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Knock,knock! Let me knock!【G*L】(須藤様リクエスト)
コンコン、と軽くルーシィの部屋のドアがノックされたのは、午後10時を過ぎた頃。
ちょうど、ルーシィが風呂を出た時だった。


「はいはーい」


とりあえずタオルを身に巻き付けてドアを開けたルーシィを。


「――よぉ」


待っていたのは、グレイだった。





Knock,knock! Let me knock!





「………」


ルーシィは目を見開いたまま、固まった。
信じられなかったのだ。目の前の光景が。


「おい、ルーシィ?どうした」
「………」
「大丈夫か?顔が青いぞ?」


大丈夫なんかじゃない。
目を疑うとはまったく、このことか。


だってまさか、嘘でしょう神様?
ああ、そんな。
そんなまさか――!


「――ぐ……グレイって“ノック”知ってたんだ……!?」



ゴン。



グレイが壁に頭をぶつける。
あらまあベタな反応、と思ったルーシィ。
グレイはゆらりと顔を上げる。


「……俺に常識がないとでも?」
「えっ……」
「その“あったんだ……!?”みたいな顔はやめろ」


つーか、と間を置いて。


「そんな格好で客を出迎えるお前のほうが非常識だ」


ふい、とグレイはあさってのほうを向く。


「え……ああ」


そこで漸くルーシィは自分の格好に気がついた。
ルーシィは風呂上がりで、タオル一枚にプルーを抱えただけ。
肌の露出はいつもの服と変わりはないのだろうが、なんとなくプルーで胸元を隠してみる。


「もし俺が知らない男だったらどうする」
「で、でもほら、いざというときの凶器もあるし」
「凶器と書いてプルーと読むな」
「プーン」
「ほら、プルーだって心配してるじゃねぇか」


やけに厳しいグレイにルーシィは口を尖らせたりはしたが。
結局、「ごめん」と素直に謝った。
女の一人暮らしだというのに、流石に無防備すぎだったかもしれない。いつもナツとか無害な侵入者ばかり相手にしてきたが、毎回もそうとは限らないのだから。
反省して俯くと。


「――よしっ」


ぽんぽん、と頭を撫でられた。
顔を上げれば、柔らかい笑みを浮かべるグレイ。
「反省したならいい」とちょっと掠れた優しい声で言われ。


「う、うん」


一瞬見惚れかけていたらしい。
はっと我に返ったルーシィはごまかすようにドアを大きく開けた。


「と、とりあえずあがってよ。私着替えてくるから」
「ああ。髪もちゃんと乾かすんだぞ」


「はは……お母さん?」とあまりの過保護さに苦笑して――でも悪い気分ではないのだが――ドアを後ろ手に閉める。
それからちょっと考えて。


「はい、グレイ」
「ん?」


抱いていたプルーを手渡した。


「プルーと遊んであげて」
「コイツと?」
「ププン?」
「いじめちゃ駄目だからね」
「あーはいはい。わかったから早く着替えてこい。女の子は身体を冷やすもんじゃないぞ」
「だからお母さん……?」


流石に今度は引き攣り笑いを浮かべたルーシィが言われた通り着替えて(もちろん髪も乾かして)お茶を入れて部屋に戻ると、グレイはプルーを膝の上に乗せていた。
意外とちゃんと面倒を見ていたようだ。ほほえましくて、ルーシィはクスッと笑ってしまう。


「はい、お茶」
「お、サンキュ」


2人分の紅茶をテーブルに置いたルーシィがグレイの隣の椅子に腰を下ろすと、「ほらよ」と膝にプルーを返された。


「プーン」
「お帰りプルー。グレイに変なことされなかった?」
「はぁ?してねーよ」


と言うグレイは無視し、プルーをと抱き寄せて「ププン」に耳を傾ける。


「まあひどいわね。グレイったらそんなことしたの?」
「あ?」と言うグレイはもちろん無視。
「プーン」
「うん、そうね。これは今度あのお店の新作ケーキを私とプルーにおごるしか許される術はないわ」
「ププーン」
「ってことでグレイ、おごれば許すってプルーが言ってるけど?」
「……オイオイ」


強引な話の進め方にグレイが顔を引き攣らせる。
だが結局、期待する目で待つルーシィに嘆息して。
甘苦い笑みに変えた。


「――……了解。明日一緒に行きましょうや姫様」
「やったぁ!」


今月ピンチで食べられそうになかったのよね〜!とプルーの手(?)を持ってはしゃぐ。
グレイは「ったく」と呟き、頬杖をついた。表情はまるで愛しいものを見るように、甘ったるいままで。


「そういえばグレイってけっこー私とエルザを女の子扱いするよね」
「あ?」
「今の姫様〜とか。ナツは男とか女とか全然関係ないけど」


と言えば。
グレイは紅茶を一口含み、今更何言ってんだか、みたいに。


「――女だろ?」
「え…………うん。そだ、ね……」


きっぱりした返答にからかうつもりだったルーシィは硬直しそうになった。
あれ?女の子扱いされて嬉しいはずなのになんで今は逆に不安な……。


急に“二人きり”という事実がルーシィに突き出された感じ。


いやいやいや。二人きりなんてよくあるじゃないの。ってゆーかプルーも居るしね!とごまかすようにプルーをぎゅーっ。
気を取り直して、「そ、そういえばどーしたの?今日」と切り出せば。
頬杖をついたままグレイは「ん……」とルーシィをじっと見つめて。


「会いたくなった」
「――……えっ?」


今、何て――


「…………ぷっ」


途端にグレイは噴き出した。
「は?」とルーシィが目をぱちくりさせると、くつくつと笑い出す。


「お、お前その顔!」
「え?なっ……」
「嘘だっつの。何慌ててんだよ」
「だだだだましっ……」
「ほれ、忘れ物」


あわあわするルーシィの前のテーブルにそっと置かれたのは、


「万年筆……?」


ルーシィがよく使う万年筆1本。
「あのギルドに置いといたらすぐ無くなるか壊れるからな」と言うグレイに「あ、ありがと」と礼を言ってそれを手に取り、何となくしげしげと眺める。


確かに自分のものだ。忘れたことにさえ気付かなかった。
それにしても私が使ってたなんてよく覚えてたわね、と感心していると。
「つーかよぉ」グレイはニヤリと笑う。


「お前だって意識してんじゃねぇか。俺を男だって」
「はぁ!?し、してないわよ!」
「いーや、さっきの反応はしてたな」
「してないって!」
「してましたー」
「〜〜っ、今日のグレイなんかむかつく……!」
「ふぅん。今日のルーシィは可愛いぜ?」
「へっ?」
「ははは、だぁからその顔!」
「キーッ!」


調子に乗ってきたグレイに腹が立って、ばしばしとテーブルに八つ当たり。膝の上で揺すられたプルーが困ったように「プーン」と鳴く。
グレイは「あーはいはい。悪かった悪かった」とルーシィを宥めるように苦笑しながら。


「しかしルーシィの部屋はいつも綺麗だよな」


ルーシィの部屋を見回した。


「グレイの部屋は汚そうね」
「ほっとけ」


グレイが話を変えてくれてほっとしたルーシィは、ニヤリと笑って切り返す。
グレイの部屋はきっと服が脱ぎ散らかされてるのだろうとルーシィは思っている。
チラリと床に落ちている白いシャツを見て、そうそう、ちょうどこんなふうに――


「って服ーっ!」
「おぉ!?」


いつの間にか脱いでいたグレイに、「人の家に脱ぎ散らかさないの!」と床に落ちたシャツを投げ付けた。
「ったく」とグレイが慌てて服を着るのを確認し、


「前は自分で掃除とかしてたんだけど、最近はバルゴがやってくれてるのよねー」


と呟けば。


「バルゴって……ああ、あのかわいらしい奴な」


というグレイの発言に。
何となく、ムッとする。
……いやいやムッとなんてする必要ないわね必要ない必要ない。
自分に言い聞かせてルーシィは頭を振った。


「……あのコ最近勝手に出て来ること覚えちゃったみたいでね、私の知らない間に掃除とかしてくれちゃうのよ」


ロキの影響かしら、なんて。
ぼやいた瞬間。


「――ロキも来るのか?」
「アイツは……、まあ、たまに?」
「……ふーん」


「アレはどっかしらで女の子口説いてるからねー」とぶつぶつ言っていると。
さらり、と耳に掛かる髪に何か触れる。


ゆっくりそちらを見れば、髪に触れるグレイの指。
無骨そうにみえて繊細なそれで、撫でる、というより、指先で髪をさらさらと揺らすように。
さらさら、さらさらと。
何も言わず、何往復もその行為を繰り返すグレイを見ながら。


「……な……なん、でしょう?」


思わず敬語になるルーシィに。


「ん……ああ」


グレイはぱっと手を離し、ルーシィから目を逸らした。
ルーシィはなんだか急にグレイを直視できなくなって俯く。
グレイの触れた部分がどうしても気になって、震える手で撫でていると


「――ルーシィ」
「え……」


呼ばれて顔を上げれば。
グレイの顔が近づいて――


「!」


どん、とルーシィはグレイの肩を突き飛ばした。
軽く、だったつもりが、バランスを崩したグレイの椅子がガタタと音を立てる。
衝撃でプルーも「プーン!」と床に転げ落ちた。


「あ……」


グレイは目を見開いたまま固まっていた。
ルーシィも突き飛ばした手のまま固まる。
しばし硬直したまま見つめ合って。
「もっ……」ひく、とルーシィの唇が引き攣った。


「もー!やだなーグレイってば!冗談がすぎるわよ!あは、あははは!」


無理にからから笑いながら床のプルーを拾い上げる。「ご、ごめんねプルー」なんて言って、プルーの陰に顔を隠す。
やがて、グレイも硬直が解けたらしい。


「……ああ、悪い」

グレイはつくったような笑みを返してきた。
その笑みがなんだかいつものグレイではなくて、ルーシィはなんとなく気まずくなる。


それでもルーシィにはどうにもできず、ただ壊れたように「あはは」と笑い続けていると。
グレイは温くなった紅茶の残りを一気に流し込んだ。


「――帰るわ」
「え?」
「茶、ごっそさん」


ルーシィを見ずに言って。
椅子から立ったグレイを。


「――……っ」


ルーシィも椅子を蹴るように立ち上がり。
白いシャツを、はし、と掴んだ。
驚愕に染まる顔で振り向くグレイと目が合って、ルーシィははっと我に返る。


「あ……あれ?な、なんだろこの手……あは、あはは……」


放そうと思うのに、手は離れようとしない。
混乱して泣きたくなってきたルーシィの震える手。
そこに、グレイの冷たいそれが重なった。


「――ルーシィ」
「………」


今度は顔を上げなかった。
上げられなかった。


そんなルーシィの額に。
一瞬の柔らかいキス。


「っ……」


顔を上げる。
今度こそ、触れられる覚悟は出来ていた。


なのに、グレイは。


「――よしっ」


来た時と同じように、ぽんぽん、とルーシィの頭を撫でて。
たまらなく、甘い笑みで。


「明日はケーキ、な」


言われた瞬間。
するり、と服から手が解けた。


パタン、とドアの向こうにグレイが消え。
やがてルーシィはへにょへにょとその場に座り込んだ。


「……な、なんなのよぉ……」


弱々しく呟く。
また床に転げ落ちていたプルーが「プーン」と心配するようにルーシィの膝に手を置いた。
プルーを呆然としたまま再び胸に抱え直し、ごちゃごちゃする頭でルーシィが1番最初に考えたのは。


――あ、明日、服何着て行こう……?










* * *
たまらなく甘いグレルーにはまってます。
どこまで甘くできるか。どこまで見た目バカップルか。それだけ考えて書かせていただきました。
こ、こんな感じでいかがでしょう?
須藤様、リクエストありがとうございました!
……ケーキデート編が読みたくなったら言って下さい(笑)。

*須藤様のみお持ち帰り可能です。

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あきゅろす。
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