[携帯モード] [URL送信]
Keen+【N*L】
ルーシィに酷いことを言った。思ってもないことばかり言った。


きっと、カチンときたのだと思う。
ルーシィが、チームをやめるなんて言うから。俺から、離れるなんて言うから。


結局。
仲直りはできたんだ。


ただ、ルーシィを抱きしめながら“仲間”だと。
言って自分で、ちょっと違和感。


でもそんなことはないはずだ。ルーシィは“仲間”。
エルザや一応グレイのアホと同じ“仲間”。
リサーナとも同じ。


……何で“アイツ”が今出てくるんだ?


まあいいか。


ルーシィは大切な“仲間”だから――


「信じてるよ、ナツ」


その笑顔が見られる場所にいてくれなくちゃ、困るんだ。





Keen+





「ルーシィ、アイツらが東から来るよ!」


空からハッピーの声がして、ルーシィはニッと不敵に笑って鞭を構えた。


「オッケー!――タウロス、お願い!」
「MOー、任せてください!ルーシィさんの乳のために!」
「後半いらんわ!?」


やがて青々とした草を掻き分けながらルーシィとタウロスの元に向かってくるのは、大型犬ほどの大きさの節足動物が5匹。
バッタをそのまま大きくしたようなそれに、乙女として軽く引きながらも、すぐに自分を立て直し、勇ましく鞭を鳴らす。
そこにナツは。


「うぅぅしぃいい――」


と走って。


「邪魔っ!」
「ンMOー!?」


タウロスの頭を踏み台にして跳躍。1番大きく跳ねたバッタに跳び蹴りをくらわせる。


「ナツ!星霊足蹴にするんじゃない!」
「そうですぞ!自分はエルザさんにお願いしたい!」
「アンタは黙れ!」


すっかり元気になったルーシィは星霊との面白漫才も相変わらず絶好調。ナツはそのいつもの光景にニッと笑った。
笑いながら右腕を振るい、ルーシィに向かった1匹を黒焦げにする。
ルーシィは目の前で上がる炎にはっとして構える。タウロスも顔を引き締め、斧で勢いよく突っ込んでくる節足動物を蹴散らしていく。


「ナツ、南東方向に来てるよ!」
「おうよ!」


空からのハッピーの声でナツはその1匹を焼く。
今日のハッピーはナツとルーシィのサポート。エルザたちが煙で追い立ててきたバッタの来る方向を指示をするのだ。
猫に指示されるってどーなんだ、とは思わないこともないが、効率はいい。


「1匹も逃がしちゃ駄目だよ、ルーシィの家賃のために!」
「任せろって!家賃のために!」
「MOー!家賃のために!」
「その合言葉やめてー!?」


ルーシィは顔を真っ赤にしながら鞭を振るった。結局は、家賃のために。




――実は今回受けようとしていたS級クエストは紙一重の差で他のギルドに取られてしまったのだ。
そのため、@討伐系でA人様に迷惑をかけない場所、に限定した、最強チームお得意の暴れ放題やりたい放題の依頼を受けた。


すなわち、『畑で作物を食い荒らす巨大バッタの討伐』である。


危険は少ないが、バッタは数が多く面倒な上、報酬はそれほどよくはない。まあ前回の分と合わせれば1月分の家賃と生活費にはなるわ、とルーシィは言った。


――その時、なんとなく、だが。
S級に行きたくなかったナツは、こっそりホッとしていたのだった。




「――こらーっ!」


ルーシィの怒鳴り声がして、怒られる=自分だと思っているナツは一匹の喉元を蹴りあげ、足を下ろしたその踏み込みで手近な一匹を炎を纏わせた拳で殴り飛ばしながら「なんだー」と返事をする。


「ナツ、火が強いわよ!芝火災起こす気!?」
「グレイが居っから後で消させればいいだろ?」
「駄目!ちゃんと加減しなさーい!」
「……了解ー」


口を尖らせながらも逆らうと後が怖いので炎を加減する。
本当ならこんなバッタ、火竜の咆哮あたりで畑ごと燃やし尽くしたほうが早いのだが、ルーシィに「やったら許さない」と最初から釘を刺されたのだ。


そんな中で機嫌を損ねたらまた「チームやめるーっ」騒ぎになるだろう。
それだけは、いただけない。


もう、あんな思いはしたくないのだ。
あんな、不安になるような。
胸が張り裂けそうになるような思い。
あ、あとやっぱエルザのお仕置きも嫌だ無理だ超怖い。


それに。
仕方なく頷いたナツに、ルーシィが信じてるって言った。
笑ってくれた。
それなら、やってやるしかないだろう。


「ねぇナツ、なんかコイツらガジルに似てない?」


不意にルーシィは言った。
ちまちまと自分の周囲――それと、タウロスの護りの甘い部分からルーシィを狙う奴だけを燃やしていたナツは「おお、似て……る、か?」首を傾ぐ。


「ああもうなんか見てるだけでムカついてきたっ!」


叫んで、バッタの足を鞭で掬い取る。


「飛んでけガジル2号3号ー!」
「MOー!」とタウロスがバランスを崩したそれを怪力で砕く連携だ。
「誰がバニーじゃガジルのアホー!」
「MOー!」
「ガジルのこんちくしょー!」
「MOー!」
「……お前そんなにガジルにストレス溜まって……?」


こえー、と向かってくるバッタを燃やしながら身を震わせ。
それから、ナツは笑った。
ルーシィもナツと目が合えば白い歯を見せて、無邪気に笑い返す。


やっぱりルーシィとの仕事は最高だ。
こんな、ただ面倒臭いだけの仕事も楽しい。嬉しい。わくわくする。ドキドキする。


ルーシィも同じ気持ちならいいのに、とナツは思う。
いや、同じ気持ちでなくては困る。
これから先もずっとチームでいるために。


そうして。
日も暮れ始めたときには、辺りは静かになっていた。


「――……あー、疲れたー」


ルーシィは額の汗を拭い、キャミソールの胸元に指を入れてパタパタさせる。「MO〜」とその胸元をのぞき見しようとするタウロスにナツはさりげなく足払いを掛けて転ばせた。


辺りはもう赤く染まっている。
昼間から半日掛かりの仕事のおかげか、広大な農地はすっかり静かになって、虫の羽音一つしない。


「あい、どうやら今ので最後みたいだよ!」


ハッピーが陽気にナツの元に下りて来た。あとはバッタを追い立てながらそこかしこに生み付けられたタマゴを壊していたエルザたちと合流するだけだ。
ハッピーは「オイラちょっとエルザとグレイを召集してきます」と再び空に舞い上がった。このだだっ広い農地では空からのほうが早く捜せるのだ。
んー、と伸びをするルーシィにナツは駆け寄り。


「あ、ナツお疲……うわっ、ちょっとちょっとちょっと!」


いきなりぎゅーっとルーシィの柔らかい身体を抱きしめた。
力の加減はこの間覚えた。ルーシィが苦しくなく、かつナツがルーシィの存在を感じて安心できるくらいの力。


「MOー!貴様、ルーシィさんの乳に何してる!うらやましいぞ混ぜろ!」
「あははタウロス今日は一日ありがとうね&強制閉門ー」


ナツの腕の中から手を振るルーシィ。
タウロスが「ああ、ルーシィさ……」と手を伸ばしながら消えて。
ルーシィは嘆息した。


「ちょっと、ねぇ……どうしたの?」
「んー勝利の抱擁」
「……今汗臭いからやめてほしいんだけどなぁ」


とか言いながら、ルーシィは諦めたようにそっと背中に手を回してくれた。
そう、勝利の抱擁、だとナツは思った。
“仲間”だし、普通にするものだろう。


「……怪我は、ないよな?」
「はぁ?ないわよ。ってゆーかあんたがそーゆーこときくの珍しいわね」
「んー」


確かに、とナツは思った。
前はルーシィに危険な仕事させても平気だったのだ(むしろおとりとか潜入とか超便利だと思ってた)。


でもここ最近は駄目だ。


怪我するんじゃないか。どこか行くんじゃないか。俺を置いていくんじゃないか。


きっと、そんなことを考えたからだろう。
いつもなら絶対行きたがるS級に行きたくなかったのは。S級では今日みたいに護ってやれるかわからないから――と汗で少ししっとりしたルーシィの髪を撫でる。


「ナツ……?」


ずっとハッピーと2人でやってきたのに、ルーシィが居ないともう無理だと思うのだ。
基本的にがさつでめちゃくちゃなナツに嫌気もささず、ずっと傍に居くれる奴なんて――


「………」


いた。


“アイツ”がいた。


忘れてたのに。忘れようとしてたのに。
ルーシィと居ると、ふとしたことで思い出してしまう。


「ね、ねぇ、もういいでしょ?エルザたち来ちゃう……」
「んー」


見た目も違う。
匂いもこんなに違う。
体温は……近いか?


「……ナツ、聞いてるの?」
「んんー」


ぐりぐりと首筋に頭をこすりつける。こそばゆいのかルーシィは「はわわわ」と微妙な声を出して身もだえする。


「や、やめなさいよ、もう……!殴るわよっ?」
「んんんー」


ルーシィは腕を解いてナツの胸を押した。離れろ、と言いたいだろう。
ちらりと見たルーシィは、ちょっと困ったような顔をしていた。


なんだよ、とナツは唇をへの字に結ぶ。
“アイツ”だったらきっと「しょうがないわね」、って笑ってくれたのに――


「……“アイツ”?」
「あ」


しまった。
声に出てたらしい。
途端にルーシィの声色が変わる。


ナツはルーシィの探るような視線から目を逸らした。
ルーシィを抱きしめながら、別の“仲間”のことを考えてしまったことに場都が悪くて。


「“アイツ”って……エルザ?」
「………」


ルーシィの考えは違ったけれど、否定はしなかった。


ルーシィには言えない。
“アイツ”のことは言いたくない。知られたくない。


2年前のことを何も知らない、ルーシィにだけは。


「……ああ、そう」


ルーシィは力無くナツを押し退けた。この感覚はまずいかもしれない。
また泣かせたのだろうか。またチームやめるとか、言い出すのだろうか。
焦るばかりでどうすることも出来ず、固まるナツに。


「――悪かったわね」


ふぅ、とルーシィは息を吐いた。
それから顔を上げる。


「私はエルザとは違うから――」


……あれ?
泣いてない。
む、むしろ怒っ……


「殴るわよっ!」
「ぶべらっ!?」


男前な拳が飛んで来た。







>>【keen】
2頭の切れる,機敏な
4熱心な;熱望して;思って;熱中して
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)







>>【keen】
1《アイル・古》(死者に対する)哀歌,泣き悲しむこと
2(死者に対して)泣き叫ぶ[悲しむ]
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)












* * *
これがナツのプロローグ。
本当は戦闘シーンとか書くの大好きなんだが……あんまりねちっこく書くとまとまりがなくなると思ったからこれでもだいぶカットしたんだば。
やっぱりナツが今回もちょっと最低だなぁ。書いててイラッてなった。でもここからリサーナとの過去絡むのでもっとイラッとくるナツをお楽しみ下さい。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!