!」
「行くわよアリエス!」
「は、はいぃ!」


攻撃がやんだと同時に防御を解き、巨大な蝙蝠に向かった。


まずはこの仕事を無事終える。
報酬を貰う。できれば値上げも要求。


そして、全部終わったら――


「くぉらナツ!少しでも洞窟崩したら報酬7:3にするからね!わかってんの!?」
「………」


終わったら――


「ちょっと、返事くらいしなさいよ!」
「は、はいぃ〜!」
「アリエスじゃなぁい!?」
「ふぇぅすみませぇえん!」
「………」


終わっても、決意が鈍ってないといいのだが。














* * *
リクエストはナツが自分の気持ちに気付くまでということでした。
頂いた時から考えていたのですが、ナツはちょっとにぶちんくんなので戦闘中で頭のまわってるときに漸く気付くんじゃないかと。
ルーシィは言ってもらえるの待ってます。でもタイミングがあわなくて告白へは絶対にもっていけないといいです。永遠のW片思い推奨。
ゆん様大変遅くなりましたがリクエストありがとうございました!


100726

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あきゅろす。
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