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わかってて、わかってるんだけどね【L→R←A】


「え」
「へ?」


あたしのリラックスタイムに突如現れた意外な人物。
きょとんとするあたしに対し、みるみる真っ赤になった彼女は


「はうっ、ごごごごめんなさいぃっ!」


あたしの素晴らしい裸を見ないようにしながら謝って、慌てて風呂場を出ていった。それはもう嵐のように。
現れた時、いつものあの馬鹿星霊だと思ってたあたしは呆然とその名前を呟いた。


「……アリエス?」


アリエスはこの間契約したばかりの黄道十二門――あの馬鹿星霊と同じ――である白羊宮の星霊。とはいえ性格はまったく違う。会ってまだ日は浅いが、用もないのに勝手に出て来るようなコには思えない。
リラックスタイムを中断したあたしは、すぐにタオルを巻き付けて(女同士とはいえそこは礼儀)アリエスを追って風呂を出た。
瞬間。


「うわっ」


出てすぐのところ。
緊張した面持ちでアリエスは床にかっちり正座していた。
それから、ぺこりと土下座の勢いで頭を下げる。


「お、お風呂中お邪魔して申し訳ありません!実は私、オーナーにお聞きしたいことがあるんですっ!」
「え?な、何?」


顔を上げたアリエスはいつにもまして潤んだ目に真剣な表情であたしを見る。あたしは息を飲んだ。
もしかしてロ……レオとの関係のことかしら。
そんなこときかれたらどうしよう。


微妙、なのよねぶっちゃけ。
あたしのこと好き好き言いながら他の女口説いてるみたいだし。
まあ、あたしがちゃんと答えないのが悪いんだけど。
でもね、アイツが他の女の子見ないっていうならあたしだって本当は……――


ってゆーか。
そういえばこのコ、レオと昔なんやかんやあったわね。
待って待って待って。
まままさかこのコってレオのこと――


「あ、あの、私……」
「な、なにかしらっ?」


ゴクリ、とか喉を鳴らしながらも平静を装うあたしに、アリエスは言った。


「わ、私はオーナーを何とお呼びしたらよろしいでしょうかっ?」
「………は?」


ぱちくりとあたしは瞬いた。


「え、えーと、あたしのことを?」
「はいっ!あの、ジェミニたちはオーナーをもうお名前でお呼びしてて、でも私には、その、呼び捨てとかそういうのはやっぱりできそうになくて……!」


きらきらした目で一生懸命理由を説明するアリエス。
あ、可愛いなぁって不覚にもあたしは思ってしまった。


何か期待してて、でもやっぱりどこか自信なさげで、不安げで。
私より全然強いはずなのに、守ってあげたくなっちゃう。


ああホント。
レオが身体を張ってでもカレンから助けちゃったのもわかる――


「………」


あら?何かしらこのもやもやした感じ。
何かしらこのムッとくる感じ。
何であたしこのコを見てるとこんなに……――


「……あ、あのぅ、オーナー……?」
「あ、ああごめんなんでもないわ」


慌てて苦笑する。
うっかりあたしが睨んでしまったせいで潤んだ瞳に罪悪感。
あたしったら今何を考えていたのかしら。
アリエスは悪くないのに。


「うーんとね、あたしのことなんてアリエスの好きに呼んでいいのよ」
「え……好きに、ですか?」
「うん。あ、でもオーナーってゆーか“友達”って感じで呼んでくれると嬉しいな」
「とっ、友達……」


アリエスは真っ赤になった。
それからもじもじ膝を擦り合わせ、チラリと上目使い。


「じゃああの……る、ルーシィさんってお呼びしても?」
「うん、いいよ」


あたしは微笑んだ。


「できればあんまり丁寧すぎる敬語も遠慮してね」
「は、はいっ!頑張ります!」
「あはは頑張んなきゃできないのかー」
「はう、ごめんなさ……」
「あー違う違う。怒ってるんじゃなくてね?」
「はっはいぃ」


本当にもう、なんて可愛い女の子なんだろう。
女のあたしでもたまらないんだから、男なんてイチコロ(死語)に違いない。


あーあどうしよう。
このコが本当にレオのこと好きだったら。


勝てるかな。
レオが昔命を掛けて守った女の子。
勝てるかな。
全然素直になったことのないあたしで。


勝てるかな。
まだあたしのこと好きって言ってくれるかな。


あーあ。
どうしてあたし、このコと契約しちゃったんだろっ。



なんでだろうねぇ――ロキ。








――――わかってて、わかってたんだけどね








「ルーシィさん」
「ん、何?」
「あ、あの……呼んでみたくて……」
「……………」


ふにょにょ、と照れ笑いするアリエスはなんていうんだろう。
押し倒したくなります、みたいないやいやあたしだってばりばりの女の子だし17歳ぴちぴちだし。
こほん、とあたしは咳ばらい。


「でもどうして今日急に出て来たの?」
「あ、はい。私だけオーナーって呼び方は寂しいなって話をしたら、この時間ならルーシィさんの時間あいてるから聞いてみたらって」
「……誰が?」
「れ、レオが……」
「………」


はにかむように笑うアリエス。
その名前を口にするだけで幸せそうに。


ああ、このコ。
やっぱり。


「わ、私、ルーシィさんともっとその、仲良くっ、なりたくて……」


あたしは別に仲良くなんてなりたくないわよ。
……なんて言えない。


嫌いになれないのよ。
なれるわけがないのよ。
今までずっと可哀相だった星霊を。
今までずっと辛い思いをしてきた星霊を。


だってこのコは悪くないんだもの。
悪くない、のに。


「……じゃ、一緒にお風呂入ろうか」
「へ?」
「ちょうど私今から入り直すところだし。やっぱり仲良くなるには裸の付き合いよねー」
「は、え、あのっ」
「あれー?仲良くなりたいんだよねー?」
「は、はいぃっ!」


真っ赤になってふるふる震えながら頷くアリエス。
恥ずかしいわよね。困っちゃうわよね。アンタそういうタイプだもんね。


わかってるわよ。
わかっててやってるんだから。


「あれ?アリエス脱げないの?脱がせてあげよっか?」
「でででできますぅ!」


……あーあ、意地悪してやっちゃった。



ざまあみろ。










* * *
負け犬シリーズに見せ掛けてアリエスたん萌え萌えシリーズ。
まあシリーズ化はしないだろうけど。
ただアリエスたんとルーシィがやりたかっただけでした。まる。
ああ私がロキになりたい……。
L→M←Aみたいになりたい……。(ここに負け犬がいます
普段のアリエスはロキのこと好きではないといいな。バルゴが好きだといいな。ニヤリ。

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あきゅろす。
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