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I don't go crazy and yes still living【R*L】(枝音様リクエスト)


星霊にも痛みはある――


って。


そう言ってくれた君になら、わかると思ってたんだけどな。






I don't go crazy and yes still living





「ルーシィ、たっだいま〜」


ロキは陽気にドアを開けた。
人間界と星霊界を繋ぐ“扉”ではない。どこにでもある、有り触れたアパートのドアである。
そのドアの向こう――つまりは部屋の中で寝る準備を整えていたらしいルーシィは、ア然とした顔で、


「……ロキ、私玄関から酔っ払って帰ってくる星霊なんて初めて見たわ」
「本当?じゃあルーシィの初めて貰っちゃったかな」
「アンタが言うと卑猥なんですけど」


あはは卑猥か〜、と笑いながらロキはそのまま玄関口にずりずりと座り込んだ。
嘆息したルーシィはロキの腕を担ぎ上げ、「ほら、自分で歩く!」と叱咤しながら、すっかりふにゃふにゃになったロキをベッドに運んだ。


ロキを座らせると、コップに水を持ってきてくれた。
ぼんやりと礼を言いながら受け取って、冷たいそれで喉を潤せば、「ロキ、ちょっと今日は飲み過ぎじゃない?」とルーシィの心配そうな声。


「そんなことないよー」
「へべれけのくせに。……水、もっといる?」
「んー、ルーシィが欲しいなー」
「はいはい黙れ酔っ払い」


冷たくあしらわれるのはもう慣れっこだ。ロキは苦笑して「やっぱり水お願い」とコップを差し出した。
水をもう一杯飲み干して、漸く少し意識がはっきりしてきた。まあ、一時的なものだろう。瞼はまだ重く、過剰なアルコール摂取による心地良い疲労感で身体は睡眠を欲している。


「どうしてこんなになるまで飲んだのよ」
「んー、なんででしょー?」
「私がきいてるのよっ!」


ぴしゃり、と目の前に仁王立ちするオーナーに叱られたロキは、苦笑して顔を伏せる。
理由なんて言ったところで、どうせルーシィにはわからない。
だから再び顔をあげた時には、へにょにょんと得意の笑顔をつくって、


「まあいいじゃん」
「何がよ」
「飲みたい時だってあるさ。だって星霊だもの」
「そんなだって人間だもの〜みたいに言って……」


呆れた、とでも言うかのようにため息を付くルーシィに。


「――おかしいかな?」
「え……」


ロキは笑った。
どこか、自嘲気味に。
途端にルーシィの表情が凍り付く。ロキが初めて見せた笑顔のレパートリーに戸惑ったらしい。


あ、駄目だ。言っちゃいけない――
頭ではわかってたのに、呪われた口は吐き捨てる。


「どうせ僕は人間じゃないよ。だって星霊なんだから」
「そっ……」
「でもいつかルーシィが言っただろ。痛みもある、感情もある。ルーシィが、僕たちのためにそう言ってくれたじゃないか……!」


思わず捲し掛けるように言い切って。


「……ロ、キ?」


ルーシィの怯えた声。
その声だけで、頭が冷えた。
すぐに、「なーんちゃって」で、へにょにょん。


「ごめん。やっぱりちょっと酔ってるみたい?」
「………」


やはりルーシィは凍り付いたまま。
フォローも耳に入っていない。


情けない。みっともない。
何を感情的になっているんだ、とロキは思った。
無駄なことだっていうのに。ルーシィに理解なんかできるわけないのに。


「……何か、あった?」


もう遅かった。
ルーシィはいつになく真剣な面持ちで、ゆっくりロキの隣に腰を下ろした。


「別に何もないよ」
「ロキ、言ってくれなきゃわかんないよ」
「だから何もないって」


言ってもルーシィにはわからない。
星霊じゃない、人間のルーシィには。


――いや、違う。
本当はそういう問題じゃない。
向ける“感情”の在り方が違うルーシィだから、わからないんだ。


「……わかったわ」


頑なに口を閉ざすロキに、ルーシィは嘆息した。


「もし言わないって言うなら……」
「言わなかったらどうするの?」


誰よりも優しいルーシィが、大好きな星霊に酷いことなんてできないとを知っていて、そんなことを言う。
意地悪く、でも、柔らかい笑みは崩さずに。
そんなロキに、ルーシィは言った。


「――アリエスとバルゴとジェミニに言うわ」
「……………は?」


思わずロキはきょとんとする。
ルーシィは「アリエスとバルゴと私に変身したジェミニに頼んで星霊界で理由を言うまで泣いてもらうわ」なんて淡々と、あくまで業務連絡のごとく、想像しただけで、うっ……と呼吸に詰まるようなことを言う。


「――あらまあ」クスッ、と笑うルーシィ。「どうしたのかしら?お顔の色が悪くてよ、フェミニストのロキさん?」
「くっ……」


なんて卑劣な!と自称フェミニストのロキ苦虫を噛みつぶしたようになる。
方や、オホホホホ、と無駄に上品に笑うルーシィは、無駄に胸を反らせてロキの反応を愉しむように目を細めた。


女王様光臨である。
羽の付いたきらびやかな扇さえ、ロキには見えてしまった。
やはり自分は相当酔っているのかもしれない。


「それが嫌だったら言いなさい、ロキ」
「………」


主命であった。


「あの、ルーシ……いや、女王様」
「何で今言い直したの」
「なんとなく」
「あそう。まあいいわ言いなさい」


だよね、と呟いたロキは嘆息。もうボケでもごまかせるわけがなかったのだ。
ロキは子供みたいに口を尖らせる。


「……ルーシィが、悪いんだ」
「私?何したっていうのよ」
「ルーシィが今日、グレイに……」
「グレイ……?」


まったく思い当たる節がないらしく、怪訝な顔。
ほら、そんなものだ。ロキはまた自嘲気味になる。


「ギルドで、ルーシィのリボン、解けただろう?」
「………あ」



――本当に偶然、ロキはその場に居合わせたのだ。
ルーシィの髪を飾るリボンが解けて、グレイに結んでもらっていたところに。
「ありがとう」って、グレイに礼を言う、はにかんだ笑顔をみせたところに。
グレイがついでみたいな顔して、優しく、頭を撫でたところに。


たったそれだけ。
それだけで、腹の底からどろどろしたある“感情”が沸き上がり、仲間であるはずのグレイを床に引きずり倒してやりたくなった。


でもルーシィにとってはただの星霊にすぎないロキが割り込んで、そんな汚い“感情”なんてみせたりして。
困るのは、ルーシィだ。


だからロキは。
黙ってその場を後にして――



「ナンパに繰り出しました」
「何でそうなるのよっ!?」


バシッとルーシィに腿を叩かれた。
容赦がないツッコミに、ロキは叩かれた箇所をさすりながら続ける。


「……でも気分は乗らないし、女の子もつかまらないし」
「いやその前にナンパをしないで欲しいんだけど」
「――なんでしちゃ駄目なの?」


ロキはふと訊いた。
ルーシィは虚を衝かれたように「え」と一瞬言葉に詰まり。


「そ、それは……その、私がアンタの“オーナー”でせせせ責任があるから……」
「ふうん。あ、そう」
「な、何よそれ」


ロキらしくない冷たい物言いに、ルーシィは酷く不満げに顔を歪めた。
そうすればロキがいつもみたいに謝ってくるとでも思っているのか。優しく、「ごめんね」なんて、ご機嫌を取りに行くと信じているのか。


でも今日は、違う。
今のは、僕は悪くないんだ。“痛い”のは僕なんだ。
だからロキは「で」と気付かないふりをして続けた。


「結局ギルドに戻ったらカナとマカオに飲まされたんだ」
「……ああ、あの二人ね」
「だから、ルーシィのせいなんだ」
「ナンパがうまくいかなかったのが?」
「飲み過ぎたのも、僕がこうしてるのも、ぜーんぶ、だよ」


言って、へにょにょん、と笑う。
ルーシィはまた呆れ顔をして、次に嘆息。
「あーわかったわかった。そうね、私が悪いわねっ」なんて、まるで悪いと思ってないくせに。
ロキの“感情”なんか、わからないくせに。
その場しのぎ、みたいに。


「ったく、そんなことで……」


なんて。
ルーシィの口から吐き捨てるように漏れた本音で。


「――そんなことじゃない」
「え……」


ロキは、ぐい、とルーシィの腕を引いた。
息も触れるくらいに詰め寄って、鼻に皺を寄せて、噛み付かんばかりに「僕にとって、そんなことじゃない」を繰り返す。


途端に頬を染めたルーシィが顔を伏せようとした。
ロキはルーシィの髪を優しく指で梳くように、一つ撫で。
そのまま滑らせて顎を無理矢理に指で上げさせた。


「こっち見なよ」
「あ、あの……」
「僕だけ見てよ」


ゆっくり顎に掛かる指を外す。
ルーシィの顔はロキの瞳を見つめたまま、金縛りにでもあったかのように固定されている。


「僕はね、ルーシィ。君の髪も身体も、他の誰にも触らせたくないんだ」
「そっ……」
「触らせない。許さない。認めない。ルーシィを――ルーシィを、僕だけのもにしたい」
「〜〜っ!」


目前で、捲し掛けるがごとく所有宣言をされ、ルーシィは首まで真っ赤になる。
ここまできて、何を取り繕う必要がある。ここまで醜い嫉妬なんか見せて。ここまで“感情”をさらけ出して。
なんとまあ色んな意味で“痛い”星霊だろうとは自分でも思うが。
ロキは、ふぅ、と嘆息した。


「ねぇ、ルーシィ。星霊だからって、妬かないわけないんだ」
「え……」
「人間を本気で愛せるんだ」


ロキは溢れ出す狂おしいまでの“感情”のままに。
優しく、愛おしく、微笑みかけた。


「愛してるんだ、ルーシィ――」


ゆっくり、瞼を下ろしながら。
目の前の愛しい人の、今1番近い桃色の部分に触れようと。
唇で、触れてみようと。
距離を、縮めて――




* * *




「――い、言うだけ言って寝やがった……」


カクン、と糸の切れた人形のように倒れ込んだ酔っ払いを膝で受け止めたルーシィは、火照る頬を手の甲で冷やしながらぼやいた。


いくら酔っ払ってるにしても、だ。
何あの恥ずかしい口説き文句。
何あの子供みたいな責任転換。
何あの剥き出しの独占欲。


その全てに、まったくもう、と苦笑。


「ロキってけっこー子供じゃん」


それはしかし、いつもの冷ややかなものとは違う、慈愛に満ちた、優しいものだった。
結局ロキの真っ直ぐな“感情”をぶつけられて悪い気はしないのだ。


ロキの頭をしっかり膝に乗せ直し、優しく髪を撫でてやる。
ルーシィの腹の辺りに当たるサングラスを外してやろうとして。


「ひゃ?」


手を掴まれた。
そのまま、指先にチュッと口付け。


「おおお起きてっ」
「………」
「………ないわ、ね」


聞こえてくるのはロキの規則的な寝息。
サングラスを取っても頬を引っ張っても眉間をぐりぐり揉んでも「強制閉門するわよー?」と言っても、全く動く気配はない。


「………」


正直な話。
サングラスを取ったロキの寝顔は、無害そのもので、子供みたいで、すっごく可愛いのである。


むむむむむ。


ルーシィは小さくうなって、意味無くキョロキョロ辺りを見回して。
パパ、それから天国のママどうか今日だけは破廉恥な娘をお許し下さいとか虚空に南無南無手を合わせて。


膝のロキに「ごめ」と言いかけて、やめる。ルーシィの今胸にある“感情”として、ごめんね、は違う気がしたのだ。
だから、


「――……ありがとうね、ロキ」


優しく髪を撫でて。
そっと唇を頬に押し付けた。


それに応えるように。
ロキの大きな手がルーシィの背中を撫でた。




「ややややっぱり起きてるじゃんっ!」
「ぐえっ」


床に突き落とした。








* * *
子供みたいに嫉妬するロキ。18巻の台詞を元にしてみた。
両思いかってゆーとそうでもないんだけどでもルーシィもロキのこと……もにょもにょ……的な距離が好きなんです。
1番にリクエスト下さったのに、今になってすみません枝音様!よろしければお持ち帰りください!

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