Bite【R*L】
ルーシィがミラジェーンといつものカウンターでお喋りを楽しんでいると、フェアリーテイルのメンバーが何人かでまとまって帰ってきた。
チームを組んでいるメンバーの帰還時間がたまたま重なったのだろう。大人数が所属するこのギルドではそれほど珍しくはないことだ。
「あ、レビィちゃんお帰りー」
その中に仲の良い友人を見つけたルーシィはミラとの会話を中断し、そちらに笑顔で手を振った。
ミラジェーンもいつもの温かい笑顔で皆を迎える。
「お帰りなさい、ジェット、ドロイ」
「お帰りカナ……って酒飲むの早っ!」
「お帰りなさい、ロキ、アルザック、ビスカ」
「お帰りなさーい……って――」
ルーシィは目を剥いた。
「ロキ!?」
Bite
「ルーシィ!」
ルーシィに気付いたロキはカナに別れを告げ、迷わずルーシィに歩み寄ってきた。まったく悪気のない笑顔全開で。
「ただいまルーシィ。今日も可愛いね」
「まあ私が可愛いのは当然として……」
「当然なんだ?」と小さく呟くミラジェーンは置いといて。
「――ただいま〜、じゃないわよ!なんでアンタが居るの!?」
「うん。カナとちょっとそこまで仕事に」
「はい!?」
「大丈夫だよ、ルーシィ。星霊の――僕らの愛の力は使ってないから。そう、僕の力はいつだって君を護るために!」
「そんな問題じゃなーい!」
うがーっ!と乱暴にロキが握ってきた手を払い落とす。というかいつの間に手なんて握っていたのだろうか。残念ながらルーシィにはわからなかった。
なんとも手がはやい男、ロキ。いろんな意味で。
「あーのーねー、あんたが出てたら私が他の星霊喚べないでしょ?」
「そーだねー」
「そーだねー、じゃない!今だって私を癒してくれるプルーが喚べないのよ?」
「それならプルーの代わりに僕が居る」
「……は?」
「僕、ルーシィになら愛玩星霊にされても……」
「な、なんか卑猥に聞こえるんだけど!?」
「駄目よ、ロキ」と窘めるのはミラジェーン。「ロキは獅子なんだからわんちゃんの代わりは無理」
「いやいやミラさん、そういう問題じゃないからっ!」
「なら犬っぽい角を付けたらどうかな」
「アンタもいい加減にしなさい!ていうかそもそも犬に角なんかないわよ!」
思い切りプルーという存在の矛盾をつきながら、ルーシィが強制閉門してやろうとした時だった。
「よぉ、ロキじゃねぇか!」
「ナツ、グレイ!ハッピーも」
現れたのは珍しく大人しいナツとグレイ(とハッピー)。
途端にロキは人懐こい笑顔をみせ、2人+1匹に手を振る。
その時、ギルド内の何人かもが「ロキ、久しぶりだな!」と親しげに声をかけ、ロキはそれに笑顔で応えた。
あ、そうか、とルーシィは思った。
元々ロキはフェアリーテイルの一員。人間界に残された間とはいえ、星霊界と同じくもう一つの故郷になっていてもおかしくない。
なのに私ときたら喚ぶのはいつもピンチになった時ばかりで。
フェアリーテイルの皆とロキをずっと離れ離れにして。
「ちょっと来いよ」
とナツに呼ばれたロキがルーシィに視線で小さく謝って2人と1匹の方へ向かった。
「久しぶりだね二人とも。ってゆーかグレイ、服」
「うお!?」
「あい。お約束なのです」
嬉しそうにグレイの脱ぎ癖にツッコミを入れるロキ。それに何故か偉そうに頷くハッピー。
それはきっと当たり前だったはずで、でもロキにとってルーシィの星霊になった日から当たり前じゃなくなった光景。
「……そう、だよね」
ルーシィはぽつりと独りごちた。
ルーシィの星霊である以前に、ロキだってフェアリーテイルの仲間。
それなのにルーシィは、自分の都合ばかり押し付けようとしていた。
たまにはこうやってロキの自由に――
「お前、何言ってんだ。一昨日会ったばっかりじゃねぇかよ」
…………は?
ナツの一言にルーシィの目が点になる。
「あれ?そうだっけ?」
「そうだっけ、じゃねぇよ」とグレイ。「一昨日からカナと仕事に行くっつってただろ?忘れたのかよ」
「あい。ちなみにその前にもロキがマカオたちと飲んでた時会ったよ」ハッピーも加える。
……マカオたちと……?
もちろんそんなことは初耳なルーシィの口が、ひく、と引き攣る。
「うーん、ごめん。僕男との記憶はすぐに消すことにしてるんだ」
「オイオイ」
「いやー猫の記憶はしょぼいものなのでー」
「てめぇは猫じゃねぇだろが!」
「あ?」とナツ。「馬鹿だなグレイ。獅子は猫科だぜ。な、ロキ」
「ねー、ナツ」
「な、なんだお前ら仲良しか?」
「あい」これはハッピー。「ちなみにオイラとロキも同族で仲良しです。ね、ロキ」
「ね、ハッピー」
「うお……?なんだこの言いようのねぇ疎外感……」
なんていうグレイ一人を取り残すようなやり取りをしているロキに。
「ロキー、ちょっとこっちおいでー♪」
ルーシィは笑顔でちょいちょいと手招きした。
「ロキさん指名はいりまーす」
「ホストクラブじゃないですよミラさん」
「ふふ、ドンペリいっとく?」
「ホストクラブじゃないですよミラさん」
「はい、ドンペリ入りましたー!」
「ホストクラブじゃないですよミラさん」
ふざけながらもミラジェーンが用意してくれたのはオレンジジュース。
我に返ったルーシィが礼を言う前にミラジェーンはウィンクを投げて席を外してしまった。
ああもうカッコイイな、と自分の余裕のなさと比べて苦笑する。落ち着いて、とコップ一杯で伝えてしまうのだから。
ルーシィに呼ばれたロキが嬉しそうに戻って来た。甘酸っぱいオレンジジュースを一口含み、心を落ち着けたルーシィはコホンと一つ咳ばらい。
自分の隣の席を指差す。
「――とりあえずロキ、そこにおすわりなさい」
「ワン」
………
「…………何、ワンって」
「あれ?ニャーのほうがよかった?」
「そうじゃなくて」
「いや、だってそういうプレイを」
「いつ始めたのよ!?」
「ルーシィが僕を愛玩星霊にした時から」
「してないっ!」
「ルーシィになら……いいよ?」
「私がよくなーいっ!」
『男が女の子に言われて嬉しいランキング』に常に上位に入る言葉をロキに言われてもルーシィには当たり前のように効果はない。
むしろ折角ミラジェーンが落ち着けてくれた怒りのボルテージが再び上がるだけだ。
「あ・ん・た・ねぇ……」
「うん」
ルーシィが険しい顔をして身を乗り出すも、ロキは身構えることもせずに笑顔全開。
結局のところ、フェアリーテイルの皆より何より、ルーシィに構われるのが嬉しくてたまらないのだこの星霊は。
だからわざと怒らせたりからかったり――こうやって困らせるようなことをしてみせたり。
ルーシィは、はあ、と嘆息して座り直した。
「……もういいわ」
「え?」
「ちょっと考えてみたんだけど、ロキだってフェアリーテイルの一員だもんね。いつでも……とはいかないけど、私が仕事のない時くらいは自由に来たり仕事したりすることは止めないことにするわ」
「ルー……」
「た・だ・し!ちゃんと私に言ってからにしてね。……心配、するから。一応」
言い切って。
ルーシィは今日初めてロキに微笑んだ。
結局自分は甘いのかもしれない。それでも、ロキもルーシィの大好きなギルドの――“フェアリーテイルのロキ”でいる権利はあると思うのだ。
それに、契約だけに縛られず、自由でいるほうがロキらしい。調子に乗るだろうから絶対に言わないが。
「………」
どうやらそれはロキにとって予想もしていなかった言葉だったらしい。
しばらく呆然としていたロキは、まだ少し戸惑うように。
それでもやがて心から嬉しそうに。
笑った。
「――ルーシィ……」
「あーいいわよお礼なん」
「これで僕も愛玩星霊に」
「違うっての!?」
真っ赤になってドン、とカウンターに拳を落とす。
またからかわれたのはわかってはいたが、これはもう反射のようなものだ。
「ありがとうルーシィ」
「い、言っとくけど今回のことは許したわけじゃないんだからね」
「うん。でも嬉しいんだ」
「……な、何よ、もう」
あまりにも真っ直ぐな感謝の気持ちを向けられたルーシィは、そっぽを向いてストローをくわえる。
しかしもうすでに遅い。耳まで赤くなっているのがルーシィ自身にもわかるほど顔は火照っていた。
「君は本当に優しいね」
「はいはい」
「優しくて、可愛くて」
「ん。それは知ってる」
「大好きだよ」
「はいはい。わかった」
「キスしていい?」
「あーもーわかったわかっ……は」
い?、と言う前に。
ちゅっ、と軽いリップ音。頬に柔らかな感触。
何が起きたかも考えられず、完全にフリーズするルーシィに。
「愛してる」
ロキはルーシィにだけ聞こえるように愛を囁いて。
「――今日は帰るよ。またね」
ひらひらとギルドの皆に手を振り扉の向こうへと消えた。
そんな光景の後ろで。
「まあ」と微笑むミラジェーン。
ぽかん、とするナツ、グレイ。
「でぇきてぇる゙」、とハッピー。
「やり逃げか?」「やり逃げだ」「やり逃げ……」「やり逃げね」「ルーちゃん……」、と他の皆。
そして、興味の視線にさらされたまま残されたルーシィは。
「――っ開け、子犬座の扉ぁあああっ!」
しばらくロキが出てこれないよう、他の星霊を交互に呼び出し続けることを決めたのだった。
>>【bite】
動
1かむ,かみつく,かみ切る
2刺す,はさむ
名
1かむこと
2噛み傷,刺し傷,キスマーク
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)
* * *
今回は油断したルーシィが悪い。
というわけで前回のがシリアスくさかったから(どこが?とか言われたらちと困る)とにかく軽く。
愛玩星霊って単語、下手したらエロいよね。
関係ないけど集団グレイいじりが楽しかった。楽しかった。(ここ大事なので2回言います
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