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Dammit【G*L】


ふうん。なんだ。
そう。


そういうことなの。





Dammit





「なんだ。まだ居たのか」


グレイに話し掛けられた時、ルーシィは珍しく一人だった。
いつものおしゃべりに勤しむカウンター席ではなく、目立たない隅のテーブル席。夜も更けた人気のないそこで何をするでもなく、ただ独り。
グレイは、ははぁんと唸ってニヤリと笑う。


「お前、まだ気にしてんのかよ」
「……うぅ」


ルーシィはうなだれる。


――今日まで、ルーシィはチームで仕事に出ていた。
もちろんいつもの最強チーム。街に潜伏した盗賊団を一掃する、ルーシィたちのチームからしてみれば簡単な仕事のはずだった。
不幸だったのは、盗賊の頭がルーシィをドブスだとか言うちょっと特殊な男だったことだ。ルーシィ=ドブス。なのにエルザにはめろめろだという異常な男が。
しかも最高……もとい最悪なことに盗賊の隠れ家がたまたま水路の近く。


で。


(――開け、宝瓶宮の扉!)


盗賊団ごと街の石橋、それからプライドずたずたのルーシィ自身も押し流された。
もちろん報奨金の半額は街の修繕費。チーム全員の報奨金から割ってくれたのがせめてもの救い。
しかし今回はグレイもナツも被害最小限に留めてくれたのに、まさか自分で駄目にしてしまうとは。反省してもしきれないルーシィである。


グレイは再び肩を落としたルーシィの隣に腰を下ろし、


「まあ、あれだ。ルーシィもこれで一人前の魔導士に近付いたと思えば」
「街を壊したら一人前!?それってどうなの!?」
「それがフェアリーテイルだろ?」
「そ、そう言われると納得しそうになる私が居るわ……」


ああああ、とテーブルに崩れ落ちるルーシィ。
嬉しいような悲しいような。……いややっぱ悲しいわ私の家賃っ。
ふと気がつけばさっきまで服を着ていたはずのグレイはいつの間にか上半身裸。もうツッコむ気力も出ないルーシィはテーブルに潰れたまま「う〜」と唸った。


「ブスって言われてその上家賃まで……こんなことならもっとボコッとくんだった〜」
「け、結構根に持つなお前……」
「当たり前よ〜」
「そんなに気にすんな。ブスじゃねーって。な?」


苦笑したグレイはルーシィの頭に手を乗せた。
そのまま大きな手で、くしゃくしゃとやる。


「グレイ……」


ナツだったら絶対言わないような気の利いた言葉でルーシィはようやく顔を上げた。
目が合った瞬間、我に返ったグレイが慌ててどかそうとした手を。
ルーシィが捕まえた。


「――言って」
「あ?」
「私に可愛いって言って。この際グレイでいいから」
「この際ってお前……」
「さあ言うのよグレイ!私がプライドを取り戻すために!」
「はぁ?ふざけ」
「やーだー!言ってくんなきゃやだやだやーだー!」
「駄々っ子か!?」


掴んだ手を揺すり、バタバタと机の下で足を暴れさせる。それでも頑なに応とせず、折角掴んだ手まで振り払ったグレイ。
ついにルーシィは。


「……言ってくんなきゃ……泣くわよ」


うるっと瞳を潤ませて、最強の脅し文句。
グレイは「うっ」と言葉に詰まり――女の子の涙にはとことん弱いのだ――結局嘆息一つで折れるしかなかった。
キョロキョロと辺りを見回し、コホン、と咳ばらい。


「ルーシィ」
「うん」


さあお言いなさいとばかりにすました顔をした瞬間。


「……へ?」


左腕がルーシィの頭を抱き寄せた。
眼前に迫った鎖骨のライン。固まるルーシィ。
その耳元に、唇を触れるほど近付けて。


「――可愛い」


低く囁く、掠れた声。


「〜〜〜っ!」


途端に声に鳴らない悲鳴を上げたルーシィはグレイを力いっぱい突き飛ばした。
「うぉ!?」と背中から床に転げ落ちたグレイ。ルーシィは妙に熱を持った右耳をおさえ、


「変態っ!」


と全力で罵る。


「はぁ!?お前が言えっつったんだろ!?」
「わ、私そんなにエロく言えなんて言ってないもん!変態変態変態!」
「エロ……?何言って……」
「もういい!今の無し!無しなんだからっ!」


真っ赤になって叫ぶルーシィにグレイはまだ憮然としていたが、ルーシィがまた泣きそうな顔になると追求を諦めて立ち上がった。
グレイにしてみればただ他の人間に聞かれたくなかっただけなのだろう。
それでも、あれはないわよ、とルーシィは思う。


「……つか元気になったなら早く帰れよ。いくら治安がいいっつっても女なんだからな」


ルーシィはそこへきてようやくギルドにはもうまばらにしか人が残っていないことに気付いた。
いつも帰る時間はとっくに過ぎて、月も真上に近い時刻だ。
ぐじぐじと顔をぬぐって気を取り直したルーシィは


「……大丈夫。ボディガードがいるから」


言って銀の鍵を取り出した。


「――開け、子犬座の扉!」
「ププーン!」


プルプル。


ルーシィの喚びだしに応えて現れたのは、小刻みに震える犬“っぽい”愛玩星霊。
ルーシィはその相変わらずの愛らしさに満足そうに頷き、「ね?」とグレイに親指を立てる。


「ね?とか言われても逆に不安だぞ」


とこぼすグレイをちょっと待ってと手で制し。


「――ねぇプルー、私可愛いわよね?」
「ププン?」首を傾ぐ。
「可愛いわよね?私可愛いわよね?……ああやっぱりそうね!ありがとうプルー!」
「プーン……」
「……オイオイ」


ルーシィは困惑するプルーにぐるぐる渦巻きの浮かんだ瞳で問い質し、さらには一人で納得し、思い切り抱きしめた。
異様な光景にグレイはどうツッコんでいいのやら。
そうして一頻りプルーに頬擦りし、元気を充電したルーシィは。


「じゃ、話戻すけど」
「おぉ……何事もなかったかのように……」
「不安なんて全然ないわよ。いざとなったら、ほら!」ルーシィはプルーの頬を挟んで掲げてみせた。「この鼻がダーツに」
「そうやって使う星霊か!?」
「じゃあ振り下ろすとか」
「凶器にすんな!」
「ドリル〜、とか?」
「ドリル……は凶器か?」


妙な沈黙。
「プーン?」と不安げにプルーが鳴いて。
ルーシィは唇を尖らせた。


「……まあ本当に危ない時は他の星霊だって居るし……ロキなんか喚ばなくても勝手に出て来るだろうし」
「ふぅん……」


とグレイは呟く。


「あ、そういえばグレイっていつもこんなに遅くまで居るの?家近いんだっけ?」
「あ?……ああ」
「ってゆーかどんな家?どーせ散らかし放題なんでしょ」
「………」
「……ってグレイ?」


急に黙り込んだグレイを不審に思い、顔を覗き込むと。


「――送る」
「え?」


言って、グレイは服を着始めた。
今何て?と聞き返したルーシィに。
グレイは背中を向けて、もう一度。


「家まで送る。支度しろ」
「ちょ、ちょっと、グレイ?」


そのまま、歩き出してしまう。
ルーシィは呆然として、それからどうしようか迷って。
結局。
プルーを抱き上げ、慌ててグレイの後を追った。









――何が起きてるのかしら。


ルーシィはチラリと一歩先を歩くグレイをうかがった。見えるのは背中だけ。
いつもより時間は遅いためおじさんたちの姿はないが、水路から水の匂いが頬を撫でる、いつもの道。
そういえば、初めてかもしれないな、とルーシィは思った。勝手に部屋に誰かが居ることはあっても、この道を誰かと歩いて帰る、なんて。


「…………」


それに、何だろう。グレイの雰囲気が急に違うものになってしまった気がする。
纏うのは話し掛けにくい空気。さっきまで普通だったはずなのに、だ。
それはたぶん、ルーシィがロキの名前を出してから。


――グレイってルーシィのこと好きなのかも。


ふと、いつかのミラジェーンの言葉が思い出される。
そんなことない――と否定したいけど。


「い、いいいざとなったらプルー、頼むわよ」


こっそりと腕に抱えたプルーに囁く。「ププ?」と鋭い鼻がキラリと光って見えたのを確認し、よし、と一人頷いた。


――この距離なら、確実だわ。


「ルーシィ」
「は、はい!」


殺気でも漏れたかしら、と硬直するルーシィを一瞬怪訝な顔をして見たグレイ。
しかし、気にしないことにしたようだ。
足を止め、ルーシィと向き合うと。


「――今日、泊まっていいか?」
「……え?」


思いがけない言葉に、ルーシィは思わずプルーを強く抱きしめた。
今が投げ時なのだろうか。
それとも振り落とし時?ドリ時?


「駄目か?」
「だ、だだだ駄目!」
「どうしても、か?」
「だって私、その、だって……」


心の準備が!と言いそうになって、違う違うそーゆー問題じゃないの!と自分でツッコむルーシィ。大体下着だって……いやだからそーじゃないんだってば!
あわあわ、と見るからに困惑するルーシィにグレイは「ああ」と納得。


「安心しろ、何もしねーから」
「何もしないなら何故脱いだ!?」
「うぉ!」


いつの間にかまた上半身裸のグレイ。
いつもならまだしも(決していいとは言えないわけだが)すっかり警戒して過敏になっている乙女の前で脱ぐなんて。
そんな、このあとのことを想像させるようなこと――ってこのあとって何!?はわわ、と頭の上に浮かびかけた想像を手で払うルーシィ。


「……帰りたくねぇんだけどな……」


グレイはふぅ、と憂鬱な面持ちでため息。
そんな悲しげな顔しないでよ!とルーシィは思う。心が揺れるじゃないの馬鹿馬鹿馬鹿!とかそんなことを。


「ルーシィ」


グレイはルーシィを見た。
それはあまりに真剣な表情。
「……な、何よ」とたじろぐルーシィに。


「実は俺――」


その時突然、ルーシィは先程自分を抱き寄せてきた力強い腕を思い出した。
甘い声で、可愛いって(言わせたことは忘れた)。


もしも、グレイがここでまた言ってくれたら。
ここで、あの甘い声で――


「……俺、最近帰るたび部屋が綺麗なんだ」
「……………………へ?」


ルーシィは固まる。
確かに憂いを帯びた声は甘かった。
ただ内容に期待してたような甘さはなかった。


「脱ぎ散らかしたはずの服がクローゼットに入ってたり掃除した覚えもねぇのに塵一つ落ちてなかったり」
「……はあ」生返事。
「極め付けは洗面所に見知らぬピンクとブルーの歯ブラシがこう、重なるみたいにセットされて……!」
「…………ジュビア……?」


ジュビーン☆、と頭に浮かんだのは水の魔法を使う一人の女。
グレイ様〜と一時期ストーカーのごとく付け回していたのは知っていたがまさか家にまで侵入し始めたとは。
すっかりフェアリーテイルの人間に染まりつつあるというべきか、ストーカー道を極めつつあるというべきか。


「なあ頼むぜルーシィ。あんな家怖くて帰りたくねぇなんて他の奴には言えねーし!特にナツ」
「………」


ああ、そう。そういうことね。
グレイがおかしくなったのは、ロキの話からじゃない。“家”の話をしてからだったんだ。


ふうん。なんだ。
そう。


そういうことなの。


ルーシィの中で何かが急速に冷めていく。
グレイの氷の造形魔法よりもっと冷ややかに。


「もしくはルーシィ、俺んチ泊まりに来るか?それなら平気かも……」


と言うグレイを遮る、はぁああああああ〜、と永遠とも思えるような長いため息の後。
ルーシィはプルーを振り上げた。



ザクッ。



刺した。







>>【dammit】
 (dame itの短縮語)
 ちくしょう!,くそ!,うぬっ!
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)







* * *
……グレルー?なんですかそれ。ただプルーを凶器に使うルーシィが見たかっただけですよ。
プルーの鼻最強なんだぜ!DB(ダーク・ブリング)だって破壊できんだぜ!(←RAVE)
どーでもいいがロキは意図的、グレイは天然の女たらしだと気付く。
最後にジュビアファンに土下座(2回目)。

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