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let it be は正当化せよ【R*L】(No.2*きょん様/相互記念)
小説を書くにあたって、まずはプロットというものをたてる必要がある。
一筋の進むべき道を決め、起承転結を簡潔にまとめ、それから漸く文章に興し始めるのだ。
そして今回プロットはすんなりと生み出せた。


しかし。


「んむむむむ……」


どうもこの話、途中から人物がうまく道に沿って進んでくれそうにないのだ。
ルーシィは筆を休めてじーっと原稿を睨む。
もう一度ここから先のプロットを練り直すか?それとも人物の設定を少しだけ変えるか?でもそうすると引っ張ってきた伏線が――
とかぶつぶつと唱えながら睨めっこを続けていると。


「コーヒーです、姫」


そ、と脇から差し出されたコーヒーの香りが鼻先をくすぐる。


「んーありがとうバル」


ゴ、にしては声が低かったことに気がついた。
ばっ、と勢いよく振り向くルーシィ。


「……何してんの?」


そこにいたのはメイド姿の少女星霊ではなく、いつものスーツをかっちり着こんだ青年星霊――ロキだった。






let it be は正当化せよ





「……何してんの?」


ぽかんとするルーシィ。
目が合うとそれだけでロキは幸せそうに微笑んだ。


「ルーシィの応援だよ」
「……私、バルゴに頼んだんだけど?」


今日中にどうしても1本小説を書きあげたかったルーシィは、バルゴに身の回りのことを少しだけ頼んだのだ。元々そういった仕事の好きな彼女は「喜んで」と引き受けてくれた。
はずなのに。


「バルゴは食事の支度まで全部終わったから帰りますってさ」
「え?」


食事、と聞いて。
ルーシィは慌てて窓を見る。
窓から見えるのは夕闇どころではなく、本格的な夜の闇に染まる世界。
最後に外を見た記憶ではまだ太陽は真上近くにあったはず。
ということは。


「……あちゃー」


ルーシィは顔を歪めた。どうやらルーシィは執筆に半日も使ってしまったらしい。
夢中になりすぎた。バルゴに食事まで作らせるつもりはなかったのに。


しかし、ルーシィの邪魔をしないよう、声もかけずに帰るなんて。
本当にどこまでも気が利く星霊だ。


「で、僕が交代したわけです、姫」


と胸に手を当てて一礼するロキを見て顔を引き攣らせる。


「………ホント、どっかの自由気ままな星霊と違うわー」
「? 何か言った?」
「ううん。別にー」


まあいつものことか、と嘆息したルーシィは軽く伸びをして「んー全然気付かなかったわ。もう夜なんて」と呟いて。
あれ?と首を傾ぐ。
そういえば私部屋の明かりなんかつけたっけ?と考え、バルゴかしら、気が利くコだしね、と自らを納得させた。


「ね、詰まってるみたいだったし少し休憩したら?」
「んーもうちょっと書きたいのよ。だからロキも帰っていいわよ」
「つまり」ロキは頷く。「執事の格好して出直してこいってことだね」
「言ってないわよ!?」
「え?でもメイドは僕には」
「そーじゃなくてっ!」


ルーシィは困ったように言った。


「本当にもうちょっと書きたいの。だから、その……」
「じゃあ、待ってるよ」
「え……」
「終わったら、一緒にバルゴの作ってくれたご飯食べよう?」


ね?とへにょにょんとした笑顔で押されれば、ルーシィはそれ以上は何も言えなくなる。
「わかったわ」とため息をついて再び机に向かい直した。


恐らく問題は前の部分にあるだろう。まだこの長さだし、一度始めから読み直して気になるところからもう一度書き直してみようか。そこから新しい道を模索して――


「……何してるの?」
「ん?」


ルーシィはチラリと右側に視線をやる。
そこでは後ろのダイニングテーブルから移動させてきた椅子に腰かけたロキが、机に頬杖を付いて覗き込んでいた。


文章を、だったらルーシィはすぐに手元を隠しただろう。まだレビィ以外の誰かに見られるのは恥ずかしいのだ。
だが、ロキが見ているのは――


「一生懸命なルーシィの表情、好きだなーって」


どこまでも真っ直ぐルーシィなのである。


「はいはい。ありがとう。だから邪魔しないでね」
「しないよ。見てるだけだもん」
「あーそー」
「――でも」ロキは苦笑。「本当は、そろそろ構ってほしいかな」


ちょっとだけ、いつもと違う声。
ルーシィは少し訝しみながら、一度原稿を置いた。


「……ロキ」
「なに?」


名前を呼ばれるだけで嬉しいらしく、にっこりと笑うロキ。
ルーシィはそんなロキの手を取った。固い拳を開かせ、手の平を上に向かせた。
そこに。


「ほーら飴ちゃんですよー。あっちで食べて来なさいねー」


飴を一つ、押し付けた。


「……これ、何扱い?」
「近所の子供扱い」
「今時飴ちゃん一つで素直に言うこときく純粋な子供なんて……」
「いないわね」
「だよね」
「でもアンタはききなさい」
「えー」
「いいからききなさい」
「でも」
「きくのよ」


あっち行け、と冷ややかに手で払って、再び原稿を手に取る。それでも移動しようとしないロキはこの際無視することに決めた。


読み直すと所々文章の構成も気になり始めた。線を入れて手直ししながら読んで、結局先程止まった場所に戻ってしまった。どうしても梃入れがきかない。
ルーシィは苛々とペン軸を爪で弾き、もう一度、と意気込んで最初から目を通そうとして。


「ねぇルーシィ、やっぱり少し……」


心配そうなロキの声に。


「〜〜っ、もう!」


ドン、と思わずルーシィは机に拳を落としていた。


「邪魔しないでってば!?」


怒鳴って、鋭く睨む。
そんな苛立ちを向けられたロキは一瞬哀しそうな顔をして――


「うん。ごめん」


といつもの笑顔で頷いた。それから「じゃあ黙ってるね」なんて言って椅子を少し離れた場所に移動させる。
言い過ぎたかな、とは思ったが。
少し、八つ当たりも入ったかな、とも思ったが。


「……フン」


結局ルーシィは、ロキが悪いのよ、と再び原稿を読み直し始めた。


「………」


でもやっぱり落ち着かなくて。
ちょっとだけ、とロキを窺えば。


少し離れた場所に移動させた椅子に座ったロキの視線とルーシィのそれが絡む。
蕩けそうに優しく微笑む――なのに少し淋しげなロキの視線と。


「っ………」


どうしてか、急に胸が苦しくなった。


「……ねぇ、やりにくいんだけど」
「え?」
「ロキに見られてるとやりにくいのよ」
「でもさっきまではできてたじゃないか」
「? ……さっき、って」


ロキは苦笑。


「――ずっと見てたよ」
「え……」
「ルーシィが頑張ってるの、ずっと見てた」


さっきはもっと離れてたけどね、と加えて。


ずっと、って。
まさか。


「……バルゴが帰ったの、いつ?」
「ん?3時間くらい前かな?」
「3……」


3時間も。
ずっと。
あの目で。
あんな表情で。
私のことを――


途端、ルーシィの中でわけのわからない感情が渦を巻いた。熱いような、痛いような、優しいような、切ないような。


――でも本当は、そろそろ構ってほしいかな。


あの苦笑の意味が、今わかった。
ずっと何時間もじっとして。何時間も、ルーシィを待って。
なのにルーシィは彼に何をした?何を言った?
思わず泣きそうになる。でも泣いたらロキが心配する。
だからまず、しっかり、息を吸う。


「……ロキ」
「ん?」
「こっち……ここに椅子持って来て」
「?」


不思議そうな顔で、先程の位置に椅子を移動させる。
ルーシィの言うことは全部素直にきく。怒られて、苛立ちで当たられて。
それでも、ルーシィのことを最優先にする。
「座って」と促せば、膝が触れる距離で向かい合った。


「ルー……」


ロキが何か言う前に。
ルーシィは腕をのばした。
ロキの頭にそれを回し、そっと胸に抱える。


「――いい子だったね」
「な……」
「ロキは、我慢したね」


腕の中のロキの息を飲む音。
ルーシィはそれさえも愛しくて――ああそっか、さっきのは愛しかったんだ――さらに強く抱き寄せた。
そのまま、よしよし、と自分とは手触りの異なる髪を優しく撫でてやる。


「……な、何扱い?」
「犬扱い」
「犬かぁ〜」
「もしくはプルーね」
「プルーか〜……プルーって犬に含まれないの?」
「あれは、ほら、プルーだから」
「あー、プルーだもんね……」
「そ、そうよ、プルーなんだ、から」
「う、うん。ぷ、プルーだもんねっ」


自分のしていることがだんだん恥ずかしくなってきて、それがロキにも伝染したらしい。ギクシャクと二人、なんだかぎこちないやり取り。
やがてルーシィは。


「ごめんね」


腕の中のロキにそっと呟いた。


「……うん」


いいんだよ、と。
顔は見えないけど、多分笑ってくれているとルーシィは思った。
やがてロキは緊張で硬くなったルーシィの腕を優しく解かせる。


ゆっくり顔をあげたロキと。
ルーシィはぎこちなく、見つめ合って――



ぐぅ〜



………



「………あぅ……」


腹が鳴ってしまった事実に赤面するルーシィ。
しばらくの沈黙の後。


「――ぷはっ」


ロキは噴き出した。そのまま、あははははは、と腹を抱えて笑い出す。
なんて失礼な星霊だろうか。真っ赤になってジトリと睨んでやってもロキの笑いは止まらない。
まあもうちょっと前に鳴らなくてよかったか、とか思ったら、ルーシィにも笑いが込み上げて。
結局、声を上げて笑い始めた。






「――………あ〜」


くすくすと一頻り笑い合って、ルーシィは息を吐いた。
ロキも笑うのをやめてルーシィを見て。
真っ直ぐ、見つめ合い。


「よし、休憩!ご飯食べよ!」
「――うん」


二人、悪戯げに微笑みあった。







「じゃあご飯にする?お風呂にする?それともぼ」
「今、私ご飯って言ったわよね?」








* * *
きょん様へ相互記念でございます。遅くなって申し訳ありません。どうぞお納めくださいませ。
なんか結局ロキが構ってほしいというより、ルーシィが心配で〜みたいになってしまいました……。でも楽しく書けました!これ大事!
それではきよん様、これからもよろしくお願いします。

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