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Fault【R*L】
「やあルーシィ、いい夜だね」


それは唐突に現れた――わけではない。
最初から、それはそこに居た。
実際、足を差し入れた布団はほのかに温かく、それが前からそこ――布団の中で待機していたことを物語る。


眠気にうつらうつらしながら、無害そうな笑顔で隣で寝そべるそれを見て。
とりあえずルーシィは。


「………」



――無言で枕を振り上げた。





Fault





「だーかーらー、出て来るタイミングとか考えろってアンタは何度言ったらわかってくれんの!」


ベッドサイドに腰を下ろしたルーシィは枕を膝に抱きながら隣の星霊を睨み付けた。
眠気などとっくのとうにどこかへ飛んでいってしまった今、意志の強い瞳でもって隣に座る星霊ロキを責め立てる。


「そんな。ちょっとした手違いだよ」
「手違いで布団の中待機すんのかあんたは!」
「誤解だよ。つまり」言って、胸に手を宛て、うやうやしく一礼。「お布団を温めておきました、殿」
「いらんお世話ですー。そして何故“殿”?」
「んー、昔々あるところにサルという」
「何故昔話っ?」
「寝物語に1つ」
「いーりーまーせんっ」


ばふばふばふっ、と膝の枕を叩くルーシィ。


「場所ももちろんそうだけど寝る前っていうのも問題よ。出て来る時間も考えて欲しいわ」
「なるほど」ロキは頷く。「つまり、朝の寝起きドッキリのほうがよかったってことだね」
「それも嫌!?」


寝起きの微妙な顔や寝顔なんて知り合いの、それも男に見られたりした日には自殺モノ。それが乙女心というものだ。
するとロキは不思議そうにサングラスの奥の瞳を瞬かせ、


「なんで?ルーシィの寝顔可愛いのに」
「……見たの?」
「………」
「ロォオキィイ?私の目を見なさぁああい?」
「あはは、冗談だよ」


胸倉掴まれ揺すぶられ、ルーシィの嫌がることはしないって〜、とへにょにょんと笑うロキ。
一抹の不安はあるものの、ルーシィのいうことだけはしっかり守る星霊だ。
ルーシィはしばらく睨み付けていたが、嘆息一つでロキを解放した。


「話、戻すけど」いつの間にか落ちていた枕を拾い上げる。「私はね、もっと普通に出てきなさいって言ってるの」
「――じゃあ僕、また来ていいんだ?」


子供みたいに嬉しそうに言ってくるロキに。
ルーシィは枕を胸に抱き、


「……私、駄目なんて言ってないもん」


と。
言って、あわてて「あ、あんたの魔力使ってならだからね!」と付け加える。
危なかった。これではまるで、私がまた来て欲しいみたいではないか。
やっぱり子供みたいに「うん。わかった」なんて素直に頷くロキを見ながら、そんなこと全然ない、とルーシィは自分に言い聞かせた。期待なんてしてない、と。


「て、ていうか本題に入らないならもう帰りなさいよ!明日も私仕事なんだから!」


実は今日もルーシィは仕事から帰ったばかりで、かなり疲労がたまっている。あのチームにしては珍しく、小さいながらも連続で仕事を取ったのだ(もちろんルーシィの家賃のために、だが)。
ロキは「うん。知ってるけど」と言って。


「その前に聞かせて。前から思ってたんだけどナツの時はツッコみ優先なのにどうして僕だと攻撃優先?」
「はい?」


そういえばナツが部屋に居た時のルーシィはツッコミ×制裁のダブルコンボ。だが、ロキの場合は何か叫んだりする前にまず手が出る。
ルーシィはそんな自分を顧みて、


「いや……あんただと身の危険を感じるから手のほうが先に出ちゃうのかも」
「あはは冗談きついな〜」
「マジな話なんだけど」


と言うルーシィは最初から枕を抱えて臨戦体勢。ただ同じベッドに座っているだけでも油断は禁物。
なぜなら確かにロキは紳士だが、ルーシィのことが“好き”なのだ。真っ直ぐ、純粋に。
方やルーシィはといえば、“好き……なのかしら?んー、わからん。ごめん。また明日考えるわ。それじゃ”程度の曖昧さ。


微妙な関係。
だからこそ、信頼はしていても、油断はしない。


それに。


ルーシィがもし隙を見せたりなんかして、本当に辛いことになるのはロキのほうだとわかってきたから。


「それじゃあ本題。――ルーシィ」


不意に名前を呼ばれて、大きな手がルーシィへとのばされた。
きょとん、として頭に向かってくるそれを見ているとロキは苦笑し、「……本当に警戒してる?」と呟く。


してるわよ、と言い返そうとしたルーシィの頭に、ふわりとそれは乗る。
そのまま、ぽんぽん、と2回。
優しく撫でるように叩いた。
たったそれだけ。


「はい、元気注入」
「は?」
「ロキビタンD」
「意味わからないんだけど」
「いいんだ。――明日の仕事、頑張って」


もしかして今日ロキが出て来たのは、本当にこれだけのためだったのだろうか。
ルーシィを少しでも励ますため。
少しでも、疲れたルーシィの気を紛らわせてくれるため。
やっぱりちょっと時間とか考えてほしいけど、ルーシィは苦笑する。


「まあ、まったくもってよくわからないけど………一応、ありがと……」
「うん。どういたしまして」とロキはまた微笑み、「それじゃあ僕は……」


と立とうとしたロキを、「もう帰るの?」とついルーシィは引き留めるようなことを言ってしまう。
「あれ?淋しい?」と悪戯げに返してきたロキに、


「ん……」とチラリと上目で見て、「ちょっと、ね」


言った瞬間。
血の気が引く。
しまった。今の感じはまずいかも――


「――ルー」
「っ」


ロキの大きな手が再びのびてきて。
今度のルーシィはビクリと身を竦めてしまう。


「……ごめん」
「あ……」


ロキは苦笑していた。
その柔らかい表情でわかった。ロキにそんな気はなかったのだ。
たぶん、様子の変わったルーシィを心配しただけ。


なのに、まただ。また、傷つけた。
このどうしようもないくらい優しい星霊を。


「………」
「夜遅くにごめんね。もう――」


咄嗟に。
ルーシィはロキのジャケットを握ってしまった。
ぎゅ、と縋り付くように。
顔も見れないままに。


そのまま、違うの、と首を振る。
何がどう違うのか、わからないまま、身を竦めて首を振る。


「………」


やがて、ロキの手が固くなったルーシィのそれ重なり。
やんわりと、子供にするみたいにルーシィの指をジャケットから解いていく。
ああ駄目だった、とうつむくルーシィの。
視界が、反転した。


「―――」


見慣れた天井を背景に、眼前には、ロキ。
ロキ、のはずなのに。
その星霊はいつになく熱っぽい眼差しで、ルーシィを見下ろす。


どく、とルーシィの心臓が激しく脈を刻み。
ぞく、と背中をはしる痺れのような何か。


これは罰だ。明日明日って答えを引き延ばし続けて。
覚悟ができてないくせに、中途半端なことをして。
期待させるようなことして、傷つけて。


だから覚悟を決めて――決めたつもりで、ぎゅ、と震える瞼を閉じる。


なのに。


ロキから動く気配はない。


「………?」


恐る恐る目を開ければ。
優しい、なのにどこか淋しげな微笑み。
困ったような、自分を咎めるような複雑な色の。


「………」


ロキ、と呼ぼうとして、ルーシィは声が出ないことに気がついた。何かが、喉を塞いでいる。
ロキの顔が近付いてきて、また目を固く瞑る。


撫でるように、大きな手が前髪を上げた。
額に降ってくる、一粒の優しいキス。


「――おやすみ、ルーシィ」


目を開けば、無理矢理つくったようにぎこちない、それでもいつもの笑顔。
ルーシィの喉が、ヒュッと鳴る。


「お、や、すみ……」


声が、出た。
ルーシィが応えると、ロキはルーシィの頭を最初のように優しく一撫でし。
笑顔のまま月明かりに溶けて消えた。


「………」


ルーシィは独り、呆然とロキの消えた虚空を見上げる。
見慣れた天井がやけに遠い気がした。


今の気分を、どう表せばいいだろう。
安堵してる?悲しい?悔しい?申し訳ない?
自分の答えが決まるより先に。


涙が一つこぼれた。








>>【fault】
 1(誤り・落ち度の)責任,罪
 2欠陥,きず,短所<<◆必ずしも非難の意はない>>
 3誤り,落ち度,悪行
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)







数分後。


「〜〜〜あーもームカつくムカつくムカつくっ!結局やり逃げじゃないのよあの馬鹿!へたれ!やるなら最後まで……は、もちろん駄目だけど、もうちょっとやりようがあるでしょカッコつけぇええ!」


枕に八つ当たり。
結構元気だったりするルーシィだった。









* * *
女の子って基本情緒不安定。そしてロキは最後まで紳士。やっぱりロキルーて異常に楽しい。少女漫画最高ー。でもたぶん1番キスまでが遠い2人だったりもする。
このはなし、続いちゃってもいいかな……?

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あきゅろす。
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