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未来のことは振り向かないで【G*L】


やることもなくギルド内をふらふしていたグレイは独りで皆と離れて座るルーシィの背中に気付いた。
人の輪に入るのが好きな明るい彼女にしては珍しい、少し死角に入るような席。


「よぉ」


と声をかけて、肩を叩くと。
ルーシィはビクッとして。
あからさまに目元を隠すような仕種をした。
その不可解な行動に。


「……泣いてんのか?」


グレイはルーシィの隣に腰を下ろす。


「ち、違う」


と言われても。
ひたすら隠そうとする細い手首を掴み、無理矢理顔を見れば赤くなった目。


「……どうした。誰かに何かされたか?」


ぐ、とグレイはルーシィに詰め寄る。
グレイは女の子の涙に弱いというのもあるが、ルーシィは本当に滅多なことでは泣かないのを知っている。
たぶん、だからこそ心配で仕方ないのだ。


しかしルーシィは無言で首を振るだけ。
そんな顔して何強がってんだよ、と


「言えって」


少し怒ったようにもう一度言えば。
ルーシィは躊躇うように瞳を泳がせ。


「だ、だって……」


おもむろに、何かを取り出した。


「だって、この本泣けるんだもーん!」


………


「〜〜っ、本かよ!?」


一瞬の溜めの後、グレイはがっくりと崩れ落ちる。
それを見て


「ほら馬鹿にする〜!」


だから言いたくなかったのよ、と顔を赤くするルーシィに「つったってなぁ……」とグレイ。こんなに心配させといて、本で泣きました〜ときたもんだ。がっくりだってくるもんだ。


「いいわよいいわよ!どうせグレイに文学なんてわからないんだから!」
「あ?馬鹿にすんな。俺は読者家だぞ」
「えー。嘘ー。見えないー」
「マジだって。昔修業の合間にウルに無理矢理読まされて、今もその習慣続けてんだよ。……確か、魔法には知識と想像力も必要だ〜とかでな」
「へぇー!ウルさんいいこと言う〜」


一転し、ルーシィは嬉しそうに笑う。たとえ本に感動したんだとしても泣いている顔よりこっちのほうがらしくて安心する。
ふと、ウルとルーシィだったら気が合っただろうな、とグレイは思った。
ウルもルーシィみたいな女の子なら絶対弟子たちより可愛がりそうだ。しかもわざと目の前でやって反応を楽しむ。リオンあたり、やきもきしそうだ。


なんてことをグレイは想像して笑ってしまい、ルーシィが「どしたの?」と小首を傾ぐ。
慌てて「なんでもねーよ」と口を隠す。まさかウルのことを――あの過去を、こんなふうに面白おかしく思い出せるようになるなんて、以前は思いもしなかった。
それにしても自分の想像力もなかなかどうして鍛えられているようだ。
だが。


「俺、本を読んで泣いたことはねぇな」
「ああ、感受性がマヒしてるのね」
「馬鹿にしてんのか」
「ってゆーかとりあえず服着たら?」
「はっ!」


いつの間にか上半身裸。グレイが慌てて服を着れば「こっちはウルさんから貰った悪い習慣ね〜」と嘆息するルーシィ。
どうせなら脱いでる途中にツッコめよ、と思うのだが、何故かいつも脱いだ後にしかツッコまれたことがない。グレイにも周りにもそれは不思議である。


「でもホント泣けるわよ、これ。読み終わったら貸そうか?」


とルーシィに見せられた本の装丁とタイトルを見て顔をしかめる。


「恋愛モノか……。どうせあれだろ?どっちかが死ぬ」
「そ、そんな感じだけど……」
「はっ、ワンパターン」
「全部読んでないからまだわかんないもん!」
「死ぬ死ぬ。絶対死ぬって」
「……てゆーか何。グレイ何でそんなに恋愛小説のパターンとか詳しいわけ?もしかして結構読むって恋愛系?」
「ばっ……ちがっ」
「ふぅん。知らなかった。意外とグレイって乙女くんなのねぇ?」
「違うっつの!」
「ああいいのよ隠さなくて。運命の出会いはあれ?曲がり角パターンがお好みかしら?」
「いつの時代の話してんだよ!?」


ここぞとばかりにからかってくるルーシィに噛み付くグレイ。


――その後は、本当はどんな小説が好きか、どんな作家がオススメか。そんな話題で盛り上がる。
ギルドの騒がしい連中からちょっと離れたその空間は心地よい静けさで。
たぶん、夢中になっていたんだと思う。


気が付けば二人の顔は、異様なまでに近づいていた。


「………」


不意にそれまで無邪気に笑っていたルーシィが黙り込む。
まるで恋愛小説のように、目が合って。
あ、できそうだ――とグレイは思った。


たぶん、それは引力的な何か。
自然に、唇同士が近づいて――


「よぉルーシィ、ついでにグレイ!仕事行こうぜーっ!」
『!』


割り込んできた声に、ばっと身体ごとテーブルの端っこから端っこまで離れる二人。
それを見て「何してんだ?」とナツが首を傾ぐ。
グレイは「なんでもねーよ」と応え、ちらり、とルーシィを見れば。


同じようにこちらを見て慌てて逸らすところ。
耳まで真っ赤。恥ずかしいのか、肩まで震わせて。


もし。
もし、あとわずかでもナツの乱入が遅かったなら――








――――未来のことは振り向かないで









「〜〜ってめぇ、ナツ!」
「あ゙!?なんだよ!やんのか、おぉ!?」


という日常の後ろで。


「あわわ雰囲気超怖い雰囲気超怖い……」


というルーシィが居たとか居なかったとか。








* * *
前に『遠い目でどこか見ているドラえもん』を加えてドラえもん短歌(みうらしんじ)。
SSは1時間ちょいで書けるものをやることにしたはずなのにまた長くなった。ちっ、だからグレイはよぉ……好き。ツンデレーニョ。

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あきゅろす。
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