Eat【N*L】
いつものようにギルドを出て。
いつものようにプルーといつもの道を歩き。
いつものように水路のおじさんに声を掛けられ。
いつものように帰宅したルーシィを。
「よぉ、いつも遅いなルーシィ」
「あい」
いつものように出迎えたその1人+1匹に。
「………」
ルーシィはいつものように駆け寄って。
「何でいつもぉおおおおおおおおっ!?」
――踵を落とした。
Eat
ドォン!と落雷がごとき衝撃がアパートを揺らした。
そのわずか数秒後。
「――あ、あんたら次不法侵入したら絶対膝だからねっ」
ぜーぜーと息を荒くし、大型獣よろしく歯を向いて威嚇するのは部屋の主であるルーシィ。一撃の踵落としで不法侵入者たちを床にめりこませ、お説教モードの仁王立ちだ。
一方の不法侵入者ことナツとハッピーはといえば、激しい一撃にも早くも復活し、
「おーっとルーシィ選手の予告跳び膝宣言来ましたよハッピーさん」
「あい。でももしかするとカウ・ロイかもしれませんね。首掴んで顔面に膝をバキッ!てやつです」
「何でそんなに詳しいの!?ってゆーか選手って何!?」
「ルーシィ、俺真空跳び膝蹴りが見てぇ」
「おいらカウ・ロイー」
「てかアンタらがその技受けるんだからね!?わかってんの?」
途端にハッとした顔をしたナツとハッピーは。
急に真面目な顔になる。
「いや……、暴力はいけねーよルーシィ」
「あ゙いっ」
「あんたらがさせんのよ!」
と、その時。
ぐごぎゅるぎゅーお
まるで怪獣の鳴き声よろしく音が響いた。
途端に落ちた沈黙。
いち早く膠着が溶けた空気の読めない猫はチラリとルーシィに視線を投げ、
「ルーシィ、そんなにお腹すいてたの?」
「私じゃないわよ耳馬鹿猫!」
とルーシィは奇怪な音をたてたそれ――ナツの腹を指指す。ナツはといえば暴れ狂う腹の音を宥めるように腹を撫で、
「おーそうだった。ルーシィに一緒に飯食おうぜって言いに来たんだ」
なんて呑気に笑った。
ルーシィは困ったように自分の手に下げていた荷物を見下ろし、「えぇー?私今日は自炊しようと……」と言った瞬間。
「やった!ルーシィの手料理だハッピー!」
「あい!」
「誰があんたたちのも作るって言った!?」
「1人分作るのも2人分作るのも一緒だろ」
「違うわよ!……もー、3人分(?)となるとパスタくらいしか材料ないんだけどなー」
買い置きのパスタを思い出し、ルーシィは嘆息。いきなり仕事が入ったりして長く部屋を開けることも多いため、普段は保存のきくものしか買い置きしないようにしてるのだ。
あとは調味料と今日のサラダ用に買ったわずかな野菜くらい。どうやら凝った料理は作れそうにない。
「じゃあ俺ファイアパスタで」
「オッケー☆炭になったパスタでよければ」
「……やっぱり普通でいい」
「始めからそう言ってね火竜さん」
あんたにリクエストする権利なんてないのよ、と冷ややかにルーシィ。
飽きる事なく繰り返される不法侵入をかなり根に持っているのだ。
すると、
「ルーシィ〜」ハッピーがもじもじとルーシィの服を引く。「オイラお魚……」
「うん、確か冷凍してあったのがあったから焼いてあげる」
「えー、ハッピーだけずりぃ!なら俺にもファ」
「――炭になった、何?」
「…………は、いいや。うん」
「よろしい」
ただでさえメニューが違うのは手間がかかるのだ。ナツのリクエストまで聞いてられない。
ルーシィはエプロンを取り出すとさっと身につける。
「じゃあ座ってて。今作るから」
「手伝うか?」
「え、何よナツ。あんたできるの?」
ちょっと見直したルーシィに。
「馬鹿にすんな。これでも独り暮らし長いんだ」とナツは笑って胸を叩いた。「一年に一度くらいやってみっか!とか考えることくらいあるぜ。やったことはねーけど」
「うん。座ってて。大人しく」
「まあまあ遠慮すんなって」
「――座ってて?」
「……あい」
途端にハッピーのような返事をして大人しくソファーに腰を下ろすナツとついでにハッピー。
「時々エルザみてぇにおっかねーな」「あい」
ひそひそと声を落としているつもりらしいマイペースコンビの会話に包丁でも投げてやろうかと思ったルーシィだったが、早く餌を与えて追い出してやろうと早速調理に取り掛かった。
始めてしまえばあとは集中してしまう。
料理は嫌いではないし、それに、自分以外に食べる人間がいるというのも張り合いがあるものだ。たとえそれが招かれざる客だとしても。
あっという間に。
「っし、でーきたっと」
ルーシィはフライパンの火を止めた。
あとは盛り付けるだけ、と皿をとろうと振り向けば。
ナツが居た。
「ちょ、あんた何し――っ」
ずい、とさらにナツが近づいてくる。普段からやたら距離の近いナツだが、今日のはまた近すぎる。
調理台にナツの両手がルーシィの身体を挟むように置かれた。これで逃げ場がない。
「ナツ……?」
ナツは無言。さらに顔が近づいて。
ルーシィは、息を飲み。
ぎゅっ、と、目を瞑る。
そして。
くん、と鼻の鳴る音。
「ん、やっぱルーシィからも料理と同じ匂いしてるな」
言って、ぱっとナツの身体が離れる。
「……はい?」
目を開けたルーシィは呆然。
その様子に全く気付かないナツは悪戯っぽく笑い、「ルーシィいつも生活の匂いしねーもんなー」の余計な一言。
「くっ……基本料理しない女で悪かったわねっ」と反射的に言い返せば。
「? でも俺、いつものルーシィの甘い匂い好きだぞ」
「〜〜〜っ」
甘いってどんなよ!
あまりに無邪気でそのくせピンポイントな一言と、ついでにさっきまでのナツの異様な近さを思い出し、ルーシィは、かあ、と赤くなる。
ナツのことだから何も考えてないにきまってる!とか自分に言い聞かせ、なんとか気持ちを落ち着けたルーシィに。
「まあ今日の匂いも好きだけどな、魚っぽくて」
「………」
ナツの何も考えてない上悪意のない一言が刺さる。
遠回しに生臭いなんて言われて喜ぶ女はいない。
今日は念入りに洗わなくちゃ、とルーシィは崩れ落ちそうな心に決めた。
結局陰欝な気分にさせられたルーシィが料理を盛りつけると、ナツとハッピーがテーブルまで運んでくれた。
ペペロンチーノとサラダ、それからスープ。ついでにハッピーの焼き魚。
もともとの材料からしてみれば上出来というものだろう。
「んじゃいただきまーす!」
「いたー!」
「……いただきます」
席に着き、二人と一匹で一斉に手を合わせた。
パスタをナツが口に運ぶ。ルーシィはそれを手を止めてチラリとうかがった。
他人に食べてもらうのはこれが初めてなのだ。反応が気になって当然。
ナツはふるふると震え、
「……ルーシィ」
「な、何よ」
「お前……マジで料理できたんだな」
「あい」と魚を口にハッピーも大きく頷く。
「どーゆー意味よ」
「匂いと見た目だけかと」
「あい。お約束かと」
「あらそう。期待裏切った料理なんて食べなくてもいいのよ〜?」
という意地悪に、ナツとハッピーは慌てて料理を掻き込み始める。取られる前に食べてしまえとでも思ったのだろうか。
ルーシィはおしくなってクスクスと笑った。一人で食べていたらきっとこぼれなかった笑顔だ。
「んーまびびらぼび」
「はいはい、飲み込んでから言って」
「……んぐ、味、ミラのに似てるな」
「でしょ?だってミラさんに習ったんだもーん」
ルーシィは自慢げに言った。
正しくはまだ習っている最中だが。
「そっか」ナツは納得したように頷き、「じゃあ俺の好きな味だ」
ニッと無邪気に八重歯を覗かせる。
別にナツのために習ったんじゃないわよ、とは思ったが。
「……あっそ」とだけ素っ気なく応えた。ついでに、
「つ、次来る時はいいなさいよ。もっと……まともなもの作ってあげるから」
なんて言えば。
「おう!」「あい!」
当たり前のように二つの返事と笑顔が重なった。
>>【eat】
1食べる,飲む
2食い荒らす,腐食する;浸食する,浪費する;むしばむ
4困らせる,悩ます
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)
「じゃあ俺次はファイア」
「――炭になった?」
「………ルーシィさんにお任せします」
* * *
……あれ?ナツルー?
ただ冒頭のほうのやり取りが書きたいがために作った話なので残念な感じ。
ところでルーシィは足技の魔術士だと思うんだ。次は沢村忠ばりの膝、その次は大空翼くんばりのドライブシュートきめてくれるだろう。私書くよ、そのためにナツルー!(目的と手段が入れ変わっている点
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