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どっち道どの道どうせ結局は【Li*G*L】↓


ドン、とそれらはぶつかった。
リオンの肩と、グレイのそれが。


『………』


白昼、まばらに人の行き交う道の中央。
ぶつかった部分でじりじり押し合うようにしたまま無言で睨み合う、別々の仕事を終えて偶然出会った二人。そして妙な気配を感じてか、それを避けるようにして人は流れる。


なんとなく、だが。
グレイから当たりに行ったように見えなくもなかった。いや、見えなくもない、だけで証拠はないのである。
やがて、グレイはへらりと笑った。


「――あー悪い。俺、肩幅広いもんで」
「……いや、いいんだ。気にするな」


リオンも微笑んでグレイに道を譲る。大人の対応である。
グレイがフンと鼻を鳴らして歩き出した。
瞬間。


「!」


グレイの足首に掛かるリオンのそれ。
こける寸前でグレイは踏み止まって、目を鋭くしてリオンを振り向いた。
リオンはニタリと笑った。


「――すまん。足が長いもんでな」
「は、はは、気にするなよ。よくあること――だ!」


気合いと共に顔面に向かってきた拳。リオンは左の掌で受け止めた。


「……何の真似だグレイ」
「蝿だよ蝿。うるさそうだったから殴ってやろうと思って」
「そうか。それは親切に――なっ!」


空いた右手が風を斬った。それはグレイの脇腹に突き刺さる――寸前でグレイは身をよじった。服を掠めた拳を見送り、ヒュウ、と口笛を鳴らす。


「おいおい、何すんだ兄弟子さんよぉ」
「蚊だ。可愛い弟弟子が痒いのは可哀相だと思ってな」
「……はーん。それはどー……もっ」


首を刈り取らん勢いのハイキック。リオンは腕で受け、


「なんだ、また蝿……かっ?」


すぐに拳を返した。グレイは上半身を横に倒して躱し、そのまま回し蹴りを放つ。
鋭くこめかみを掠めるそれにもリオンは涼しい顔。地面に戻る寸前のグレイの蹴り足を払う。
バランスを崩されたグレイだったが、転ぶことなくさらに連続の回し蹴りを放とうとする。


しかしその時には既にリオンはバックステップで距離を取っていた。華麗なヒットアンドアウェーだ。
グレイはチッと舌打ちして――シャツの衿に手をかけた。


「あーマジでうるせー蝿!」
「まったく本当にしつこい蚊だ!」


毒突き合いながら、同時にばっと邪魔な上着を脱ぎ捨てた。
そして、とん、と拳を掌に置く独特の構えでもって


『アイスメイク――』
「やめんかぁああ!」




ドゴォオオオ!?




怒声と共に二人の間に斧が振り下ろされた。土煙が舞い、二人の視界を遮る。
魔法を中断して目を庇うようにおおっていた腕を外すと、そこに居たのは筋骨隆々な牛――タウロスだった。


「アンタらねぇ、通行人の迷惑考えなさい!」


そこで漸く声が牛とはまったく違うところからしていることに気がついた。
二人が声のした方向を見ると、金髪の少女が樽の陰から頭だけを覗かせている。


「うわー樽の後ろから言われてもなー」
「口答えしないのグレイ!ってゆーかこんなところで喧嘩なんて常識ってもんがないわよ!」
「言われてるぞリオン」
「お前のことだろグレイ」
「両方よ!ってゆーか服着ろアンタら!」


ぴしゃりと言われ、渋々脱いだ服を拾い上げて着直す。
それを確認したルーシィは漸く樽から出て来た。


「つーか何でお前だけ避難してるんだ?」
「だって私喧嘩に巻き込まれるのヤダもん。危ないじゃない」
「……ルーシィさん、その理論だと自分は巻き込まれてもいいように聞こえますがMOー?」


タウロスが言うと。


「――タウロス」


ルーシィは胸の前で祈るように指を組んで――そのまま腕で乳を寄せた。


「アンタを信じてるのよ?」
「MMMMO〜!?」


ふんごーっ、と鼻息を荒くするタウロス。目線はもちろん柔らかな奇跡の谷。
「ルーシィさああん!」と飛び付こうとしてきたタウロスを軽やかに躱す。それでも尚食い下がろうとするタウロスを、ええいしつこい、と強制閉門。
そんなやり取りを見たリオンはくつくつと笑った。


「――成程。これが例のルーシィとタウロスのやり取りか」
「へ?」


ルーシィはきょとんとした。


「リオン、さん、私の名前知ってたんだ……ですね」
「なんだ、今更敬語なんて必要ないだろ?」
「そうだ。さんも付ける必要ないぞ」
「貴様は黙れグレイ。一緒に仕事もしたんだ、名前くらい知ってるに決まってる」
「じゃあタウロスはなんで?」
「ああ」


やり取りを思い出したのかリオンはまた少し笑った。


「シェリーから聞いていた。ルーシィが星霊に卑猥なこと言わせて喜ん」
「でないからね!?」
「なに、恥ずかしがるな。誰にだって性癖はある」
「爽やかに性癖とか言うな!」


と、くだけた感じにツッコんで。


「あれ?そういえば今日はシェリーは一緒じゃないんだ?」


あらためてルーシィはリオンの周りを見回す。しかしルーシィの天敵の姿はない。
リオンを慕う彼女はどこに行くにも常に一緒のイメージがあったのだ。


「ああ」


リオンは苦笑した。


「シェリーはレンと食事だそうだ。この前の天馬のレンと」
「あ……」


ルーシィはさっと申し訳なさそうに視線を逸らす。


「ご、ごめん私知らなかったから……」
「オイ、何で気を使うような空気にする」
「リオン……辛かったら言えよ」
「グレイ何だその哀れむような目は」


二人のその腫れ物を扱うような態度で考えていることが嫌でもわかってしまう。
リオンは嘆息した。


「違う。シェリーはそんなんじゃない」
「強がるなよリオン」
「淋しいのねリオン」
「だからその同情の目はやめろ!というかお前ら息ピッタリだな!」


ポン、と優しく労るように両肩に乗った手を乱暴に振り払う。
それでも生暖かい目をやめてくれない2人に「ったく」と悪態をつき、リオンは言った。


「シェリーはなんというか……妹みたいなものだったんだ。確かに淋しいといえば淋しいが、アイツが幸せなら俺はそれでいい」
「負け犬の遠吠えか」
「黙れグレイ」


しかしルーシィだけはようやく同情の真似事をやめてくれたようだ。
ふうんと唸ってにんまり笑い、ポン、とリオンの背中を叩いた。


「優しいおにーちゃんしてるじゃん」
「ま、まあ、な」


何と無く、だが。
リオンは目のやり場に困った。


そういえばこんなに近くでまじまじとこの少女を見るのは初めてだ。
今は悪戯っぽく光る鳶色の表情豊かな目。白いが健康的な肌に一点、桃色の唇。
シェリーも言っていたが、成程、なかなかどうして可愛――


「おいむっつり」
「!」


リオンの腰に膝が刺さった。
男の命への攻撃に思わず崩れ落ちそうになりながら、リオンはグレイを睨んだ。


「何をする」
「何をする、じゃねーよ。うちの姫様の胸元じろじろ見てんじゃねーぞ変態」
「……何の話だ」
「性癖の話だ」
「ああ、グレイ貴様のか」
「テメェだよ」
「貴様だろ」


ああんコラやんのかコラ殺すぞコラ、という感じで睨み合っていると。


「――あれぇ?」


ねっとり絡み付くような声がした。
ビクッとしてそちらを振り向けば、ニッコリと愛らしい飛び切りの笑顔を見せるルーシィ。
なのに目は、笑っていない。


「私、さっきやめろって言ったわよねぇ?」
『!』



ひゅおおおっ。



――その時、二人には横殴りの吹雪が見えた。
懐かしい雪山で味わった、氷よりも尚冷ややかなそれ。


グレイとリオンは言葉を失い、ただただ凍り付くことしかできなかった。










――――どっち道どの道どうせ結局は





* * *
長くなったので後編に続くっ。
マジでリオルー書きたくてムラムラムラムラ。今、リオルーが旬だと思うんですがどうですか。

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あきゅろす。
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