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馬鹿だろう?【G*L】↓


目当てのケーキ屋はオープンカフェになっている。
美味しいケーキは勿論だが、オシャレな空間でお喋りを楽しもうと連日女性客で埋まる人気店だ。
もちろん女性だけではなく、ちらほらと男女2人組の姿もあり、デートスポットとしても有名。


しかし、今。
そんなことは、ルーシィにはどうでもよかった。


「んん〜……」


眉間に皺を寄せて唸るルーシィ。
ちょっぴり気まずいまま店に入り、グレイとプルーとで三角になるように白いテーブルを囲んだまではいい(プルーには子供用の椅子を用意してもらった)。
そこに店員に持ってこられたメニューによって、今、ルーシィは心を乱されていたのだ。


「なんだ、目当ては新作じゃなかったのか?」
「んー」


グレイに相俟に頷く。
新作はラズベリータルト。オススメ品として店の前のボードに描かれているのを何度もチェックしては財布と睨み合ったそれ。
いつか必ず食べてやるのだと乙女心とすきっ腹に誓った。忘れるわけがない。
しかし。


「私この店のチーズケーキも結構好きなのよねー」


濃厚でありながらしっとりと舌触りのいいチーズケーキの名前を見た瞬間、ルーシィの誓いは揺らいでしまったのだ。
土壇場にきて悩むのは女の特権。ルーシィは「うむむむ」と唸り続ける。
「なんだよ」、とグレイは苦笑した。


「それなら2つ頼めばいいじゃねぇか」
「――はぁ?」途端に声は冷ややかに「ケーキのカロリー舐めんじゃないわよ」
「す、すみません」


刺すように睨めば即座に謝るグレイ。何故かプルーまで「ププーン」と頭を下げる。
女心の理解に欠くグレイから視線を外したルーシィが、再びメニューと睨めっこを始めれば。
グレイは諦めたように嘆息して。


「じゃあ俺がそれ頼むからお前は新作頼めよ」
「え?」
「分けながら食えばいいだろ」
「いいのっ?」
「別に俺は何でもいいし。ルーシィが美味いっつーなら間違いはねぇだろ」
「わーい!だからグレイ好きっ!」
「そっ……そう、か……」


何故かルーシィから目を逸らして咳ばらい。
しかし「じゃあプルーもグレイから貰っちゃおうねー」なんて、子供みたいにテンションの上がったルーシィは、自分の口にした言葉にもグレイの様子にも、いっそ見事なまでに気付かなかったのだが。


ルーシィがプルーとはしゃいでいる間に自分を取り戻したグレイが「セットは紅茶で……」と店員に注文を告げて。


「ルーシィ、プルーもお前と同じのでいいんだよな?」
「あ、ううん。プルーにはカスタードプディングでお願い」
「は?」
「私ここのプディングも好きなのよねー」


と、既に一口貰う気満々のルーシィを見て。
グレイは同情の眼差しをプルーに向けた。


「……プルー、お前都合のいいように扱われてるんだな。喋れないからって」
「ププーン」
「べ、別にいいじゃない!」


プルーにはスプーンで食べられるものがいいのよ!、とグレイを無理矢理納得させて注文を終える。


その数分後。
セットの紅茶3つとケーキが運ばれてきた。


ルーシィの前にはラズベリータルト。プルーの前にはカスタードプディング。
そしてグレイの前には。


「……グレイ、何それ」


ルーシィの好きなチーズケーキに抹茶のシフォンケーキ、ショートケーキが3皿ずらりと並んでいた。


「だってこんな小せぇの1コじゃ足んねぇだろ?」
「くっ、女の敵め!」


憎々しげに吐き捨てれば「どーとでも」と肩を竦め、目の前のケーキの量に臆することなくフォークを手に取るグレイ。意外にも甘いものは大丈夫らしい。
まずルーシィのイチ押しチーズケーキを一口食べて、グレイは「お」と声をあげる。


「本当にうめぇなこれ」
「でしょ?私の分も残しといてね」
「わかってるって」


念を押したルーシィも早速念願の新作を一口。
途端にサクサクのタルト生地に甘さ控え目なカスタード、そしてメインの洋酒で香付けされたラズベリーの甘酸っぱさが口の中に広がった。


「ん〜っ」


ルーシィはあまりの感動に思わずふるふる身震い。
甘いものを食べるとすぐに幸せな気分になるのは、女の子の特権だ。
もう一口〜、とフォークをすすめようとして。


手を止めたグレイが、じっと見ていることに気がついた。
口元に笑みを浮かべ、今にもとろけそうな眼差しで。


「な、何よ……」


思わずフォークをラズベリーに刺したところで手を止める。グレイも無意識だったのか、「いや……」と僅かに目を泳がし、


「美味そうに食うな、と思ってな」
「美味しいもん」
「どれ」
「え」


グレイはルーシィのフォークを持つ手に自分のそれを重ねた。
そのまま引き寄せるように、ラズベリーの刺さったフォークを自分の口に運んで。


「へぇ、うめぇじゃん」


ニッと子供みたいに笑う。
無理矢理だが食べさせるような形になったり、間接キスだったり。
ルーシィは何だか胸が詰まったみたいになって、「う、うん」としか言えなかった。


「これも美味かったぞ」
「え、どれ」
「これ」


と、今度はグレイが一口大にした抹茶シフォンに生クリームを乗せ、自分のフォークに刺してルーシィに差し出した。


「え……」


微かに戸惑いを見せれば、「ほら」とグレイがフォークを揺らして口を開けるように促す。頬を染めながら、意を決してルーシィが口を開けた瞬間。


シフォンは方向転換。
ルーシィをスルーし、グレイの口に収まった。


「ああっ!?」
「ほーらうまい」
「いや私食べてないし!」


思わず立ち上がりかけながら喚くが、グレイは意地悪くニヤニヤするばかり。
かっ、からかわれた……!
むむむとしばらく頬を膨らませて睨んだルーシィは、プイ、とそっぽを向いた。


「もういい!プルー、あーん」


言って、それまで器用に前足(?)で持ったスプーンでプディングを食べていたプルーの口に、ルーシィは自分のタルトを一口運んでやった。グレイに見せ付けるように、優しく。
「おいしい?」と訊けば、プルーは「プンプーン」と嬉しそうに何度も頷く。
それからスプーンで掬ったプディングをルーシィへ。


「え?食べさせてくれるの?」
「ププン」


ルーシィがプルーの高さまで頭を下げれば、プルプルと震えながらもルーシィの口までプディングを運んでくれた。


「ん、おいし。ありがとうプルー」
「ププーン」


照れたように身体を揺らす仕種が可愛くて、ルーシィの苛々した気分は少し楽になる。さすが癒し系の星霊だ。
するとそれを見たグレイが、「プルー、俺にも」と口を開ける。


「プーン」


呼ばれたプルーがルーシィにしたようにグレイに差し出そうとしたのを、「いいのよプルー」と止めた。


「こんな意地悪な奴にあげちゃ駄目」
「ププン?」


オーナーの命令。困ったようにプルーの視線がルーシィと口を開けて待つグレイを交互に行き来する。
「んだよ」とグレイが不快げに睨んできても「フン」とルーシィは無視して自分のタルトをぱくつく。
乙女心を弄んだ罰である。ケーキ一口分の罪は重いのだ。


「チッ、可愛いげのねぇ姫様だ」
「なっ」


なんでそうなるのよ、と怒鳴ろうとしたら。


「プルー、ほらイチゴだぞ」
「プーン」


グレイはショートケーキの一種のメインともいえるイチゴを惜し気もなくプルーに与えた。
しかも、だ。
あの甘ったるい笑顔全開で。


「ちょっ、なんでプルーには当たり前のようにっ!」
「プルーは素直で可愛いからご褒美だ」
「わ、私だって……」


可愛いもん、という言葉は飲み込む。
これはグレイが言ってくれなくてはならないのだ。
今日は、いっぱい言ってもらうために来たのに。
なのになのになのにプルーばっかり!


「な、何よ!グレイのばー……んむっ?」


突然チーズケーキがルーシィの口を塞いだ。
もちろんグレイが操るフォークで。
完全に、不意打ちだった。


「うまいですか、姫様」
「……うん」


口に広がるいつも以上の甘さで、一瞬、怒っていたことなんて忘れとしまう。
ふにゃふにゃと、今まで意地悪だったグレイにとろけるように笑いかけたその時。


「――じゃ、次は俺の番だよな?」
「え……」
「食べさせて、くれるだろ?」
「え、あの」


急に、グレイが腰を浮かせてルーシィに詰め寄ってきた。
どうしていいかわからずに慌ててフォークを隠そうとしたのだが、視線一つで阻止される。


「なあ、一口」とか囁くようにお願いされてしまえば。
なんだかもう、逆らえる気もしない。
ルーシィは思わず「はい」と頷きかけて――


「う・そー」
「…………へ?」


ルーシィの皿からグレイは自分のフォークでもってタルトをざっくりと奪い取った。
そのままルーシィの目の前で容赦なく自分の口へ放り込み、「うめー」なんて悪戯に成功したガキみたいに笑う。


「い、今の一口大きすぎっ!」
「だって俺、ラズベリーしかもらってねーし」
「だ、だからって……」
「ほら、怒るなって。俺の残りのケーキも一緒に食っていいから」
「そっ」


それは流石にカロリーが、と言いかけたルーシィに。
「んだよ」と、どんなケーキなんかよりもたまらなく甘ったるい、あの微笑でもって。


「食ってる顔見せろよ。――可愛いんだから」
「〜〜〜っ!」


乙女心がっつり鷲掴みの殺し文句。
ルーシィは悔しかった。
こんなことで嬉しくなってしまう自分がいることがたまらなく悔しかった。


「ほら」とグレイはケーキ皿をルーシィの前に押す。
でももう今の一言でお腹とか胸とか色々といっぱいなルーシィに、今すぐ食べろとか無理な話なので。
プディングを持ったプルーを抱え上げ、グレイの顔の前に掲げる。


「プーン」


プルーはルーシィの意図を読んだかのように、プディングを掬い、グレイへ。
グレイは一瞬目を見開いて、でも、嬉しそうにそれを口に入れた。


「――ん、美味い」


プルーの震えのせいか、それともルーシィの手が震えていたせいか。
口の端に生クリームを付けながら、グレイはとろけるように微笑んだ。


――か、可愛いとか思ったら負けだわ……!


ルーシィは無駄にきゅんきゅんする心に決めながら、しかし、グレイの口元をそのままにもできずナプキンで拭いてやろうとして。


「はい、ダーリン」
「んーおいしいよぉハニー」


今更ながら、ルーシィたちと同じようなことを近くのカップルがやっているのが目に入った。


「……他の人から見たら私たちもあんな感じに見えたのかな」


ついポロリと口から漏れてしまった。
「ああ?」と怪訝な顔をしたグレイに、


「ほ、ほら、でででデートみたいっていうかさっ」
「……ああ」
「な、なーんちゃってね!あは、あはは」


と、ルーシィが笑い飛ばそうとしたら。
自分でクリームを拭ったグレイは、紅茶を口に運びながら「なんだよ」と苦笑した。


「俺は最初からそのつもりだったんだぜ?」
「…………………え?」


ルーシィは今更、音を立てて凍り付いた。








――――馬鹿だろう?




* * *
少女マンガ的お約束3。
無意識イチャイチャバカッポー。
この1話のために始めた連載でした。一昔前の少女マンガのノリでしたー。長々しい話でごめん。

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