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今さらだろう?【G*L】↓


デートのつもりだった――


そうグレイが告げてから、ルーシィの態度は急激に変わった。


花のように可憐に咲いていた笑顔は固くなるし、ちょっとでもグレイが触ろうとするものなら小動物みたいにビクビクするし。
なんというか、見かけによらず純情、という特性を全力で発揮しはじめたようだ。


次第に会話も途切れ、ケーキも片付け、会計を済ませて店を出れば、ルーシィはまたプルーをぎゅうっと腕に抱いて、警戒するようにグレイの後ろを歩く。


――まずったか。


グレイは内心嘆息した。
昨夜も気が急いてあんなことになったばかりだというのに。
流石に反省を通り越して自分に嫌気がさすってものだ。


「なあルーシィ」
「ななななな何っ」
「なが多いぞ」
「そそそそそそう?」
「そが多いぞ」


グレイが視線をやるたびにカチコチと、ぜんまい式のおもちゃのようにぎこちない歩き方になるルーシィ。行きの軽快な足取りは見る影もない。
折角の可愛さが台なしだ、とか言ったら更にカチコチになるだろろうから言わなかったが。


嘆息して、少しでもルーシィを見ないでやろうと目を逸らそうとした瞬間。


「ひゃっ」


ルーシィが段差に気付かず、踏み外した。


「おっと」


咄嗟にグレイが腕で支える。
一瞬。
手の平に収まり切らないほど豊かで柔らかな感触。


「っ……」


しまった、間違えて胸を掴んで――
とか思ったら


「プーン?」


プルーの頭だった。
チクショウ俺の感動を返せぇええとかちょっぴり思ったが。


「ごごごごめんっ」
「あ、ああ……」


相変わらずごが多いルーシィはグレイをプルーで突き飛ばすように姿勢を立て直した。
やはり、空気は重い。
数時間前、ギルドで同じことがあってもこんなふうにはならなかった。飛び切り可愛い顔をグレイに見せてくれた。今みたいに引き攣ったりしてなかった。


たった、数時間なのに。
何だ、この距離感は。


「ここここれから、どこ行くのっ?」


沈黙に耐えられなかったのか、ルーシィは頑張ってつくったような笑顔で訊いてくる。


意識されるのは男として悪くない。
だが、こんな状態でデート?
そんなもの、このまま続けても可哀相すぎるだけだろう。
ルーシィもグレイも、互いに。


だから、


「――ギルド」
「え……?」
「まだ明るいし、戻って時間潰そうぜ」


皆のところに戻れば少なくともルーシィがこんなになることはない。
そう思っての提案だった。


意識はされたい。
でも普通に話して欲しい。
普通に接して欲しい。
普通の――いつもの笑顔を見せてほしい。


そのためには、このデートはとっとと終わらせるべきなのだ。


なのに。


「――グレイは、帰りたいの……?」


ぽつり、とルーシィは呟いた。
儚げに震える身体は、腕に抱えたプルーのせいか。まるで捨て犬みたいなルーシィの濡れた瞳がグレイを刺した。


グレイは思わず息を飲む。
でもどうしたらいいかなんてわからず、何も言えないでいると、


「……わかった。帰ろ」


ルーシィは笑った。
力無く、淋しげに。


「っ……」


ルーシィのための提案でもあったはずなのに。
こんな顔をさせるためじゃないのに。
当惑して、なんとか言い訳しようとして。
でも結局言えずに立ちすくむグレイの目に、ふとあるものが入ってきた。


「……ちょっと待ってろ」
「え……?」


言って、グレイはルーシィとプルーをその場に残した。






やがて戻って来たグレイはルーシィに駆け寄ると、


「て」


いきなり単語にもならない一文字。
「え」と同じく一文字で困惑するルーシィに、「て」と繰り返し


「手ぇ出せ」


言いながらグレイはルーシィの手を片方プルーから奪うと、自分の掌を押し付けた。
否。
掌に包まれていた、シルバーのピアスを。


「これ……」


ルーシィが戸惑うようにピアスとグレイの間で視線を行き来させる。


「そこ、俺のよく行くシルバーアクセの店なんだよ。で、……あー……女向けのも置いてたの思い出してな」
「………」
「だ……だからその……」
「………」
「……ルーシィに、ってことで」


なんだこの言い方、とも思うのだが、グレイにももういっぱいいっぱいで、うまく伝えられない。
先程の顔を見てしまったせいか、まだ動揺しているのだ、恐らく。


「き、気に入らない、か?」


センスには自信はある。だが、女モノというのは初めて買うからよくわからなかったのだ。


ピアスは細工の細かい小さな薔薇。しかし薔薇といったモチーフながら派手すぎず、可憐という言葉が似合う。
普段、というよりは、今日のルーシィに似合うと思ったのだが駄目だっただろうか。
いや、気に入る気に入らない以前に、もしかしたらモノで機嫌を取ろうなんて手からして駄目――


「――ううん」
「へ?」
「すごく可愛い……」


ふわり、と口許を綻ばせた。
その反応にほっと胸を撫で下ろし、「ピアスにしといたんだぜ」とグレイはピアスに決めた時からずっと用意していたそれを告げた。


「指輪だと質屋に売られちまうらしいからな」
「は?」


ルーシィはきょとん。
それからみるみる顔を赤くして、


「だ、そっ……あ、あれは……!」
「あーあとは何だ?兄弟子のリオンを誘惑しちまうんだっけか?」
「ししししな……!」
「大変だなー俺傷つくなー」


言いながらちらちらルーシィを伺う。


「仕事ばっかな男だもんなー」
「違っ」
「ああでもだからってリオンかー。リオンはなー」
「ああもうだからっ――」


ルーシィはヒールをカッと勇ましく鳴らした。


「しないってばぁ!」


肩を怒らせて、グレイを真っ直ぐ睨む。
生来の気の強さがほとばしる、その目で真っ直ぐ。


瞬間、グレイはニッと笑い、


「――よしっ」


ぽん、とその頭を軽く撫でてやった。


「いつものルーシィだな」
「……え?」


ルーシィの目が大きく見開かれた。


「なんかさっきは悪かったな。変なこと言って」
「あ……」
「いいんだ、あんなの気にしなくても。ルーシィは普通に仲間と遊びに来たとでも思ってくれれば、それでいいからよ」
「……っ」


途端にルーシィはふにゃりと泣きそうな顔に歪める。
な、なぜここで泣こうとするっ?
グレイは慌てて、でもやっぱりどうしていいかわからず、口をぱくぱくさせていると。


「ぐ、グレイ……」
「な、なんだっ!」
「……ふ……」
「ふ!?」
「……………服っ」
「…………へ?」


指摘されてパンツ1枚だったことに気が付いた。
またか!何故こんな時に限って……!
いよいよもってこの脱ぎ癖を呪いたくなる。


とは言え流石にこのままでは居られない、と服着ていたら、ルーシィは何やらごそごそとやり始めた。ハンドバッグから鏡を取り出して、プルーに持って貰ったりして。
気にはなったが、グレイは服を着ることを優先させた。


グレイが服を着終えるとポンッと音がした。
星霊を――プルーを閉門したのだと理解するのに、数秒かかった。
そして、ルーシィは「ねぇ」と耳に掛かる髪を掻き上げた。


その白い耳に。
小さな薔薇が咲いていた。


「ね、可愛い?」


はにかみながら、尋ねてくるルーシィ。
「……ああ」とグレイは微笑んだ。


「流石は俺のセンスだな」
「……ふーん。自画自賛?」
「選んだのは俺だ」
「うっかり似合っちゃうのは私よ」
「うっかりなのかよ」
「ちゃっかりかしら」
「どっちだよ」
「いやがっつりかもしれないわね」
「……ほー。じゃあかっちりとか?」
「は?何言ってんの?」
「うわそこで引くのかよ」


なんてやり取りで。
ふ、と同時に頬が緩んだ。
ルーシィはまた、そっと髪を掻き上げ、薔薇を示し、


「――ありがとうグレイ」


ルーシィの魅力全開の、弾ける笑顔。
抱きしめた瞬間突き刺さるであろう凶器(と書いてプルーと読む)がなくなったこともあり、ぎゅっと抱きしめたい衝動が強く沸き上がる。
しかしここで急いてはまた先程や昨夜の二の舞三の舞だ。
グレイはごまかすように、咳ばらいして。


「じゃ帰りますか、姫様」


と踵を返した瞬間。
はし、と腕のシャツの裾を掴まれた。


それだけならまだしも。
無意識だろうか。肘に柔な何かが――そう、今度こそプルーではない何かが当たる感触。


「私……」


ルーシィは言った。


「も、もうちょっとグレイと二人で居たいな……」
「………」


グレイは無言のままゆっくり空を仰いで、その狭さに気付く。


あー。
ここ街中だったっけか……。







――――今さらだろう?




* * *
少女マンガ的お約束4。
デートを意識してかちこちになったりアクセサリーを買ってもらったり。
ただ乳があたるのは萌え系少年漫画寄りか?
相変わらず無駄に甘ったるいねこの二人何ホントどうしてくれよう。次回漸くこのバカッポーの話完結。

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あきゅろす。
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