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Memo>>Short*Girls(100605〜100613)
*Memoに公開した女の子たちのお話です。





100605>>幽鬼編・初めてのお泊りの話【E+L】




エルザに半強制的に風呂に入れられた後、ナツとグレイとハッピーはすぐに床に潰れてしまった。
余程疲れていたのだろう。グレイにいたってはまだ傷も直ってないのだから仕方ないとも言える。
二人と一匹に苦笑しながら毛布を被せ、「この二人はこのまま床に転がしとけばいいとしてー」とルーシィはエルザを見た。


「エルザは私と一緒のベッドでいいわよね。狭いけど」
「いや、私もこいつらと一緒に床でかまわないぞ」
「そんなわけにはいかないわよ。エルザは女の子なんだから一応」
「一応?」
「あ!ととととにかく遠慮しないで!ね?」
「そ、そうか……」


途端にエルザは頬を染めた。
ゆっくりルーシィのベッドに腰を下ろし、もじもじっと膝を擦り合わせ、


「へ、変なことしないかっ?」
「しないわよ。てか誤解を受けるような発言やめてくれる?」
「こ、こう見えて私は初めてなんだっ」
「いやだからねエルザ」
「本当に初めてなんだ。こんなふうに仲間の家に泊まるのは」


言うと。
ルーシィはきょとんとした。


「そ、そうなの?ミラさんの家にも?」
「ミラ?ああ、ないな」


しばらくぽかんとしていたルーシィだったが、やがて照れたように笑った。


「――実はね、私も友達を家に泊めるのは初めてなんだ」
「え……」
「意外?」
「あ、ああ」


エルザは頷いた。
本当はさらりと告げられた“友達”という言葉に驚いていたのだが。


そういえば、とエルザは思う。
ルーシィのエルザに向けられる素直で年相応の人懐こい笑み。
ガルナ島であれだけ厳しくしたのに、それはまったく変わらない。
一度でもエルザに本気で叱られると、たいていの女の子はトラウマになる。
以前レビィやラキやビスカを叱った時もそうだったが、その後はしばらく近くに寄って来てもくれなかった。


だが。


「だから今日のお泊り会、ちょっと嬉しいんだ。あ、でもナツとグレイには内緒ね。絶対調子に乗るから」


心から嬉しそうにエルザに話してくれるルーシィ。
妙にこそばゆい感覚に、エルザは戸惑う。付き合いの長いナツやグレイにも嫌われてはいないのだろうが、元来ルーシィのように素直な連中でもない。


こんなふうに真っ直ぐに好意を向けられることに、慣れていないのだ。


それに。


「エルザ、聞いてる?」
「あ、ああ」


――“友達”、か。


微かに口元を綻ばせて、その言葉を噛み締める。仲間とはまた少し違う響きが、自分を年相応の女の子にしてくれるような気がして、むず痒い。


「……ルーシィ」
「ん?何?」


自分も伝えてみようと思った。
ルーシィのように表情や態度では素直に出せる自分ではないから、ちゃんと。


「好きだ」
「は?」


聞き返したルーシィにエルザはもう一度言った。


「私はルーシィが好きだ。仲間としても――“友達”としても」
「あ、そ、そっか……びっくりしたー」
「?」


ルーシィはえへへと笑った。


「私もエルザのこと、好きだよ!」


全力で“好き”を向けてくる、はにかんだ笑顔。
可愛いな、と思う。女の子だな、と思う。
自分には到底真似出来そうにない素直な笑顔を愛おしくもあり羨ましくもあり、少しばかり妬ましい。
でも自分にはないこの笑顔を、ナツやグレイとはまた違う意味で大切にしてあげたいと思った。


「それじゃあそろそろ寝よっか」
「む……や、優しく頼むぞっ」
「だから変なこと言わないでってば」
「ふ、ふつつか者ですがっ」
「だから、もうっ」


ルーシィはクスクス笑い始めてしまった。それでもやはりもじもじしながらエルザはルーシィの待つベッドに入る。
布団をかぶると女の子らしく、優しいルーシィの匂いがした。いつも鉄の匂いがしている自分とは違うが、すごく落ち着く匂い。


「じゃあおやすみエルザ」
「ああ、おやすみルーシィ」


額も触れそうな距離で笑いあって、目を閉じる。
明日起きたら、また遊びに来てもいいか――今日みたいに泊まりに来てもいいか、訊いてみようと思った。


ルーシィの返事は、変わらぬ笑顔だと信じて。












100606>>ナツルー連載補足【J+L】




朝早く呼び出されたジュビアがマスターから聞かされた話は、今日から闇ギルドに潜入するルーシィのサポートを頼みたい、ということだった。
ジュビアがルーシィと行動を共にするのは“楽園の塔”以来。
まだあの時の借りをライバルに返せていないと思っていたジュビアは、詳しい話は後でルーシィに訊くように、と告げたマスターに二つ返事で頷き、特に報酬も出ない仕事を快く承諾した。


「――それじゃあジュビアも一緒にその闇ギルドもどきに潜入しますね!」


ルーシィと二人きりでの打ち合わせが始まり、喜々としてジュビアが言った。
するとルーシィは困ったように笑って頭を振った。


「ううん。ジュビアはいつもみたいに闇ギルドを潰してくれるだけでいいのよ」
「え?でも……」
「潜入は私だけの仕事なの。だから、一人で行くわ」
「一人で……?」


ルーシィが何故この仕事を受けたのかをまだ聞かされていないジュビアは戸惑った。
ジュビアは自分で言うのも何だが闇ギルド潰しのスペシャリストだ。サポートどころか、不本意ながら危険から護ってあげることだってできるのに。
あの時みたいにアクエリアスだって喚べるのに。


「――わかりました。じゃあジュビアはルーシィがその男を発見してからサポートに向かうことにします」
「うん。ありがとう」


ほっと笑ったルーシィの顔に、何故かジュビアは少し苛々した。


そんなの、ルーシィ“らしく”ない。
“楽園の塔”の時も、最初はジュビアの後ろに隠れてたじゃないですか。もっと、怖いことは怖いって、無理なことは無理って言うのがルーシィじゃないですか。ちょっと情けないのがルーシィじゃないですか。
沸々と沸き上がる不満を隠してジュビアはニコッと笑った。


「じゃあジュビアはお手伝いをガジルくんに頼みますね!」
「は?な、何でガジル?」
「本当はジュビアグレイ様がいいんですけどー」
「それは駄目。他の人――特に最強チームには場所教えないで」
「……じゃあガジルくんくらいしかジュビアと実力釣り合う人居ないじゃないですか」
「ってゆーかジュビア一人じゃ駄目なの?」


不思議そうに、そんなことを言ってくるルーシィ。


「……ルーシィ、ジュビアでも一人じゃできないことはあるんですよ?」


ジュビアは胸に手をあてた。


「そう、ルーシィより断っっっ然グレイ様に相応しい実力を持つこのジュビアでも!」
「あーはいはいそうですねーよござんしたねー」


げんなりルーシィが言う。
いつもの顔して。らしくないくせして。
ジュビアは胸にあてた手を、きゅっと握り締めて。
「――それを」と零した。


「それを、ジュビアに教えてくれたのはルーシィじゃないですか」
「え……」
「ルーシィがジュビアに教えてくれたのに、何でそんなこと今更訊くんですか……!」


合体魔法を使ったあの時。
あの時のジュビアにはルーシィが必要だった。
あの時のルーシィとジュビアだからできた。
ルーシィとだから。


「……ジュビア?」


ルーシィの心配そうな声に、態度に、どうしようもなく苛ついて。


「――マスターのお願いでジュビアと無理矢理組まされるのが嫌ですか?」
「えっ……?」
「ジュビアが迷惑なら迷惑って言えばいいんですよ!」


ああ言ってしまった、とジュビアは唇を噛んだ。
そう、今回の件はルーシィから直接頼まれたわけでもない。
一人で平気、みたいなこと言われながらジュビアだけ張り切ってるなんて、馬鹿みたいじゃないか。


「そう……言ってくれたほうが、いいです……」


自分の出した情けない声で、気付いた。
――ああジュビアは、淋しかったんですね。
ルーシィに頼られると思ったのに、ちゃんと頼られないことが。嫌々、中途半端すぎるサポートなんて任されることが。


“仲間”なのに。
“仲間”って1番最初に認めてくれた人なのに。


その時。


「……ごめんジュビア。ジュビアは迷惑じゃないよ」


そっと、ジュビアの固くなった拳にルーシィの手が重なった。


「だって私がマスターに頼んだんだもん。サポートはジュビアに頼みたいって」
「え……」
「でも事情があって潜入だけは一人がいいの」
「事情、ですか?」
「うーん何て言うか、私の意地、かな」
「意地……」


ふとジュビアは重なったルーシィの手が冷たいことに気がついた。
前に握った時はもっと温かかったはずだ。


「………ルーシィは一人の潜入、ちゃんと怖いですか?」
「……うん」
「不安ですか?」
「うん」
「ジュビアの後ろに隠れてぷるぷる震えてたいですか?」
「あはは何それ……でも、うん。そうね。危ないことはやっぱり嫌よ」


ルーシィは力強く笑った。


「それでも、“私”がやりたいの」


ルーシィの目に宿るのは強い意思。
ジュビアがグレイと初めて対峙した時に恋したあの目と同じ、絶対に折れることのないそれ。


そうだ、ルーシィはどんなに情けなくてもカッコ悪くても、最後はちゃんと決める女なのだ。
それがジュビアには眩しくて、敵わないなっていつも思わされる。もちろん恋敵として敵わないなんて言ってられないが。


「……わかりました」


その時になってジュビアは漸く肩に入っていた力を抜いた。


「変なこと言っちゃってごめんなさい」
「ううん。心配してくれてありがとう」
「……心配?なんのことですか?」
「へ?」


ジュビアはニコッと笑う。


「ジュビア、ルーシィの心配なんかこれっぽっちもしてませんよ」
「はぁ?」
「ジュビアはただ恋敵に泣き付かれて優位に立ちたかっただけです」
「だから恋敵じゃ……」
「そしてジュビアに泣き付いてルーシィは気付くんです!グレイ様に相応しいのはジュビアしか――そう、ルーシィより断然グレイ様に相応しい実力を持つこのジュビアしかいないってことに!」
「あーはいはい。ホントにアンタいい性格してるわねー」


苦笑しながらルーシィは手を離す。
いつの間にかルーシィの手は温かくなっていた。
それがジュビアのおかげならいい。
少しでもジュビアがルーシィの不安を除いてあげられたなら、それでいい。


「ではルーシィが呼んだらガジルくんとすぐ駆け付けます。だからそれまで無茶しちゃ嫌ですよ?」
「うん。ありがとうジュビア。……でもこんな仕事ガジルがオーケーするかな」
「しますよ。だってガジルくんもルーシィのこと大好きですから」
「いやーそれはないと思うけど」
「そんなことないですよ。あ、でもジュビアの1番はグレイ様ですからね!」
「は?何の話?」


きょとんとするルーシィに。
だからー、とジュビアは笑った。


「ガジルくん“も”ルーシィのこと大好きって話です!」
















100613>>ケーキの話【E+L】(あおさんに捧げ物)




「………」


ゴクリ、とエルザは喉を鳴らした。
隣に座るルーシィの手元にある、白くて愛らしいそれを見て。


「エルザ?」
「あ……いや」


エルザは慌ててそれから目を逸らした。
それ――ルーシィが食べてようとしているエルザの大好物・イチゴのショートケーキから。


「えーと……エルザ、もしかしてこれ食べたい、とか?」
「む……いや、そんなことはないぞ」


いけないいけない。他人の食べているものを羨ましがるなど、まるで意地汚い子供ではないか。
ふ、と自嘲気味に微笑み、エルザは優雅に足を組む。
“平常心”と書かれた札で心に蓋。私はそんなケーキに興味はないぞ、をアピールした。


「ふーん、そっか。じゃあいただきまーす」


と改めてケーキにフォークを伸ばすルーシィの手元をちらりと盗み見る。
これくらいは許されるだろう――と思ったのだが。


「っ……!?」


――イチゴちゃんからだとっ!?


エルザの身体を衝撃が貫いた。
そう、ルーシィが真っ先にフォークで刺したのは、頂上を飾る鮮やかなルビー。
毎回1番最後の楽しみにと皿の隅にそれを避けて置くエルザにとって、美学に反する行為だ。


「………エルザ?」
「あっ!い、いや……」


あまりの驚愕に“平常心”の蓋は糸も簡単に剥がれ落ちていたようだ。
エルザは椅子に座り直し、まったくもって全然これっぽっちも興味はないぞ、な態度を取り直す。


「……エルザ、食べたいなら無理しなくても」
「む、無理なんかしていない」
「本当に?私食べちゃうわよ」
「もちろん!さあ、遠慮なく食すがよい!」


「言葉変よ?」と苦笑するルーシィ。
エルザはすました顔で、そっぽを向く。
でもやっぱりどうしても気になって、ちらりと再びルーシィを窺うと。
今まさに口元に運ばれようとするイチゴちゃん。


「あっ……」


思わず声が漏れてしまった。


「………」


慌てて口を押さえたがもう遅い。
ルーシィの視線が刺さる。ちょっと痛かったのと気まずかったのとで、エルザは慌てて顔を背けた。


「……エルザ」
「ゴホンゴホン……なんでも、ないぞっ」
「ねぇエルザってば」
「いや本当になんでもないんだ」
「ねぇ」
「ど、どうか私に構わず続けてくれ」
「エールザッ」
「だから本当にっ」


ぱく。


振り向いたエルザの口に、みずみずしい何かが飛び込んできた。
ルーシィにイチゴを食べさせられたのだと気付くのに、その甘酸っぱさが口の中にしっかり広がるほどの時間を要した。


「美味しい?」
「む……」


もごもご咀嚼しながら、子供みたいに頷く。
ルーシィはよかった、と満足そうに笑った。


「じゃ、残りのケーキは半分コね」
「い、いいのか?」
「もちろんいいわよ。ってゆーかそんな物欲しげに見られてて私だけ食べられると思う?」
「う……す、すまん」
「あはは謝んなくていーってば」
「では有り難く半分……」


と、言ったところで気付く。
半分コ、と言ってもイチゴはショートケーキに1つしかない。
それを今ルーシィはエルザに食べさせてしまった。エルザが物欲しそうにしていたせいで。
エルザの微かな動揺に気付いたのか、ルーシィはフォークでケーキを一口分切りわけ、はい、と先程のようにエルザの口元に運んだ。


「次回エルザがショートケーキ食べる時にはイチゴちょうだいね」
「え」
「で、またケーキも半分コ!」


いいでしょ?とルーシィの表情豊かな瞳がうったえてくる。
少し迷って、エルザはルーシィのフォークからケーキを食べた。
生クリームのとろけるような甘さとしっとりとしたスポンジの感触が広がる。


「ん……」


エルザは自然と口元を綻ばせ、先程の提案に快く頷いた。


そこに。
ただし、と付け加える。


「次のイチゴちゃんは最後のお楽しみだぞっ」














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