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自分の無理も【R*L】↓


――もしかして我慢してる?


なんて、そんな微妙な顔して訊かれても困る。


もしかして、なんてそんな。
そんなこと。




もしかしてどころじゃねぇええええ。




…………なんて言えない言えない無理無理無理無理あははははは……………はあ〜。




* * *




深いキスの後、ルーシィはロキに身体を預ける癖がある。
額を胸にくっつけて背中に腕を回して息を調える。それは例えるならば溺れた者が新鮮な空気を肺に入れるためにライフセイバーにしがみつくような、そんな自然な行為。


そんなことはわかっている。わかっているがしかし、ロキにはどうしてもそこで与えられる妙な間が辛い。
こんなへにゃへにゃで可愛い据えぜ……ご主人様を前に、何もできないなんて。
何もしない、なんて。


「………」


その時芽生えたのはほんの僅かないたずら心。
ちょっと反応が見たくて、困らせてみたくて、ロキはそろそろと華奢な背中に手をやった。


まさぐるように動かしたその一瞬。
ぷちっと奇跡の早業でブラのホックを外す。


刹那。


「――!」


腕の中でルーシィの身体が強張るのを感じた。
あれ?ただのいたずらで何この反応?
ロキは戸惑う。
「調子に乗るな色ボケ星霊!」って愛しの右ストレートが飛んでくると期待していたのだ。


「………」


――あ、そうか。


震えないようにと腕の中で懸命に耐える女の子を見て、ロキは漸く思い出した。
この関係になる前、ロキは2回ほど理性を失ったことを。
そのうちの1回なんて、加害者のロキでさえ思い出したくもない醜さだったことを、まざまざと。


一方的に向けられる欲望。
それがルーシィの心に傷を残していてもおかしくはないのに。
思い至らなかった、なんて。


「………」


次の動きに備えるように身を固くするルーシィの背中を、ロキは指でそっと撫でる。
捜し当てたそれを、ぷち、と服の上から嵌めた。


そして。


ふっふっふっ、と笑った。


「見たかいルーシィ。これが僕の秘技・瞬間ホック外し嵌……」


と、次の瞬間。
ガツン、と下から顎を突き上げる世界の右。


ダウン。
ワン、ツー、スリー……


「この馬鹿星霊っ!」


カンカンカン。


いろんな意味で顔を真っ赤にしたルーシィに怒鳴られて無事試合終了。
いつものじゃれあいでめでたしめでたし。




それが、およそ1週間前のことだった――








パッポー


時間は進んで今現在。
ルーシィの微妙に引き攣った表情から目を外し、ロキはだらだら脂汗を流していた。
嫌な汗だ。早く星霊界に帰ってさっぱりしたい。帰っちゃ駄目かな。むしろ帰らせて下さい。
そんなことを考えていたら、


「ロキ、こっち向きなさい」
「うぐっ」


ネクタイを引かれ、無理矢理視線を合わさせられた。


「ね、ネクタイ引っ張るのはやめてほしいなぁ。犬の気分になるから」
「犬じゃない」
「いや獅子だよ僕」
「え、獅子のつもりだったんだ」
「つもりっていうか獅子宮だけど?」
「でも犬っぽいもん」
「犬はプルーじゃん」
「ってゆーか今更だけどプルーって本当に犬なのかしら」
「え?なんで?」
「だって最近虫っぽ……じゃなくて!ごまかさないの!」
「ルーシィも乗ったくせにー」


ってゆーか虫って何、とか思いながらぶーぶーと不満をアピールすると「やかましい」とネクタイの結び目をぎゅうううっと上げられた。
その絞め技に「ぐえぇ」と大袈裟にギブアップを訴える。
なんという横暴。なんという女王様。星霊虐待反対だ。


手が緩められてほっと息をつき、首を押さえる。
文句を言ってやろうと思ったのに、ルーシィがちょっと場都が悪そうに下唇を突き出してるのとか見ちゃったらああもう可愛いなチクショウとか思って何も言えなくなってしまうあたり重傷だ。そして犬だ。忠犬だわん。
そんなことを考えていると、女王様はもごもごと口を動かし始めた。


「ねぇ、ロキはさぁ……」
「わ……うん」
「しっ……したい、の……かな?」


それはルーシィらしくないほど直球だった。
ロキが思わず息を飲むくらいに。


ふざけて躱してもよかった。躱すべきだったのかもしれない。
でもルーシィの目は真剣。
本気で向き合おうとしてくれているのがわかってしまったから、ロキはため息をついた。
そして同時に、表情を消した。


「――どう、答えてほしい?」


道化をやめた男の声で、目で、仕種で。
一人の女の子――恋人と、対峙する。


「ど、どう、って……」


唐突に雰囲気を変えたロキに戸惑って、微かに、ルーシィの肩が震える。
気丈に振る舞っているのは見え見え。
思惑通りに怯えてくれたルーシィに、ロキは安心して頬を緩めた。


「――僕は、ルーシィが好きだよ」


本当はもっと警戒してほしかった。
これ以上傷つけたくはなかった。


だから優しく、優しく。
でも男の声でしっかりラインを引いて。


「好きだからこそ、まだ我慢できるから」


ロキは言った。
心からの本音とは言えないけれど、それでもちゃんと望んでいることを。


なのに。


「……なん、でよ……」
「え?」


低く、何かどろどろしたものを押し殺すような声にロキは怯んだ。
ルーシィの強気な目が潤んでいたせいもあった。


「わ、私……」


キッとロキを睨み、握り拳を振り下ろす勢いで、


「わ、私、ロキにならいいもんっ!」


ルーシィは衝撃的に言い放つ。


「……………………」


え。待て。それって。え。つまり。
いいのか。駄目だろ。誘ってんだぜ。またいつもの天然だって。いやだけど見ろよこの目マジだ。違うよ意味わかってないだけだって。だってマジっぽいぞ。嘘だまた最後には怖がるに決まってる。


左右で言い争うのは理性と本能か。天使と悪魔か。
迫力に気圧されるかのように、ロキは思わず後ろに後退さった。


何か言わなきゃ。
こんなに震えながら、それでもルーシィが頑張って言ってくれたんだから、僕も何か――


「きょっ……」


ひくっと口元が引き攣った。


「今日のおかずは間に合ってますのでっ!」


言い残したロキは逃げるように星霊界に戻った。
うっわ我ながらとんでもない言い訳だー、とか思いながら。





結局その日、ルーシィからの呼び出しはなかった。








――――自分の無理も




* * *
へたれ犬ここに極まれり。
昔の書き方に戻そうとしたけど難しいなぁ。文章コロコロ変わってすまない。

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