[携帯モード] [URL送信]
ついてそのまま永眠したい【Li*G*L】unf.


「…………」


俺が居ない間に、何があった。
ダイニングテーブルについたグレイは、膝にプルーを乗せたまま微妙な空気を発するの二人――キッチンに居るルーシィと、ソファーで本を読むリオンとの間で視線をさ迷わせた。


変だ。帰ってきた時から二人が妙によそよそしいというかなんというか。
なんだこの空気。何か、俺にとって望ましくないことが起きた気がする――
グレイは直感的にそう思った(そして、それはまさにビンゴなわけだが)。


「さ、ご飯にしよっか」


しばらくするとルーシィは湯気の立つ皿を運んで来た。
グレイがリオンにプルーをパスし、運ぶのを手伝う、と申し出ると容赦なくこきつかってくれた。たぶん今のリオンではこうはいかないだろう、とグレイは思った。
ダイニングテーブルに皿を並べて、ふと気付く。


「つかこれ多くねぇか?どう考えても1皿2人前以上はあるぞ」
「何よー。男のくせにこのくらい食べ切れないの?」


唇を尖らせて上目遣い。
ルーシィはその絶妙な破壊力をわかっていない。いや、だからこその破壊力でもあるわけだが。たまらないわけだが。
グレイは目を泳がせた。


「く、食うよ。ルーシィが作ったもんだし」
「じゃ、私お風呂入ってきちゃうから全部食べちゃってね。もったいないからお残し禁止」
「って、ルーシィは食わねぇのか?」
「……食べる?」


ツイ、と目が細められた。


「――こんな、時間に?」
「すみませんでしたぁあああああ!」


グレイは勢いよく謝った。
リオンが居なかったら土下座していたかもしれない。
それ程の殺気だった。


「じゃ、行こうプルー」
「プーン」


事も無げにと日課のプルーとの入浴に向かうルーシィ。
グレイはこの時間における食事は厳禁だということをは知った。
次からは絶対気をつけよう。絶対だ。
心に誓うグレイだった。


しかし、ルーシィは結局リオンとは目も合わせなかったな、とグレイは思った。
まああのリオンが本能に任せて暴走――っていうことはないはずだ。
そういう部分は信頼している。堅物だし。


「さて、食うか」
「……ああ」


頷いたリオンの対面の席に座り、いただきます、と同時に手を合わせる。これはウルの教えだ。厳しかった躾を思い出し、二人で苦笑した。


目の前に並べられた、ルーシィの作った具だくさんの海鮮パスタ。料理の前に、残り物を使う、と宣言してたくせに豪華だ。
それにサラダとスープ。スープは流石にインスタントだが、即興にしてはなかなかだ。
わざわざ買いに行かせたタバスコはこのパスタのためだったらしい。トマト風味のそれにはグレイは必ずタバスコをかけていたのをルーシィは覚えていてくれたようだ。


グレイがタバスコを振り掛けていると、先に一口食べたリオンが「うまい」と吊り気味の目を見開いた。
何故かグレイは得意な気分になった。身内を褒められて悪い気はしない。


「だろ?ルーシィはどんどん料理の腕上げてるんだぜ」
「そんなに何度も食べているのか?」
「いや、まあ、時々な」
「そうか。……羨ましいな」


――羨ましい?
らしくない発言にグレイのフォークが一瞬止まった。








食事を終えて食器を流し台に片付けたグレイはスポンジを手にしていた。
リオンはリビングで読書を再開している。片付けを申し出たリオンに、土産を持って来てない分働かせろてか働かなきゃ女王様に殺される、と言い訳して断った。


でも本当は、なんとなく。
リオンとは、居づらかったからだ。


「あ、片付けしてくれたんだね」


水洗いしているとひょこりと風呂あがりのルーシィが顔を覗かせた。
おろした髪からはシャンプーの甘い匂い。
実は結わえているときよりも大人っぽくて好みだったりするのだが、そこに触れたことはない。


「ここはいいから休んでろよ」
「そうはいかないわよ」
「いいって」
「グレイに任せたら危ないもの」
「うわ信用ねーな」
「当然」


ルーシィはニヤリと笑って布巾を手に取った。グレイは洗い終えた皿を手渡す。
並んで洗い物を開始するとまるで夫婦みたいだ――なんて考えて、くそ、にやけてる場合じゃねぇだろ!とグレイは己を叱咤した。
ルーシィが着ているのは安物のTシャツなのか、洗濯の繰り返しで溶けたところから下着や肌が透けている。
そういうのは、なるべく見ないに越したことはない。グレイは精神衛生上よろしくないそれを極力目に入れないようにした。


「……飯、うまかった」
「本当?」
「また腕上げたんじゃねぇの?」
「ふふん、でしょでしょ?自慢したかったから調子に乗っちゃってさー」
「ああ、だからあの量」


あれは流石にきつかったぞ、と苦笑すると「でも、全部食べてくれたんだね」とルーシィは嬉しそうに笑った。


「お残しされてたらどうしてやろうかと思ったわ」
「どうしてたんだよ」
「……知りたぁい?」
「いや、やっぱいいわ」
「ふっふっふっ、ヒントはプルー」
「はははなんとなくわかったからもういい」


あ、そうそうと付け加える。


「リオンもうまかったってよ」


言った瞬間。


「え、あ、そっか……」
「………」


カシャン。
ルーシィが皿を重ねる音が妙に響いた。


グレイはルーシィのことが好きだ。気付いたのはほんの最近だが、たぶん、前からずっと。
だからこそ。
ルーシィの動揺や変化には、誰より目敏く気付く。もちろんルーシィという少女が取り分けわかりやすい、ということもあるが。


「――お前さ、リオンのことどう思う」
「えっ?」


やはり、ルーシィはギクリとした。
それでも動揺を隠しながら、皿を布巾で拭い続ける。


「え、えーっと、ちょっと駄目なお兄ちゃんって感じかな?」
「……本当に?」
「そうじゃなきゃ頭撫でさせたりなんか……」
「撫でられたのか!?」
「え、うん。まあ」


何だよその煮え切らない返事。
てかリオンあの野郎何してんだよ。そういうキャラじゃねーだろ。
グレイが内心悶々としていると、「本当だって」とルーシィは笑った。


「リオンは、駄目だけど優しいお兄ちゃんだと思う」


きっぱり言った。
それは迷い無く。
いつも強気のルーシィらしく。


「グレイと同じで」
「………」


最後のは余計だ。
グレイは思わず握力で皿を割りそうになった。


「んん?ということは私とシェリーが姉妹になるのか……むむむそれはすごく微妙だわ」
「………お前時々意味わかんねーこと言うよな」


想像力たくましすぎてついてけねーっつの、とグレイはため息。
リオンがどういうつもりかはわからないが、ルーシィにその気がないなら大丈夫だ。
そう思った。


「そういえばね、この間ヒビキにもサイン貰ったの」
「はぁ?いつ?」
「この間偶然会ったのよね。頼んだら喜んでしてくれたわ」
「……チッ、思わぬ伏兵かっ」
「? 何か言った?」
「言ってねーよ」
「あとね、ヒビキに頼んで天馬の人たちにも貰えることになったの」


やっぱりもつべきものは知人よねー、なんて友達以下扱いのヒビキに同情しつつも即座にライバル候補から抹消。
皿を洗い終えたグレイはシンクを手早く磨きながら、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「てかそんなにサインなんか貰ってどうすんだ。売るのか?」
「売らないわよ。売るならそのグレイのシルバー」
「超やめてください」


咄嗟に手で隠す。
ルーシィは冗談よ、と肩を竦めた(いや、今のは獲物を狙う鷹の目だったとグレイは思った)。


「だってね、私嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「うん。私が憧れた世界で、憧れた人たちに出会えるのがすっごく嬉しい」


ルーシィは笑う。


「私、今ここに居ることがすごく幸せ。だからこれが夢じゃない証が欲しくかったの」
「――…………」


「なーんちゃって。私ってば熱く語りすぎ?」と照れ隠しにわざとらしくからから笑う。
それが、あまりにも健気に思えて。
もう駄目だった。


衝動的に、グレイはルーシィの頭に腕を回した。
強引に、胸に抱き寄せる。


「わ、ちょ、グレイ髪濡れるって」
「まだ乾かす前なんだからいいだろ」
「よくないわよ」


それでも抵抗や警戒がないことに安堵して、頭をくしゃくしゃと髪を撫でてやる。
甘い匂いの髪が、頬をくすぐった。


ルーシィを見ていると時々、たまらなく甘やかしてやりたくなる。
可愛くて可愛くてどうしようもなくて、兄のように守ってやりたくなる。


「ちょっと、グレイ?」
「………」


でも矛盾する本音では、このまま無理矢理でもキスしてやりたいとも思ってる。
本能のままに触れて、この薄いTシャツの下の柔らかな身体を撫で回して。
好きだって、ぶちまけてやりたい。


でも、すぐ向こうにはリオンもいる。
兄のように慕ってくれるルーシィを動揺させたくもない。
自分が傷つくのも、少し、怖い。
だから。


「……わり」
「え?」
「髪に泡付いた」
「はぁあ!?ちょっとぉ!?」
「はは、ウソウソ」


そっと手を解いた。
これくらい許されるだろうと、髪に唇を掠めさせて。
もちろん、ルーシィには絶対覚られないように。















*グレイ超オスくせぇ。まだまだ続く。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!