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Life【N*L】[K→]
信じろ、ってナツは言った。
信じる、って私は頷いた。


ならその逆は?
逆は有り得る?


ずっと訊きたくて、いつも訊けなかった。
自信がなかった。
怖かった。


ねぇナツ。
私は今、ナツと対等で居る?
ちゃんと一緒に歩けてる?


ナツは私のこと、信じてくれる?






Life





仕事のない時、ルーシィはギルドに顔を出すのが日課だ。
酒場は朝から開いているので、ルーシィは好きな時間に来てミラジェーンやレビィ、他の仲の良い仲間たちとおしゃべりをしたり読書をしたりして自由に過ごす。
あの酒場の騒がしい空気が大好きだった。毎日用もなく足が向かってしまうくらいに。


今日は読書をしようと席を探していた。その間に、久しぶりに顔を見る人物を発見したルーシィは笑顔でその肩を叩いた。


「ジュビア、久しぶりっ。帰ってたんだね」
「ルーシィ、……恋敵」
「はいはい違うってのー」


いつものノリで切り返し、ルーシィはジュビアの隣に腰を下ろす。
腰を下ろしながら、大体私にはナツが……、とか考えて。
いやいや私ってば気が早いわよまだ好きとか言われたわけじゃないんだから。でもまあね、あんな抱きしめ方2回もされてるけどね――なんて、ついニヤニヤしてしまう。


「ルーシィ、怖い……」


ジュビアが若干引きかけていることに気がついて、ルーシィは慌ててコホンと咳ばらい。
赤くなった頬をごまかすように貰って来た水(氷無し)をちびりとやって、「ジュビアはどこ行ってたの?」と訊いてみると。
ジュビアはニッコリ笑った。


「はい。闇ギルド潰してきました。3つ」
「あはー、爽やかにとんでもないこと言いよったわこの娘」
「でも新規の闇ギルドだったのでまとまりもなくて簡単でしたよ」
「それでも十分すごいわよアンタ」


当たり前の話をするような顔のジュビアに苦笑して。
ルーシィはこっそり嘆息。


ジュビアくらいの実力があったらナツにも簡単に訊けるのだろうか。
私のこと信じてる?信じてくれる?とか。
私は、ナツにとって“何”?とか。
さりげなく、軽いノリで。


「あ、そうだ。カナさんから聞いたんですけど、ルーシィ最強チームやめるんですか?」
「はい?」いつの話をしてるんだか、と苦笑して「やめないわよ」
「なーんだ……ジュビアがっかり」


ジュビアは残念そうにため息。
私の後釜狙ってやがったなこのアマ、とルーシィが顔を引き攣らせたその時。


少し離れたところで真っ赤な炎が上がった。
吹き抜けの2階の天井まで届きそうなそれ。こんな激しく綺麗な炎、ナツしか居ない。そしてその炎に相対するのはもちろん冷気。


「年中パンツ!」
「裸マフラー!」


低レベルの罵りあいといつもの殴り合い……ならまだしも、魔法まで用い始めた2人に酒場では悲鳴があがる。


「キャー、グレイ様頑張って下さいっ!」


こっちは違う意味の悲鳴(?)ではあったが。
「いや、アンタ止めなさいよ……」とか言うルーシィも止める気はない。いつものことだわね、と水をちびちび。自分にさえ被害がなければいいのである。


ごぉおお!と上がる猛々しい炎に、キィイン!と一瞬で侵食する氷。
どたばたと騒がしい2人はどう見ても『カッコイイ』とか『素敵』とかそういう次元の単語が合うように思えない。


「アンタ、なんでグレイなわけ?」


何の気無しにルーシィが訊けば「グレイ様だからですっ」とジュビアの即答。
「あらそーすか」どーもごちそーさまでーす、と肩を竦めて水をまた口に入れると。


「ルーシィは何でナツさんなんですか?」
「ぐも゙っ」


思いがけない切り返しにルーシィは水を逆流させる。
それはもう、ジュビアのウォータースライサーばりの切れ味だった。


「な、なんっ」
「だってルーシィ、最初にチーム組んだのナツさんでしょう?」
「そ、そうだけど……で、でもあの時は好きとかそーゆーんじゃなくてっ」


しどろもどろになりながらの弁明に、「ああ、そうですよね」とジュビアは頷いた。いや、そこはもっとこうがっつり食いついてくれてもいいじゃない、とか複雑な乙女心ってヤツをみせるルーシィに。


「ナツさんって昔好きな人居たらしいですしね」


ジュビアの一言。


「――へぇ」


ルーシィは平淡な声色で「誰からきいたの?」と続ける。


「カナさんから聞いたんですよ」


ジュビア、グレイ様のこと聞いたのに〜、とぼやくジュビアの声はすでにルーシィの耳には届かない。
ルーシィよりもずっと前からギルドに居るカナの言う“昔”。
ということは、まずルーシィのことではないはずだ。


ぐわんぐわんと耳鳴りがする。何かひどく聞きたくないものを唐突に聞かされてしまった気分だ。


じゃあまさか。
あの時の、『アイツなら〜』の“アイツ”って。
ルーシィを優しく抱きしめながら、あんな場都の悪い顔をした理由って――


「………」


……しかし、“好きだった”って過去形。
ふと、ルーシィは嫌な予感がした。「ねぇ」と再びジュビアに向き直り、


「今、その“好きだった人”って……」
「――よっルーシィ!」
「おおーっとぉ!?」


ビクゥッ、とルーシィの身体が跳ねる。いつものように気安くナツの腕が肩に乗っかっていた。
グレイとの喧嘩は終わったらしい。頭に大きなたんこぶが出来ているから、エルザの鉄拳制裁での無理矢理和解、というところだろう。
ハッピーも「あい!」とルーシィの胸に飛び込んでくる。
ナツはルーシィとジュビアを交互に見ながら、


「何の話してたんだ?」
「あ、いや……ちょっとね」
「んだよ、混ぜろよー」
「オイラもー」とハッピー。
「お、男には関係ないガールズトークなの!」
「何よー、混ぜなさいよー」
「アタイもー」
「女言葉にしても駄目!」


ってゆーかオイラの反対ってアタイなの!?とかツッコむ。
その間にジュビアは「グレイ様〜ッ」とあっさりグレイの元に向かってしまった。いつだって友情より恋の女である。
話の続きは気になったが、おかげで話が切れたことに安堵した。


ナツはジュビアが居なくなった席に当たり前のように腰を下ろし、「何飲んでんだ?」と無邪気に笑う。


無邪気に、だ。ルーシィに、あんな酷いことをしておいて、罪悪感も見せず。


――いや、でもまだわからない。
訊いてもないのに、決めつけるのはよくない。
信じるって決めたんだ。ナツのこと、信じるって。
だから、ルーシィは極力いつものように笑った。


「水よ。飲む?」
「まさかジュビアの……」
「違いますけどー」
「質素だね」とハッピー。
「家賃払ったらお金なくなっちゃったのよ」
「節約、か……」
「誰かさんが遺跡壊したりしなかったらジュース飲めたのになー」
「お前ねちっこいな」
「粘着質です」
「黙れ猫。文句あるならジュース奢りなさい」
「猫にまでたかったら人間として終わりだと思うぞルーシィ」
「だったらアンタがさっさと新しい仕事――」
「ルーシィ」


呼ばれてルーシィは声の方向を振り向いた。


「ルーシィ――ちょっと」


ミラジェーンだった。カウンターの定位置に立った彼女にほわほわした空気はなく、いつになく真剣な表情でルーシィを呼ぶ。
その隣にはマカロフ。こちらは笑っていたものの、どことなく深刻な影を滲ませている。


なんだろ、と一瞬ナツとハッピーと顔を見合わせたが。
結局、ルーシィ一人で席を立つ。
ルーシィはミラジェーンに促されるままカウンターの奥に進んだ。
ナツのひどく不審げな視線を背中に感じながら。








夜、ルーシィが部屋に戻ると当たり前のようにナツがいた。
まあ、それはいい。いつものことだとすでにルーシィは割り切っている。
だがナツの顔付きがいつものものとは違う。腕を組んで、ムスッと不機嫌そうなそれ。
何と無く、ファントムにギルドをボロボロにされた時の――気に入らないことがあった時のだな、とルーシィは思った。


「じっちゃん、何の話だったんだ?」
「え、あ……うん。ちよっとね」
「何よー、言いなさいよー」
「いや、ガールズトークじゃないから」


と言って。


「ちょっと、話をしただけよ」


ルーシィは笑う。
ナツは納得いかないようだ。自分が蔑ろにされたようで面白くないのだろう。
でも言えない。これはルーシィが自分で決めなくてはならない問題だ。
「そういえば」とルーシィは話題を変えることにした。


「ハッピーはどうしたの?」
「ん?あ、忘れてきた」
「ひどっ!?」
「まあ俺が家にいなかったたらここに来るだろ?」
「アンタそれでも“仲間”?」
「……仕方ねぇだろ。今はルーシィが心配だったんだ」


あまりに真っ直ぐな視線に、ルーシィは一瞬たじろぐ。
なんだかナツらしくない。ナツは“仲間”一人をそういうふうに贔屓したりしないはずだ、とルーシィは思っていた。何かしらの理由がなければ。


「……じゃあ窓開けとくわね」と、とりあえずハッピーが来たらすぐに入れるよう、ベッド近くの窓を開ける。
ふう、と嘆息して肩に掛けていたバックを下ろすと。


「ルーシィ顔白くねーか?」
「え、そう?貧血かな」
「レバーとか食えよ」
「いいわよ」
「プルーンならあるぞ」
「ってそれ私のじゃないの!」


勝手に部屋漁るな!とプルーンの袋を奪う。
見れば中身はほとんどない。相変わらず自由で、こういうところはやはりいつものナツのようだ。
するとナツは突然椅子を立った。


「じゃ、買ってくる」
「は?」
「ほら、俺が食っちまったから」
「………」


いや、やっぱり違う。
ルーシィは本当に買いに行こうとするナツを止めた。


「ねぇ、アンタちょっと変じゃない?」
「何がだ?」
「“私”のこと心配しすぎ。らしくなくて気持ち悪いくらい」
「……“仲間”を心配して悪いかよ」


また“仲間”ときた。
この頃やけに強調するワードだ。まるで、何か壁をつくってるみたいに。
本来のルーシィなら気付いたとしても笑って「そうだね」って頷いていた。逃げていた。
だが。


「やっぱり変よ」


マスターからの“話”もあって、なんだかいつもよりいろんな意味で気分が高揚していたルーシィは、そこに――きっと今しか踏み込むことのできないそこに、あえて踏み込むことにした。


「なんか――今にも“私”が死んじゃうみたい」


言った瞬間。
ナツが明らかに動揺を見せる。


――あ、やっぱり。


図星、か。ルーシィはこっそり苦笑した。
やっぱり、昔好きだった人は亡くなっていたらしい。ジュビアの話が過去形だったから――本人が居るのにルーシィに、とかナツにそんな器用なことできないって信じてたから、そんな気はしていた。


つまりは。


最近のナツはルーシィに死んだ“誰か”を重ねてる。だから心配してくれる。優しく抱きしめてくれる。


ジュビアの話でなんとなく想像していたことだった。覚悟もしていたことだった。
――だから、ルーシィはすぐに泣き崩れたりはしなかった。少なくとも、ナツの前でだけはしてやるもんか、と。


「……死ぬ、のか?」


ナツが呟いた。


「はぁ?死なないわよ馬鹿」
「じゃあそういうこと、言うなよ」
「だからそれはアンタが」


そういう扱いするから、と言おうとして。
また無理矢理、抱き寄せられた。


「言うなよ」
「……ナツ?」
「そんなこと、言うなよ」


気がつけば、また、あの優しい抱擁。
優しくて、切ない――拷問みたいな。


思わず、ごめん、て謝る。
絶対悪くないはずのルーシィが、本当は謝ってもらわなきゃならないはずのナツに。


“アイツ”と重ねてごめんって、“アイツ”のこと考えて抱きしめてごめんって。
謝るべきは、ナツの方なのに。


「ルーシィ、俺を信じてるよな」
「……うん」


どんなに酷いことをされても、最低な扱い受けても、それだけは変わらない。ナツのことは信じてる。
だから腕の中でいつものように頷いた。


――逆に私は?私のことは?
いつものように喉元までその疑問は競り上がる。


「………」


この機会に、訊いてみたらどうだろうか。
“私”のこと、どう思ってるか。
少しでも“私”を見てくれているか。
その一瞬の迷いの間に、ナツは一度ルーシィを身体から離した。
そして。


「――なら、俺が護る」


無邪気に笑ってその言葉は放たれた。
予想外の衝撃に、ルーシィは愕然となる。


「ルーシィが信じてくれんなら、絶対俺が護るから」


何も言えないルーシィに無邪気に繰り返す。
ルーシィにとって、ひどく残酷な言葉を無邪気に。


普通の女の子なら喜ぶべきシーンなのだろう。
でもルーシィは違う。ナツはルーシィをそんな風に扱ってはいけないのだ。
まだルーシィを“ルーシィ”として見ていた時に、チームに誘ってくれた、ナツだけは。


「ち……」


違う。違うよ、ナツ。そんなの私望んでないよ。
“私”が成りたいのはそんなんじゃないよ。必要としてほしいのは、そんな理由じゃないよ。


私は“誰か”の代わりじゃないよ。


言いたくて、でも言えない言葉を全部まるごと飲み込んだ。
ナツは気付かないのだろう。自分の言葉がどれだけルーシィの心を、矜持を、めった刺しにしてるかなんて。真綿で包むように優しく、窒息させようとしてるかなんて。


「ルーシィ、護るからな。命に代えても」


まるで自分の言葉に酔っているように繰り返しながら、ナツは再びルーシィを抱える。縋るように柔らかい胸に顔を埋めながら。
やっぱりルーシィの状態になんて気付かない。いつも抱き返す腕が垂れ下がって、ナツの背中にないことさえ気付いてないのだろう。


ルーシィはどうしようもなくて、されるがままになりながら、ただ曖昧に笑った。笑わなければ泣きそうだった。
泣くなんて真似をしたら、もう二度とナツの傍には居られなくなる。この上同情なんて、真っ平だった。


「……ナ……ツ……」


今何かを言ったところでわかってもらうのは無理だ。
今のままのルーシィでは説得力もない。信頼もない。


“誰か”の代わりでしかない。


――それでも。


「……ほら、ナツ……もう、わかったから離れてよ」
「んー」
「んー、じゃないの。そこは私の胸なの。際どいの。いくらアンタでもぶん殴るわよ」
「んんー」
「ひわわわ!だだだからその頭すりすりすんのやめんかっ!」


それでも、絶対諦めてなんかやらない。


自由も自分で掴み取った。
今此処にいることだって自分で決めた。
ナツと組むこともルーシィの意志だった。


護られるお姫様になるためにナツに着いて来たんじゃない。フェアリーテイルに入ったんじゃない。
護ってもらうためにナツとチームを組んだんじゃない。
そんなことは“私”が望んでいない――
これも全部ルーシィの意志だ。


それならば、闘う。
ナツの信頼を勝ち取るのだ。
信じてる、と言ってもらうのを待つばかりではなく、ナツに言わせてみせるのだ。
――それこそ、命に代えても。


「もー、ナツいい加減にしてよー」
「もーちょっと」
「もーちょっとってどのくらい?」
「ハッピーが来るまで」
「……来なかったら?」
「………」
「こら、ナツ、黙るな」
「んんー」
「ひわわわわハッピー早く来てー!?」


そのために。
いつものやり取りをしながら。
頼りなく丸くなったナツの背中を抱き返すのではなく、泣く子にするように優しく撫でてやりながら。


――ルーシィは、1つ、大きな決断をした。








>>【life】
1生命,命;生きていること
3人生
4一生,生涯
5[通例lives](死者と対比して)人,人命
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)








翌日、ルーシィは一人、マカロフの前に立っていた。マカロフの隣のミラジェーンは少し緊張気味にルーシィを見守っている。


「昨日の件、私にやらせてください」


それはルーシィから切り出した。
ミラジェーンは息を飲み、胸元で祈るように指を組んだ。本当は止めたいのを、必死で我慢しているかのように。


「……本当によいのか?」


マカロフに「はい」と頷く。
「危険があるぞ?」にも、「承知の上です」とすかさず応える。
ミラジェーンが何か言いたげにルーシィを見る。でも何も言わないでくれた。
ルーシィの意志を尊重してくれようとしている。
だからルーシィはミラジェーンの前で。


「マスター」
「なんじゃ」
「マスターは私を信じてくれたからこの仕事をくれたんですよね?」
「ん?おぉ、そうじゃ」
「それなら、私に、できますよね?」
「……うむ。ルーシィならできるじゃろう」
「――ありがとうございます」


ルーシィはその言葉を誇るように微笑んだ。
ミラジェーンの表情も少しだけ緩む。


ああ、ナツにも同じように訊けたらいいのに。
もう、今更だけど。


「では、正式に命じる。――ルーシィ」
「はい」


ルーシィは姿勢を正した。


少し動機は不純かもしれない。
でも、決めた。


並んで歩くって。
命を懸ける価値があるって。
“私”がやるんだって。


「マグノリア北西部に団結しつつある新規闇ギルドの調査に行ってくれ」


全部全部、他の誰でもない、あの馬鹿に認めさせてやるために。


「――任せて下さい。私これでもフェアリーテイル最強チームの一人なんですから!」


ルーシィを奮い立たせる、魔法の言葉を使った。












* * *
ホント、書いてて初めてナツをくびり殺したくなった。リサーナ悪くないのにちょっとイラッとした。途中からルーシィに感情移入しすぎたよ私……。ルーシィ大好きだ。
なんとなく目指すものが見えてきたかな。そう、テーマは頑張る女の子。この先もルーシィがいろいろ頑張りまする。闘いまする。
ああ、ナツも次回はちゃんとするんじゃね?あーほんとこのままじゃムカムカするので早めに次回!

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あきゅろす。
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