あの頃の面影を一つ、見つけた。【Ra*M】(Switch*サナ様/誕生日プレゼント)
「――……サス、ラクサスってば」
柔らかく自分の名を呼ぶ声に耳をくすぐられたラクサスは重い瞼を上げる。
どうやら椅子に座ったまままどろんでいたらしい。首は動かさず、気怠げに声の方に焦点を合わせれば、一人の女がラクサスの顔を覗き込んでいた。
「ラクサス、マスターが呼んでるわよ」
「………」
それがミラジェーンだと気付くのに数秒かかった。
かつて“魔人”と呼ばれていた頃の刺々しい雰囲気はすっかり消え、ほわほわと常に幸せそうな空気を纏ったその女に、昔の彼女を知るラクサスはまだ慣れていない。
「ほら、起きて。疲れてるのはわかるけど」
「……疲れてねーよ」
S級クエストから帰ったばかりのラクサスだったが、それくらいで疲労を感じるわけもない。
ただ暇を持て余して惰眠を貪っていただけだ。
ラクサスは口には出さず、心の中で反論した。
「えー?だってよく寝てたわよ?」
「寝てねぇ」
「ほら、よだれ」
「………」
「なんちゃってー」
ほわわん、と笑うミラジェーン。
彼女はラクサスに対しても怯むことなくずばずば物を言える数少ない女だ。
そしてラクサスにも分け隔てなく、とろけるように優しい笑みを向ける。
それが、ラクサスは気に入らない。
「………」
無言で、ラクサスはミラジェーンの細い顎に無骨な指をのばした。
乱暴に眼前に引き寄せながら、親指の腹でそっと唇をなぞる。
ここで以前の彼女だったら毛を逆立てて引っ掻いてくるところだろう。
だが、初めて唇を奪った時のように真っ赤になって半泣きになって、本気で殺しにかかってくる小娘はもういない。
こんなことをされても、にこにこ笑みを絶やさない、イイ女になった。
なってしまった。
「……チッ」
何と無く興醒めしたラクサスはミラジェーンから手を離すと同時に身を起こす。
ジジイが呼んでるならS級クエストの報告だろう。面倒だが今はまだ従わなくてはならない。今はまだ。
不意にミラジェーンは「いいの?」と小首を傾いだ。
「あ?」と再びミラジェーンに視線を投げたラクサスに、
「ちゅーするのかと思ったわ」
「………」
せめてキスと言え。
ラクサスは胡乱げにミラジェーンを睨んでみたが、やはり彼女はにこにこほわほわ。
暖簾に腕押し、である。
「――してほしいのか?」
「………」
訊いてみたところで、掴み所のない、透明な微笑を浮かべ続けるだけのミラジェーン。
肯定も否定もしない。
その態度が気に入らないラクサスは、フン、と鼻を鳴らしてその場を後にしようとした。
その時。
「ラクサス」
「……なん」
腕を引かれて振り向いた瞬間、ちゅ、と頬に触れたのはミラジェーンの唇。
珍しく呆けていると、「隙あり〜」とミラジェーンは笑った。
ほわほわと、なのに瞳には昔のような、小生意気な色気。
「………」
女になりやがって。
俺を誘うだなんざ、生意気だ。
……まあ、誘われてやってもいいけどな。
言い訳みたいに内心で呟きながら、ラクサスはミラジェーンの唇に自分のそれを重ねた。
触れるその直前、張り付いた笑みを消えていたことにラクサスは密に気付いていた。
――――あの頃の面影を一つ、見つけた。
* * *
サナさんに遅ればせながら贈らせていただいたラクミラです。
誕生日過ぎていたと気付いた瞬間ヒーッてなって即興で書かせていただきました。短くて申し訳ないです!
でもラクミラはまりそう……。ミラのファーストキス奪ったラクサスの部分はもっと回想的に事細かに書きたかったです。←
それではサナさん、5/26、誕生日おめでとうございました!
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