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走れ! 聖なれ! 傲慢であれ!【R*L】(V-day)


本屋を出ると、ぱらぱらと何かが降りはじめていたことにルーシィは気が付いた。


雨。


雲行きが怪しいのは知っていたが、ちょっとひやかすだけだから、と思って傘は持ってきていなかった。せめてこれが雪だったなら気分的にそのまま帰ってもかまわないのだが。
本屋の軒下でルーシィは憂鬱にため息をついて、「ちょっと格好悪いけど雨をしのげる星霊なら……」と腰の鍵に指をのばした。
瞬間。


「――呼んだ?」


忽然と現れた1体の星霊。言うまでもない、スーツ姿の彼。
ルーシィは隣に立つその星霊を見上げ。


「ごめん。全然喚んでない」
「雨か。これは困ったね」
「うん。困ったから帰ってね、ロキ」
「ね、雨もしたたるイイ男見たくない?」
「見たくないから帰ってね、ロキ」
「……ルーシィ」


ロキは苦笑する。


「そんな照れなくても」
「照れてないっ!」


毎度お馴染みのポジティブな返答にルーシィは怒鳴る。
その反応に満足げに頷いて――うわ遊ばれたー、とルーシィは思った――ロキは。


「まあ任せてよ」


言って、スーツのジャケットを脱ぎ。
突飛な行動にぽかんとしていたルーシィの肩を抱き寄せた。
半身をぴったりと寄り添わせ、そのまま、ジャケットを頭からかぶる。二人で一つのそれを共有する。


「――ほら、これで雨なんて平気」
「………」


ただそれは、あまりにも唐突な接近。
思わずルーシィが身を固くしていると、「ね?僕も便利だろ?」なんて、小首を傾げたロキのウインク。
どこか得意げな猫を連想させるくだけた表情。
それにルーシィは「はいはい便利便利」といつもの通りに受け流す。


いつものやり取りにルーシィから余計な力は抜け、この距離も、それから優しいロキの手も受け入れていた。
意識しすぎた自分にルーシィは苦笑して。


「……ロキ、あれ見て」
「え?」


ロキがルーシィの指を追ってあさってのほうを向く。
その隙に。
ジャケットの内ポケットに、小さいチョコレートを1つ忍ばせた。


たかが10J程度の、こんな安いお菓子に深い意味なんかないけれど。
それでも、今日という日に、入れてみた。


「何かあった?」


と再びルーシィを振り向いたロキ。
ルーシィは慌てて内ポケットから手を離し、


「き、気のせいだったみたい」
「え?木々の精?」
「いや気のせい」
「木の?」
「………」


また遊ばれた。
気付いたルーシィはひく、と唇を引き攣らせ。
でも結局、いつものようには怒鳴らずに。


「ほら、走るわよっ」
「――うん」


隣にいる星霊に赤くなった顔がわからないよう、前だけを見て。
二人、雨の中を走り出した。







―――― 走れ! 聖なれ! 傲慢であれ!






「ってゆーかあんた一緒に走らなくてもジャケットだけ置いてけばよかったのに」
「水もしたたるイイ男って」
「うん。見たくなーい」







* * *
まずタイトルの前に「抗菌仕様の便器から立ち上がって」を加えて下さい。はい、これで早坂類の歌集『黄金の寅―ゴールデン・タイガー―』の中の短歌になります。
なぜバレンタインに便器の歌を使ったのか。勢いが好きな一首だったし……言わなきゃばれないと思ったから……(もう遅い
ってゆーか別にバレンタインっぽい話でもないしね。日常っぽい非日常的な話が書きたかった。ってゆーかだったらバレンタインじゃなくてもよかったね。便器。

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あきゅろす。
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