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Option3【L】unf.
「……暇ですね、ガジルくん」
「ならどっか行ってこい」
「駄目ですよ。ルーシィから連絡があったらすぐ駆け付ける約束なんですから」
「じゃあ待てばいいだろ」
「だから暇なんですよー」
「じゃあ出掛けろ」
「駄目なんですってば」


そんな堂々巡りなやり取りをしているのはジュビアとガジルである。
ルーシィから標的の存在を報せる最初の連絡を彼らが手紙で受けて早3日。
男の捕縛サポートと<闇ギルド>潰しのためにギルドから慌てて向かったものの、その間に捕まえるべき男が留守になったということで、帰るまで近くの商業都市に宿を取って待機することになったのだ。


2回目の待機連絡はルーシィの星霊がくれた。バルゴというメイド姿の少女で、見た目は可愛かったが淡々としていて人形のようだった。
しかもその彼女、何故かガジルを思い切り無視。全ての報告をジュビアだけに告げると、「姫が心配ですので」とすぐに帰ってしまった。
しかし話の途中でジュビアがルーシィの様子をきくと、「姫は元気です」と柔らかく微笑んでくれた。その時、彼女がいればルーシィのことは心配ないだろうとジュビアは確信した。


が。


「暇ですねー」


それはそうと、暇なのである。


「……だから出かければいいだろ」
「ですから駄目なんです」
「じゃあ我慢しろ」
「でも……」


と繰り返そうとして。
はあ、と嘆息。


「……ルーシィ大丈夫でしょうか……」
「………フン」


ふと漏れたジュビアの本音にもガジルは鼻を鳴らすだけ。
その場しのぎの慰めなんかしたりはしない。
だからこそ、ジュビアはガジルを信頼できる。今回のことも、“今の”ルーシィのためにはガジルがまさにぴったりだっただろう。


ジュビア一人だったら、きっと今頃我慢できなくて乗り込んでいた。
何かあったんじゃないか、怪我したんじゃないか――そんなことを考えて。
そして出掛けに語ってくれたルーシィの“意地”とやらを、完膚なきまでに叩き潰していたに違いない。


ガジルが一緒で、よかった。
だから自分はここに居られる。まだルーシィに嫌われなくて済んでいる。
ジュビアはそう考えていた。


「ああでもガジルくんと一緒に泊まりがけのお仕事だなんてグレイ様に誤解されてたらどうしましょう……ジュビア不安っ!」
「誤解どころか気にもしてなかったぜ」
「それも嫌です!」
「どっちだよ。つかお前自分の部屋戻れ」
「だって暇なんです」
「じゃあ出掛けろ」
「それは駄目なんですー」


再び始まる堂々巡り。
不安を隠すように言い合いながら、ただただ連絡を待つ。
すぐに駆け付けられるように。
“約束”が果たせるように。


ずっと、待ってる。




* * *




「――アリエス伏せて!」
「ほえ?」


乱戦の中、魔法を操っていた星霊が主の声を合図に反射的に下げた頭。
その上を掠めるようにして、


「でいっ!」


ルーシィのあびせ蹴りが放たれた。
めきょっ、と音をさせてアリエスの背後に接近していた男の顔面を凹ませたルーシィは、スタッと着地を決めて、ぞくぞくっと身震い。
私、成長したのは魔法だけかと思ってたけど……


「ツッコミで足技まで磨かれていたのね……!」


ぐぐぐっと熱く拳をつくるルーシィの後ろから。


「あ、あのールーシィさん?今は感心してる場合では〜」


ふにょにょ、とアリエスの困ったような声。


「ないですよぉっ!」


もここーん、と感動を噛み締めるルーシィの後ろに近づいていた数人の魔導士をまとめて弾き飛ばす。


「あ、あっぶなー……ありがとアリエス!」


ルーシィの礼を聞いて。


「はいっ!」


頬を染めたアリエスは誇らしげに笑い、再びもこもこっと魔法を生み出した。






――今から数分前、ちょうど別の場所でジュビアとガジルが不毛なやり取りをしている時、ルーシィが新たな“扉”を開いて呼び出したのはアリエスだった。


ルーシィの隣にぽわわんっと現れた少女姿の星霊。もじもじっと膝を擦り合わせ、「お、お呼びでしょうか……?」と上目使いのポーズを決める。
そのたまらなく愛くるしい仕種にうおおお!と一瞬闘いを忘れて盛り上がる男たち。中には目をハートにして、魔法を解除する者さえいた。


もうルーシィなんか見えていない。うわ、なんか同じ女としてムカつくわチクショウとか思いながらセクシーポーズで対抗しようとして――やめた。
自分の星霊相手に虚しすぎるではないか。
その代わりに。


「アリエス!」
「は、はいぃ!」


主に鋭く呼ばれ、緊張した面持ちで振り向くアリエスに。
ルーシィは笑って言ってやった。


「私と一緒に闘ってくれる?」
「――は、はいっ!」


アリエスは目を輝かせて返事をした。
が。
すぐ大きな瞳を潤ませ「はぅう〜」っと悲しげな声をあげた。


「先に言われちゃいましたぁ……」


ふにょにょ、と残念そうに肩を落とすフェロモン過多娘に、きゅきゅーん、と周りの男だけでなくルーシィの胸まで音を立てたりなんかする。
その間に気を取り直したらしいアリエスは、きゅっと拳をつくり、わたわた振り回した。


「でででではっ、ふつつつか者ですがよろしくお願いしますぅっ!」
「つが多い!?ってかどこに嫁ぐ気!?」
「はぅうすみませぇえん〜」


そんなこんなでぐだぐだーと戦闘は始まった。






「アリエス、もう少ししたら一度止まって!」
「はい!」


乱戦の最中鞭を奪われた今のルーシィはほとんど無力。
目的地に向かって走りながらアリエスに指示を出し、魔法を抜けた者に時々“足”を出すくらいのことしかできずに居る。


アリエスの魔法が攻撃を壁のように阻み、続けて渦を巻く綿で敵を搦め捕る。
同じ黄道十二門のタウロスやレオのようなパワーはないが、繊細な魔法。
戦闘に特化した星霊ではないアリエスは、敵を倒すことより主をひたすら護るような持久戦を得意とするため、消費する魔力も比較的少ない。


アリエスが壁を作ってくれている間に、ルーシィは近くの登り易そうな木に足を掛けた。どうしても一つ確かめたいことがあったのだ。
持ち前の運動神経で登りきり、枝の上に身体を持ち上げて戦闘全体を眺める。


アリエスを中央に、10人単位。まるで扇のように散開した美しい陣形を取る魔導士たち。
その形は昔、本で見たことがある。


――鶴翼の陣。


「……やっぱり」


その瞬間、ルーシィの中で予感が確信に変わった。


<ギルド>とは個人の集まり。普通ならばこんなふうに誰かの指揮の元、統率の取れるよう訓練されることはない。
それは<ギルド>の理念――“個人と人格の尊重”に反するからだ。


ここまで大人数の集団戦に特化した魔導士は、この<ギルド>社会が基本構成の国では<評議員>くらいしか持ち得ない。


そう、今ルーシィが戦っているのは<ギルド>じゃない。


<軍>。


<ギルド>が個で集団なら、<軍>は集団で個。一つの意思の下に統べられている集団。
星霊でもまとめて倒しきれないような有能な魔導士を使って、そのような“愚かな”組織をあの男――ジュノは作り上げていたのだ。


「――オーナーを捕まえたぞ!」
「っ!?」


すっかり考え込んでしまっていたらしい。
ルーシィは後ろから髪を掴まれた。何らかの遠隔魔法だと気付く間もなく枝から引きずり下ろされた。
刹那の浮遊感。背中から地面に落ちる。


「ルーシィさんっ!?」


もこん、とした感触に受け止められた。アリエスが寸前に綿を滑り込ませたのだ。
そのまま落ちていたら――と今更ぞっとして冷たい汗が流れる。
はっとしてアリエスを見る。ルーシィに力を割いたせいで、アリエスのほうに隙ができていた。


「! ッ……」


アリエスに迫る魔法弾。
後ろ、と叫ぼうにも間に合わない。
アリエスに当たる直前、ルーシィは白羊宮を強制閉門した。アリエスの居た空間で魔法が弾ける。


「――……っ!」


ルーシィは鍵を握り締めた。


「鍵だ!鍵を奪え!」


どこからともなく飛んできた指示。
誰かの足が鍵――“仲間”を蹴り飛ばす。


「っ、あああああっ!?」


反射的に延ばそうとした右手を別の誰かに踏み付けられた。
ごりり、と響く嫌な音。肉体的な痛みよりも遥かに強く、仲間とギルドの紋章を踏みにじられた痛みがルーシィを襲う。


痛みに悶えながら、腕を乱暴に後ろ手に捻りあげられながら、それでもルーシィの頭は回り続ける。
誰だ。今の明確な指示をしたのは。ジュノの声ではなかった気がする。そいつがこの<軍>の正しい指揮官か?







*アリエスたんのターン終了のお知らせ。
続いて男前ルーシィのターン。

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あきゅろす。
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