げんじつかんをうすめるために【N*L】
「ルーシィちゃんはやっぱり気品あるよな」
「元お嬢様だしなー」
以前ワカバとマカオがそんなことを話しているのを聞いて、ナツはどこが?と首を捻ったものだ。
部屋に勝手に入れば容赦なくツッコまれるし、そのツッコミは暴力以外の何物でもないし、つーか最近エルザ並の殺気放つし超こえぇしつい本気で謝っちまうし。
そんなふうに、“気品”ってものが正しくどういうものかはよくわからないが、ルーシィを表すような言葉じゃないのは確かだろうとナツは思うのだ。
「――……何見てんのよ」
ギルドのカウンターテーブル。
席は少ないが、ミラジェーンとお喋りを楽しむときのルーシィの特等席。
ナツはその隣に腰を下ろし、じ、とルーシィを見ていた。
「いや、ルーシィは相変わらず変だなーと」
「……喧嘩うってんの?」
「うってねぇよ」
「……あのね、ナツ。教えてあげる」
「なんだ?」
「“変”は褒め言葉じゃないのよ」
「あ?馬鹿だなルーシィ。そんなこと」
はは、とナツは笑った。
「超知ってる」
「喧嘩うってんの!?」
「うってねぇって」
ルーシィはしばらく、むー、とナツを睨んでいたかと思うと。
フン、とそっぽを向いてしまう。
拗ねた顔してカウンターに頬杖を付いて、ストローで飲み残しのジュースを掻き混ぜる。
それだけで、まるで、一枚の絵のようで。
やっぱりルーシィはナツの知るルーシィで、こういう汚い酒場が似合うと思うのだが。
「ルーシィ」
「……何よ」
「仕事行くか」
「ホント!?」
途端に顔をナツに向け、ぱあ、と簡単に笑顔に変えるルーシィ。
ナツは、くく、と笑った。
「やっぱり“変”だ」
「だから変言うな!」
「じゃあ何て言えばいいんだ?」
「え?……か、可愛いとか?」
「………」
「何その生暖かい目」
「自分で言っててコイツ恥ずかしくねーのかな、と」
「うっさいわね!」
「そうかそうかー可愛いって言ってほしいのかー。ほーら言ってやるぞ可愛いルーシィ〜超可愛い〜」
「キーッ!殺す!」
「はっ、やってみろ!」
両手を合わせ、ぎりぎりと力比べ。
ほらみろ。何処が気品?粗野で乱暴で――ナツたちと全然変わらない。
わざとナツは手を抜いて――本気でやったら簡単に勝ってしまう――、本気のルーシィに押されたフリをする。
やがて、コツリ、と額が合わさる。
瞬間。
「!」
超至近距離で、ぼぼぼ、と炎が燈るみたいに赤くなるルーシィ。
なんだ?とナツは思ったが。
それはナツでも一瞬見惚れるくらい――
「〜〜もうっ!」
ルーシィはそのままナツの手を振り払い、立ち上がってしまった。
どうやらナツの手が緩んでいたから簡単だったようだ。
グレイとの力比べのときはこんなことないのに。
軽く首を捻りながらナツはルーシィの後を追う。
「ルーシィ」
「な、何よ!仕事行くんでしょ!」
「? やっぱりお前、変だな」
「しつこいわよ!」
いや。
“変”じゃないな、とナツは思った。“気品”、とかとも違うし。
なら、今のルーシィは――
「ルーシィ」
「何!」
「――可愛い」
言って、ニッと笑えば。
「だぁかぁらぁ――」
突然振り向いたルーシィの拳は、グー。
「もう、からかうなー!」
「ぐはっ!?」
頬に一撃が突き刺さった。
――――げんじつかんをうすめるために
本気で言ったのに……!
* * *
前に『あなたへのてがみはぜんぶひらがなで』で加藤千恵の短歌。
これ、寝起きの1時間で書いた。プロットなし。ナツルーはノりだすとはやい。そして楽しい。しかしもうネタがない。あーナツルー書きたいもっと増やしたい。好き。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!