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Natural1【N*L】[K→L→M→]
ルーシィを見送ってギルドに戻る道すがら、いろんなことを考えた。
考えて考えて考えまくって、気付いたことがある。


“仲間”じゃねぇよ、なんて言った理由。
あんなに俺が“アイツ”にこだわった理由。


“ルーシィ”にこだわった理由。


帰って来たら、ちゃんと伝えなくては。
帰って来てから伝えるって“約束”なんだ。
“ルーシィ”との“約束”なんだ。


その“約束”があったから、送り出せた。
いつもの笑顔で向かい合えた。


――ただ、後悔があるとすれば。


信じてる、と。


1番欲しがっていた言葉を掛けてやれなかったことだけだ。





Natural





「マスター、やはり私は納得いきません!何故ルーシィだけじゃなくてはならないのですか!」


ナツがギルドに戻ると、エルザがマカロフに詰め寄っていた。
エルザがマカロフに盾突くような言動を取るのは珍しいことだ。皆が不安げに、だが、同じ意見だと言うようにその様子を見守っていた。


「もちろん、適任だと思ったからじゃ」
「しかし私たちチームが」
「毎回チームじゃなければならん理由はなかろうよ」
「で、でもよりによって闇ギルドになりそうな集団に一人でなんて危険じゃ……」


と、レビィが口を挟めば、それまで飄々と殺気立つエルザの相手をしていたマカロフは「んん?」と眉を跳ね上げた。


「お前たち、何か忘れてないか?ルーシィの実力は確かじゃぞ?」
「でも……」
「ほれ、ビックスローを倒したこともあるじゃろが」


それを聞いて。
「あー、グレイも負けたのに」「確かにグレイが負けた」「負けたな」「負け犬だ」という容赦ない成程の声が上がる。


「るせーよ!つかあれはフリードの術式がなけりゃ……」


と、反論しかけたグレイを。


「――黙れ」


エルザの刺し殺すような一睨み。
しん……、とグレイ以外まで静まり返る。
マカロフはふむふむと唸り、苦笑した。


「ルーシィはのぅ、ナツにグレイにエルザっちゅう最強のチームの中で揉まれて成長はしたが、まだ経験が足りんのじゃ。だからいまいち自分を過小評価するきらいがあってのぅ」
「つまり今回、マスターが直々に仕事を奨めたのは彼女に自信をつけさせるため……、ということですか?」
「ま、そういうことじゃな」
「さ……流石マスターです!そんなお考えがありましたか!」


エルザの目がキラキラ輝く。羨望と敬意と絶対の信頼を取り戻したその瞳、そしてギルドの“ガキ共”に向けて、マカロフは一つ大きく頷いてみせた。


「皆も安心せい。ルーシィは無事帰ってくる。――わしは、あのコを信じとるよ」





そんなやり取りを珍しく輪から外れてきいていたナツは、一人情けなさを噛み締めていた。


本当は自分が言ってやるべきだったのだ。
マカロフよりも誰よりも先に、自分こそが。皆を納得させるのも、自分こそが。


それができなかったからルーシィはあんなふうに意地になって――


「ナツぅ……」
「……ハッピー」


ふよふよと元気なく空を漂いながら、ハッピーがナツの前に降り立った。


「ルーシィ、行っちゃったの?」
「……ああ」


ハッピーや皆の心配の原因をつくった自分が、どんな顔をしていいのかわからずに目を泳がせて。
ふと。


――ハッピーのフォロー!


ぴしゃりとルーシィの叱咤が飛んで来た気がした。本当に言われたものよりもますます凛々しいそれに、自然と口元が緩む。
そのまま、ナツはニカッと笑ってみせた。


「大丈夫だって。ルーシィだぜ?すぐ帰ってくるって」
「お腹減ったら帰ってくるかな」
「いやそれは無理だろ」


しかしハッピーはやはりどこか不安げだ。
いつもピンと立った耳は垂れ下がり、尾もしんなりと力無く床を打つ。


「ルーシィ、最近いつも水飲んでたよね」
「ん?そうだな」
「……木に砂糖水塗ったら帰って」
「ルーシィは虫か」
「あい、ジュースのほうが」
「いや虫か」
「はちみつ」
「むーしーかっ」


最後のツッコミでハッピーの額をぺちぺちぺちっと叩く。
容赦なく、まるで、ルーシィの代わりになったかのように。
すると、くー、とも、みー、ともつかないような音を喉で鳴らして、ハッピーは呟いた。


「――……ルーシィ、このままチームやめたりしないよね?」
「………」


ナツは息を飲む。


それは。
わからない。


ルーシィがそう望むのならば、あるいはそんな日も来るかもしれない。その時、引き留める資格は、今のナツにはない。


――でも。


「よし、ハッピー!俺達はしばらく仕事はなしだ!」
「あい……?」


今は、ナツの隣に戻る“約束”だから。
“ルーシィ”が頑張るって言ったから。
信じてるから。


「ギルドで一緒にルーシィ帰るの待とうぜ。俺達、チームだもんな!」


一瞬。
きょとん、とした青い猫は。


「――あい!」


漸く、ハッピーな笑顔を見せた。







ルーシィが一人で仕事に向かってから、4日が過ぎた。


「んー」


ルーシィの居ないカウンター席で、ナツはだれていた。その隣ではハッピーもだれまくっている。
桜色と青の塊と化したそれは何をするでもなく、「あー」だの「うー」だの「にゃー」だの、時々意味もない妙な音を発した。


「あらまあ死んでるわねー」


隣でカナがグビビッと酒を呷りながら苦笑した。
1日2日はよかった。普段通り、ギルドで馬鹿をやって過ごせた。


しかしよく考えたら、ルーシィと出会ってからこんなに長いこと離れるのは初めてだったのだ。
常にナツと一緒だったハッピーもまた然り。
日数を意識し始めた時からナツもハッピーも日に日に元気がなくなって、死人のごとくぐったりし始めたのだ。


「むー」


しかもエルザとグレイはそれぞれで仕事に出てしまったし――もしかしたらルーシィを心配して探しに行ったのかもしれないが――、どうも張り合いもない。


場所をきいておかなくてよかった、と今更ナツは思った。
知っていたら、うっかり会いに行ってしまうところだ。
心配だから、とか、信用できないから、とかじゃなく。
ただ、ルーシィに会いたいから、という理由だけで。


「ぐー」


でもルーシィはきっとそうは取ってくれない。また深く傷ついて、今度こそナツを許してくれなくなるかもしれない。
それこそ困る。
ナツの隣にルーシィが居ないのは――こんなにルーシィのことばっかり考えて苦しいのは、今だけで十分だ。


「ほらナツ、これでも飲んで」


不意にミラジェーンがナツの前にコップを置いた。
無色透明のそれ――水だった。
無味無臭で無料の水。有り触れた水。
ジュースがよかった、とか思ったが、ここ毎日ナツたちのせいでルーシィがこればっかりを飲んでいたのを思い出した。


仕方なく手に取ってちびりとやる。やっぱり水は水だった。まごうことなき水だった。
そんなナツを見る、ほわほわと変わらぬ笑顔のミラを一瞬だけ見て、嘆息。


「……ミラってすげーな」
「え?」
「俺たちが仕事に出てる時、いつもミラはこんな気持ちに耐えて――それでも笑顔でいられたんだな。すげーよ」
「なっ……」


カッシャーン、とミラジェーンの手から栓抜きが滑り落ちた。まるでドラマ的な演出のように栓抜きはくるくる床を滑って止まる。
おい落としたぞー、と思わず栓抜きを目で追っていたナツが顔を上げれば。


「ナツ、大人になって……」
「は?」


ほろほろと涙を流し、白いハンカチで拭うミラジェーン。


「そ、そうだ、今夜はお赤飯にしましょ!私炊いてあげるっ!」
「いや、何だそれ」
「おおい、みんなー!ナツが大人になったぞー!」


カナが酒場の隅にまで届く声で叫んだ。
その瞬間、


「おお、ついに!で、誰とやったんだ?ルーシィか?」
「ああルーシィちゃんもついに初彼氏かー!」
「お、俺は認めん!」
「そんなの不潔よー!」
「不純異性交遊だ!エルザ、やっちま……っていねぇ!」
「っていうかナツ、貴様何姉ちゃんを泣かせてる!」


いきなりナツの居るカウンターに、ギルドの連中がなだれ込んできた。
突然もみくちゃにされながら、なんか超誤解だー、とか思ったが。


本当は、何日も皆がナツたちの様子をうかがってたのは知っていた。毎日声をかける――元気づけるタイミングを待っていたのを知っていた。
だから、


「お、お前ら……」


だからこそ、


「うるっせぇええええ!」


ごおぉおお!と天井に向けて炎を吐いた。
「おお、ナツが怒ったぞー!」「皆気をつけろー!」慌てて、でも嬉しそうに一度離れた“仲間”に。
ナツはカウンターの上に行儀悪く立ち、ニヤリと笑って挑発的に手招きし、


「てめぇらまとめてかかってこいや!」


酒場に轟くような喧嘩上等を放った。


「おうおうこっちこそ上等だ!ルーシィちゃんの初めてをよくも!」
「いや、よくわかんねーけどそこは誤解な気がする」
「姉ちゃんを泣かせる奴は漢じゃねぇ!」
「そこも誤解だ」
「ナツー!」
「おう、ハッピー、ちょっと下がって」
「ルーシィに何したんだよぉ!」
「ってお前もか!?」


遥か頭上から振り下ろされた冷凍魚を避けながら、ナツは顔色を変える。
その隙に皆がナツを狙って群がってきた。中にはマジに魔法を使おうとする奴も居て。
励まされてるのかただの集団リンチなのかわからなくなったナツは、どうとでもなれ、という感じで炎を放った。
放ちながら、ナツは馬鹿みたいに笑った。





「ナツ、お前男の顔になったな」


乱戦の中、こっそりマカオに耳打ちされた。ナツは顔を撫でてみた。
よくわからず、首を傾ぐだけだった。




* * *




――ナツがもみくちゃにされていた時。


「あらジュビア、どこ行くの?」


酒樽と共に早々とカウンターを避難していた発端のカナは、こそこそギルドを出ようとするジュビアとガジルに気付いた。
ジュビアはギクリとしたように一瞬身を竦め、笑顔をつくった。


「お、おおお仕事ですっ」
「何慌ててんのよ。……ん?ガジルも一緒なの?」
「……フン」


相変わらず態度悪っ、と顔をしかめたカナ。二人はこそこそと逃げるようにギルドを後にした。






マグノリアから見て北西部――とある商業都市の街道で、謎の津波が起こったという話が騒がれ始めたのは、このわずか2日後だった。




* * *






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