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とどのつまりは所謂やっぱり【Li*G*L】end


『………』


思わぬ氷河期を味わった二人の氷の造形魔導士は、今、白い円形のテーブルについている。
場所は移動して、先程の道から少し離れたところにあった、可愛い感じのカフェ。
「折角偶然会えたんだから、仲良くしなきゃ」とお節介なルーシィに引きずられるようにして入ったそこで、そっぽをむいたまま、どちらも動きを見せずにいた。


同じテーブルにルーシィの姿もある。オレンジジュースをちゅーと啜りながら、二人の様子を見守って(見張って)いる。
「じゃ、あとは弟子水入らずでー」と帰ろうとしたルーシィを奢るからという提案で――こんな以前のシェリーが好みそうな雰囲気の女だらけの空間に男二人で残されるのとか想像しただけで青くなったリオンである――引き留めたのだ。
しばらくして、ルーシィははぁ〜と嘆息した。


「ねぇ、いい加減何か話せば?」
「……別に話すことねーし」
「さっき普通に話せてたじゃん」
「んなこと言われても」


グレイは憮然としていた。今更どうしろっつんだよ、という態度。
リオンも同じ考えだった。グレイ相手に腰を据えて、なんてどうも性に合わないのだ。
目を逸らし、黙々とコーヒーを啜っているとルーシィはリオンに標的を移した。


「じゃあ、いいおにーちゃんのリオンくんはぁ?」


じとり、とした視線。
グレイに向けられるものより厳しいのは一応兄弟子だからだろうか。これ以上黙然としていたらまたブリザードを起こされるかもしれない。
リオンは渋々口を開いた。


「オイ、グレイ」
「……んだよ」


とは言え話題なんてものはあるわけはなく。
少し考えて、“二人”の話題を探そうとするから悪いのだと思った。
ならば。


「お前とルーシィはどういう関係なんだ?」
『は?』


きょとん、とするグレイとルーシィ。


「だいぶ前から一緒だろ?付き合ってるのか?」


第三者を巻き込むことにしたリオンのド直球な質問。
それにルーシィは「あはは、ないないないない!」とからから笑った。


「なんだ違うのか?」
「もちろん」
「じゃああの桜色マフラーのほうだったか?」
「ナツ?ないない」
「まさか妖精女王と」
「もっとないわよっ!」
「……もしかして相手が居ないのか」
「い、居なかったらなんだって言うのよ」


む、と威嚇するように睨み付けてくるルーシィに苦笑して、「いや」とリオンは言った。


「勿体ないと思ってな」
「は?」
「折角可愛いのに」


ポツリと零したそれ。
途端にぼぼぼぼっとルーシィは赤くなった。
「ん?どうした?」とリオンが覗き込もうとしたら「み、見なくていいの!」と肩を押し返された。


「てゆーか私に話掛けてどーすんのよ!弟子水入らずしなさいって言ったでしょ!」
「ああ」


そういえばそうだな、と思い、一切会話に絡んでこなかったグレイを見れば。


――目が、虚ろだった。


先程のルーシィの「ないないないない!」が刺さったまま、時間を止めていたのだ。
何と無く弟弟子の事情を察したリオンは、ぽん、とグレイの肩に優しく手を置く。そして、これ以上ないほど生暖かく微笑んだ。


「グレイ……辛いなら言えよ」
「オイ、なんだその哀れむような目は」


グレイの瞳が漸く焦点を定めた。


「い、言っとくけど違うぜ、別に俺は……」
「そう強がるなグレイ」
「ほら甘えなよグレイ」
「やかましい!つか何気息ピッタリだなお前ら!?」


肩に置いたリオンとルーシィの手が振り払われた。
いつの間にか混ざって同情していたルーシィに、原因はお前だとどれだけツッコんでやりたかったことか。
まあ傷口に塩を塗り込めた点では最高だっので文句はない。


「そうかグレイもそんな年頃か」
「何が言いてぇ」
「いや……『ないないないない!』か」
「!?」
「ん、どうしたグレイ。顔が強張っているな」
「う、うるせーよ」
「そろそろ泣くか」
「泣かねーよ!お前だってシェリーにフラれたばっかのくせしてよ!」
「フラれてない。というかそういう関係ではないと言ったはずだが理解できなかったのか?」
「んだとテメェ!」


グレイをチクチク虐めながら余裕の表情でコーヒーを啜るリオン。
ふと、ルーシィが優しい目をしてグレイとリオンを見ていることに気がついた。
「な、なんだ」と思わずリオンがたじろぐと、ルーシィははっとして、


「あ……ごめんグレイ虐めの邪魔して」
「いや虐められてねーし」とこれはグレイ。
「やっぱり仲良いなって思ってただけ」
「別に仲良くなんかないぞ」
「もう、リオンの嘘つき」


ルーシィはニコッと笑った。


「だって仲良く裸じゃん?」
「っ!?」「はっ!?」
「わかったら早く着なさいね変態露出狂共」


冷ややかな言葉とは裏腹に、表情もトーンも柔らかい。
他女性客の目も気になって、リオンはグレイと競うようにして服を着る。


「つかお前気付いてたなら早く言えよ!」
「いや、だってさぁ」
「だって何だ」
「あっちの席の女の子が写真撮ってたからサービスを」
『どんなサービスだ!?』


思わず声が揃う。
ルーシィは「ほら息ピッタリ!」と嬉しそうに笑った。





――その後、結局それなりに会話は弾んだ。


話をしてわかったのはルーシィがよく笑う女の子だということだ。
そして容赦ないツッコミの小気味よさ。
それが面白くて、珍しくリオンも饒舌になった。


それともう一つ。
グレイのルーシィを見る目の柔らかさ。
リオンがシェリーに向けていたものとはまた違うそれを見せつけられて、時々いたたまれない気分にもさせられた。


カフェを出て、グレイたちと別れる時になって。
何故かルーシィがリオンに歩み寄ってきた。


「……ねぇリオン、また会えるかな」
「ああ、たぶんな」
「じゃ、じゃあさ、その時にあの……できたら……」


それまで遠慮がなかった彼女らしくなく、もじもじと言いにくそうにするルーシィ。
その醸し出す空気に妙に緊張し、そわそわとリオンが続きを待っていると、ルーシィは意を決したようだ。


「こ、今度会ったら……」
「あ、ああ」


うつむきかけていた顔を上げ、頬をほのかに染めながら、ルーシィはついに言った。


「りっ、リオンが表紙のソーサラーにサイン貰っていいかなぁ!?」


………………ソー、サラー?


リオンが呆然としていると、「あー」とグレイがポンと手を打った。


「そういやぁルーシィ、確かミラちゃんからも貰ってたよな。グラビアのページにサイン」
「だって昔からずっと愛読してるソーサラーに載った人が目の前に居るんだよ!?だったらサインもらわないと!」
「ははーん」グレイはニヤリと笑った。「だから最初リオンに敬語だったのか。うわミーハー」
「うるさい!……あの、お願いできますか?」
「また敬語だし」
「グレイは黙ってて!」


以前リオンはソーサラーに取材を受けて表紙を飾った。
その後しばらくミーハーな連中に魔導士一般人問わず騒がれて、正直面倒だったりもしたが――
何故かルーシィに言われるのは嫌な気分ではなかった。
「だ、駄目、かなぁ」と不安そうに瞳を揺らすルーシィに苦笑を漏らし、


「まあ、サインくらいなら」


と微笑むと、


「やった!ありがとう!」


ぎゅ、と両手で右手を握ってくる。
思わず身を引きかけたリオンだったが、それよりもルーシィの引く力が強かった。
ぶんぶんと力強く、一方的な握手をして、


「じゃあまた今度ね!」


ルーシィはくるりと身を翻してあっけなく行ってしまった。
まるで台風のような去り際だ。
呆気に取られたまま、握られた手を見下ろす。


「変な女……」


だがやはり、嫌な気はしなかった。


「――オイにやけてんじゃねーぞ変態」


ひゅ、と右フックがリオンの耳を掠める。
今度はしっかり避けることができた。
ゆっくり振り向くと案の定グレイの姿。どうやらお節介な彼女は最後の最後に弟子水入らずとやらを実践させたいらしい。
リオンはふぅと嘆息した。


「なんだ。まだいたのか」
「居てわりぃかよ」
「悪いな。気分が」
「やかましい」


グレイはフンと鼻を鳴らした。


「――手ぇ出すなよ」
「……なんの話だ」
「アイツ――ルーシィの話だ」
「お前がフラれた話か」
「フラれてねーよ!」
「『ないないないない』が?」
「くっ……今だけだ!」
「今っていつまでが今だ?10年後か?」
「……テメェ」
「ん?何だこの手は」


リオンは乱暴に胸倉を掴みあげた手を冷たく見下ろし、それから同様にグレイの胸倉を掴み上げる。
額がぶつかりそうな距離で睨み合う二人。
周囲の人間も思わず避ける、ああんコラやんのかコラテメェマジで殺すぞコラな空気に。


「――ねぇ」
『!』


ひやり、と冷気が漂った。






――――とどのつまりは所謂やっぱり






「私さぁ、仲良く水入らずしろってぇ……」
『すみませんでした!』







* * *
天然タラシ兄弟と無邪気な妹的なトリオ。ボケもツッコミもこなせる3人だからこそできる。
あとグレイをからかうリオン様を書けて楽しかった。兄弟ジャレジャレ万歳。
ここからリオルーがマイナーじゃなくなればいいのに……。マイナーでもきっとまた書くよ私だけでもねっ。
リオルー布教委員会会長もす。うん、勝手に名乗る。

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あきゅろす。
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