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意味ないだろう?【G*L】↓


姫様、なんて。
洒落で言ってはみたが、今日のルーシィはまさに物語から出て来たそれだとグレイは思っていた。


いつものアクティブなファッションとは違う、白いワンピースとかいう女の子っぷりが、グレイには結構がっつりなかなかどうしてツボだったり。
そしてもちろん、グレイ以外にも。


「………」


グレイは漸くいつもの調子を取り戻して隣を歩いてくれたルーシィにばれない程度に嘆息した。
街を歩けばやはりというべきか、今日のルーシィの可愛さは街中の視線をかっさらっていたのだ。


ルーシィが通り過ぎれば、10人中10人が振り返る。異性だけでなく、同性からでさえ羨望や嫉妬の眼差しが降り注ぐ。
そんなことには無頓着な姫様は、プルーを胸に抱き、軽やかに歩きながらグレイに微笑んだ。


「そういえばグレイって甘いの大丈夫なんだっけ?」
「あー?まあな」
「……何その返事。曖昧ね」
「あー?まあな」
「だから何その返事」
「あー?まあな」


ちょっとでもルーシィに近付くそぶりを見せた輩を威圧しながら、グレイは隣を歩く。
なんとなくデートというより番犬やってるみたいだ、とグレイは思った。


やはり手を繋いでおくべきだったのだろう。しかしルーシィはプルーを両腕でぎゅうっと抱えたまま(うらやましい)。まったく隙がないのである。
プルーお前気を効かせて歩け、とグレイは強く念じてみたが「プーン?」と首を傾げられるのみ。……番犬というより負け犬かこれは。


「ちょっとグレイ、さっきから話聞いてる?」
「あー?聞いてる聞いてる」
「嘘。今プルーのこと見てたもん」
「気のせいだろ」


グレイが言えばルーシィは、むっ、としたようだ。
頬を膨らませ――その仕種がグレイにとってはまたたまらなく可愛らしかったのだが――グレイを睨む。


「や、やっぱりプルーのほうが可愛いんだ!」
「はぁ?違うって」
「だってグレイ、プルーと周りばっかり見てて私見てないじゃない!」
「それは……まあ、忙しいから」


姫様の番犬で、とは言えなかったが。


「い、忙しい、ですって……!?」


途端にルーシィの目が吊り上がる。
そんなに怒るようなこと言ったか、と怪訝な顔をしたグレイに、ルーシィは一瞬、わざとらしい程に信じられない!みたいな顔をして。


「いつもそうよね、あなたって人は!私と一緒にいるのに仕事の話ばっかり!」
「し、仕事?」
「いいわ、なら私にも考えがある。あなたのお兄さん……みたいな人、私に気があるみたいだしちょっと遊んでやろうかしら」
「リオン!?」あいつそうなのか!?
「フン、今更後悔したって遅いのよ。あなたから貰った指輪だって質屋行きなんだから!」
「指……?」


兄弟子が出た時は流石に焦ったが、指輪なんてまだ送った覚えがない。
そろそろわけがわからなくなったグレイが「何の話だ……?」と訊けば。


「――以上、恋愛小説より一部抜粋でしたー」


ころりと悪戯っぽい表情に変えて、ペロ、と赤い舌を出したルーシィ。
愛くるしい仕種にたまらず、きゅん、としながらも平静を装ったグレイは、「恋愛?」とさらに訊き返す。


「そ。今話題なのよ。どろっどろで、すっごいんだから」
「へぇ、お前そういうのも好きなのか」
「好きじゃないけど、たまに読むかな?軽い読書に」
「軽い読書にどろっどろかよ」
「ええ、どろっどろですとも」


ふふふ、とルーシィが怪しく笑って。
何となく、目が合って。
同時に、クスッと笑う。
なんとなく急に距離が近くなった気がしたグレイに。


「グレイ、服」
「おぉ!?」


ルーシィの容赦ない指摘。いつの間にやら上半身裸になっていたようだ。
折角流れ始めた甘い空気さえ、ルーシィには関係ないらしい。まあ、脱いでしまったグレイが悪いのだが。


しかし、あせあせと服を着るグレイを見る、しょうがないなぁ〜と言うようなルーシィの目は、いつもより優しい。服を着ながら“悪い”の意味を込めてグレイが苦笑をすれば、ルーシィは微笑み返してくれた。
そんな時、


「――ねぇ、今暇?」


軽々しくルーシィに声をかけてきたのは金髪の男だった。ルーシィのような綺麗な金髪ではなく、ブリーチなどで痛んだ金髪に鼻や耳にはいくつものピアス。ちゃらんぽらんの代名詞のような男だった。


油断した、とグレイは舌打ちする。
脱ぐのは神業的に早いが着るのは人並みのグレイがシャツのボタンを留めている、僅かな隙をつかれたのだ。
ルーシィは男に冷ややかな一瞥をくれただけで、すぐそっぽを向いた。


「私暇じゃないから」
「少しでいいんだ」
「暇じゃないから」
「あそこに美味しい」
「暇じゃないから」
「お、美味しいケーキ屋が」
「暇じゃないから」


ルーシィは慣れたように繰り返す。テメェの話なんか聞く気もねーよ、的な取り付く島もない態度に普通の男ならくじけるところだろう。
だが流石にグレイという存在(たとえ半裸だったにしても)の前で話掛けてくるだけあって、その男は普通ではなかったらしい。


「まあまあ、照れなくてもいいだろ?」


と馴れ馴れしくルーシィの肩に手を置いた。
「ちょっと、いい加減に……」とルーシィの顔が歪むのを見て。


「――オイ」


グレイは男の手を払いのけ、ルーシィの肩を自分のほうに抱き寄せた。
男に触られた時は不快感しか見せなかったくせに、グレイに代わった途端ぼぼぼっと真っ赤になったルーシィは、慌てて握り締めていた拳を引く。
せめてパーにしとけよ、と勇ましい姫様につい苦笑してしまう。


ルーシィ一人でもなんとかなっただろうが、ここはやはり番犬の出番。今日は一日可憐な姫様で居てくれなくては困るのだ。
グレイのためだけに、こんなに可愛くなってくれたのだから。


「悪いけど、今は俺と忙しいんだよ。……な?ルーシィ」
「う、うん……」


ルーシィの耳元で囁きながら軽く睨みを利かせれば、喧嘩慣れしてるグレイの空気を読んだのだろう。
男は悔しげにチッと舌打ちし、周りの人間から失笑を受けながら身を翻した。


「ルーシィ、大丈夫か?」
「……ほぇ?……あ、うん、ありがと!」


何やらぽーっとなっていたルーシィを離せば、はっと夢から醒めたようにルーシィはプルーを抱き直そうとした、が。


その前に。


グレイは握り締めていた手を開かせ、強引に、掠うように握った。


「――ほら、行くぞ」


またルーシィの顔がピンク色になる。
今度こそ、グレイは番犬から騎士になった気がした。
そのままルーシィの手を引くように歩き出せば。


「ごめん、グレイ……」
「あ?」
「お店、ここなの」


気まずげに顔を伏せながらルーシィの示した先――僅か2メートル先のそこには、目的のケーキ屋で。


「………」


グレイは虚ろに笑ってルーシィの手を離す。
騎士はたった3歩にも満たずに、再び負け犬になった。









――――意味ないだろう?


* * *
少女マンガ的お約束2。
デート中でもなぜかナンパされて助けられてドキッ。
リオン兄さんの名前出せただけでアタイ満足さっ……。

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あきゅろす。
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