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Gut+【R*L】
初めてのキスをした。


衝動的に。本能的に。
思考も停止で、余裕なんてないに等しく。
そんな状態でのキス、初めてだった。


ただあの瞬間、たまらなくなった。
欲しくなった。止まりそうになかった。
どうしようもなかった。


はたしてそこに、相手への気持ちなんてあったのか。




――そして今。


バッチーン!


音が弾けて、ロキはその場に崩れ落ちた。





Gut+





「……あっぶなー」


床に座り込んだロキはじんじんと熱い頬を撫で、ルーシィに聞こえないように呟き、嘆息。
ルーシィの容赦のない平手のおかげだろう。暴走しかかっていたロキは完全に正気に戻っていた。


まあ平手というより掌底に近かったが。しかもフックがかかって腰の入ったそれは見事なまでに顎をとらえていたが。骨にまで衝撃は突き抜けたが。ダメージは正直かなりでかくて星霊界で回復させたいなぁとは思ったが。
それはともかく。


「――……ロキ?」


なかなか立ち上がろうとしないロキを心配してか、ルーシィが右隣――頬が腫れてない方というのが罪の顕れだろうか――にしゃがみ込む。


「えーと、大丈夫?」
「……んー」


極力ルーシィの顔を見ないようにしながら、相俟に返事。
するとルーシィが怖ず怖ずと何かを差し出してきた。サングラスだ。平手の衝撃で飛んだはずのそれをどうやら拾ってくれたらしい。ロキは「ありがとー」と飛ばした本人にお礼を言うのも変な話だがそう言って、どこも壊れていないのを確認してかけ直す。


それでもまだ立てそうにないロキは壁に背を預け、長い足を投げ出した。ルーシィもロキのほうに身体を向けたまま、隣にぺたりと正座を崩したかたちに座り込み、


「で、でもロキが悪いんだからね?あんな冗談言うから」
「あー……」


まったく冗談ではなかったデス。
とは言えない。少しでも余裕ぶりたくて。


「わ、私……謝らないもん」
「――うん。わかってる」


視界の端に、不安げに瞳を揺らしながら子供みたいに意地を張るルーシィ。ロキの胸の辺りがほんのり温かくなる。
それから、「ごめん。僕が悪いんだ」と呟いて柔らかく苦笑。ルーシィは悪くないんだよ、と。


――本当に、あと少しでもルーシィに触れていたら、と思うとぞっとする。
あのまま、あの衝動のまま、抱きしめてたりなんかしたら。
きっと、今の優しい時間はなかった。


大事にしたい。
欲望なんて汚いもの向けたくない。
心から、そう思う。


なのに今、こんな時に彼女の唇の感触を思い出したりなんかあわわわわわ無理無理僕死ぬ。


「ねぇロキ、本当に大丈夫?」
「ああ、うん……大丈夫」


今一瞬意識がどこかにとんでいたらしい。ルーシィが不安げに小首を傾げ、ロキの顔を覗き込む。
君がもーちょっと離れてくれたらもっと大丈夫、なんて本音どうしても言えないロキである。


いつもと同じようにショートパンツとタンクトップから晒された、柔らかそうな肢体が今だけは目に毒。
こんなのは、初めてなのだ。
ちょっとしたきっかけ一つで大決壊かも、なんて。


「………」


しばらくルーシィは隣で、じ、と大人しくロキの横顔を見ていた。
かと思うと。
おもむろに身を乗り出した。


ちゅ。


頬に柔らかい感触。
ロキがぎぎぎとらしくない鈍い動きでその感触のほうに首を向ければ。


「あは、しちゃった」
「………」


あは、って。
そんな可愛く言われても今のロキには笑い返してやれない。
一度唇を許したせいだろうか。いつものルーシィなら絶対しない、大胆な行動。
そのくせ、頬は赤くなっていたりするのが、また。


「………」


大決壊、寸前。ぐらりと視界が揺れる。
もしかして、とロキは思う。
もしかして、これから毎回こんなふうに隙を見せるようになるんだろうか。毎回毎回理性を総動員させなきゃならないような事態になるんだろうか。
ちょっと待て。それってどんな拷問ですかオーナー。


「……あれ?ちょっ、ロキっ?」


後でどやされるのは覚悟の上。
ロキは魔力を抑え、ゆっくり、砂のように星霊界へと消え始める。


今はただ、早く早く。
早くこの手がこの小悪魔に届かないところにいかなくては、と思った。
早く、早く――


ただ早く。







>>【gut】
 名
 3a《略式》[〜s]根性,勇気,決断力,ガッツ
 形
 本質的な,本能的な;容易な;切実な
 動
 3《略式》…を骨抜きにする,…の要点を除く
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)







「――開け、獅子宮の扉!」


ポン、と音がして。
気が付けば見慣れた星霊界ではなく、元のルーシィの部屋。


「……あっれー?」


ロキは顔を引き攣らせた。
どうやらルーシィに喚び出されたようだ。
普段は滅多なことでは自分の魔力で喚ばないくせに、なんでこんな時だけ(戦闘用星霊の間違った使い方その3?)。
怒られるんだろうなー、でもまあそのほうがいいなー、なんて思ったロキが呼び出したオーナーを見れば。


「……なんで、逃げるのよ」


肩を震わせ、ロキを睨み付けるルーシィ。
それにロキはギクリとする。


「い、嫌なら、嫌って言えばいいじゃない……」


泣きそうな、もういっそ抱きしめてキスして触ってもちろんそれ以上もしてあえていうなら違う意味で泣かせた上で鳴かせてやりたくなるくらいたまらなく可愛く、泣きそうなルーシィに。


「………」


ロキは遠く遠く、虚空を仰ぐ。
すみません星霊王、なんとかしてくれませんかこの小悪魔。


それから


はぁあああああああああ〜


ため息の大決壊。
――もう、いっそのこと。


「……ごめんルーシィ」
「え?」
「冗談じゃなくて僕、さっきからずっと――」


いっそのこともう一発殴られたほうが、マシ。









* * *
ムラムラします、はあえてカット。
この可哀相なへたれロキ視点の楽しさは何。書いてるときの快感は何。
もういっそへたれ可哀相ロキシリーズとしてシリーズ化したい。ロキファンにフルボッコされる覚悟はでぇきてぇる゙。うん。使い方が違う。

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あきゅろす。
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