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Keen【N*L】
「ルーシィ、俺を信じろ」


って、ナツが言うから。
うん、信じるよって頷いた。


ナツのこと、信じるよ。
信じてるよ。


なんて。


笑って頷いたことを。


――今はすごく後悔してる。





Keen





「――そう……アンタを信じた結果がこれね」


ルーシィは嘆息した。
いつも明るいルーシィから発せられたとは思えないほど重苦しく。
冷たい風がルーシィの豊かな金色の髪を流す。
歴史ある美しい教会の前。そこに立つルーシィは一枚の絵画のように違和感なく溶けていた。


「ルーシィ……悪かったよ」
「ふうん。悪かったで済むと思うんだ?」
「………」


ナツは俯く。荘厳なまでに美しい風景もそこに嵌まるルーシィも直視できなかった。
謝ったところで許されないのはわかっていたのだ。讒言さえナツには許されていないのだ。
もう、取り返しがつかないところまで来てしまったのだから。


「アンタは私を傷つけたのよ?私の信頼を裏切って……」
「ルー……」
「――黙って。もう、アンタなんか信じない」


突き放すように、言って。
信じられないほど底冷えのする目で刺して。
ルーシィはナツに背を向けた。
もう顔も見たくない、と言わんばかりに。ナツという存在を拒絶せんばかりに。


そして。


「というわけでエルザ、お仕置きは黒羽の鎧でお願い」
「いや死ぬって!?」




――その日、ルーシィたち最強チームはとある依頼を受けた。
遺跡に住み着いた盗賊団の討伐である。
よくある依頼だが、盗賊には強力な魔導士が何人か居て、普通の軍では手に負えないというのだ。
さらに問題なのはその遺跡。かなり重要なものらしく、盗賊に何かされる前に取り戻したいとのこと。
時間もないし、と、ほとんど作戦もなしに真っ正面から乗り込むというナツを最初は止めていたルーシィだったが。


「ルーシィ、俺を信じろ」


その一言に、ルーシィがうっかり笑顔で頷いたのがまずかった。
闘いの中心になるであろう魔導士たちをナツとエルザの2人が、他の非魔導士はルーシィとグレイ(じゃんけんで負けた)が担当した一方的な殲滅戦が行われ――


最終的に盗賊団は壊滅。
そしてナツは。
依頼主の遺跡管理団体に絶対に触るなと言われていた遺跡のシンボルでもある歴史ある教会の一部を見事崩壊させたのだった。




「さあ、エルザお願い!」
「いや黒羽って一発で死ぬじゃねぇか死ぬ死ぬ死ぬ!?」
「ええい、往生際が悪いわよナツ!」


逃げようとするナツのマフラーを掴んでエルザの前に引きずり出す。
黒羽の鎧は一発の攻撃力を増加させる魔法の鎧だ。そんなものでお仕置きされたら流石の頑丈なナツでも命が危うい。


「悪かったって謝っただろ!?」
「謝って済めば評議員は必要ないのよ!」
「ルーシィ、あんまり怒ると血圧上がるよ」
「猫は黙ってて!」


今日はルーシィのサポートに回っていた無関係なハッピーにまで噛み付く勢いだ。
ハッピーは「あい!」と素直に口を閉じる。「チクショー!ハッピーの裏切り者ぉお!」とナツが叫ぼうと自分が1番可愛い。触らぬルーシィに祟りなし。実に賢い猫である。


「――まあまあルーシィ、そのくらいにしてやらないか」


そんな凶悪化したルーシィをやんわりと止めたのはエルザだった。
ナツの首にかかるルーシィの指を「ほら、ナツが死ぬぞ」とやけに優しく苦笑しながら抑える。


「……何よエルザ、ナツを庇うの?」


ルーシィは顔をしかめた。
エルザなら私の気持ちをわかってくれると思ったのに、と。
すると「いや……」とエルザは少し場都の悪い顔になって。


「私もナツのことは言えないのでな」
「え……?」


言われたルーシィが今更エルザ担当の方角を見ると。
絶対傷付けちゃいけないBY依頼主の歴史ある美しい石畳がえぐれていた。


「あーあ、これじゃあ報酬ほとんどなくなりそうだな」


グレイもやってきた。
ついでに「悪い。俺もやっちまった」と絶対壊しちゃいけないBY依頼主の歴史ある壁の一部に大穴が開いているのを示す。


「……………………」


それら残念なことになった歴史ある光景を前に。
呆然とするルーシィに。


「ルーシィ」


と、最強最悪チームの三人は並んで。


『すまん』


深々と頭を下げた。


ふ、と。


ルーシィの目の前は一瞬で真っ暗になって――




「ああああああああもういやぁああああああああああああ!?」


大絶叫がカウンターに轟いた。
場所は変わってフェアリーテイルの酒場。そこに、いつものカウンター席で頭を抱えるルーシィの姿があった。


「もう嫌もう嫌もう嫌!あんなチームやめてやるーっ!」
「まあまあルーシィったら」


と、いつものほわほわした笑顔でルーシィを宥めたのはミラジェーンだった。


「みんな悪気があったわけじゃないんだから」
「悪気があってやってたら絶対許しませんよ!てかやっぱりなくても許せなーい!」


結局、報酬一人頭25万Jだったはずが、ルーシィに支払われたのはたった2万J。本来なら1Jも貰えずに、逆に賠償金を取られるところだったので文句は言えない。
しかしこれでは家賃どころか今月の食費さえ危ういわ、とルーシィはほろほろと泣き崩れる。


「まあまあ、これでも飲んで」と苦笑したミラジェーンが水(無料)を差し出した。せめてジュースがよかった……とルーシィは思った。しかしミラジェーンも甘くはないのである。
仕方なく水(無味)をくぴくぴ飲んでいると、


「よぉルーシィ!次これ行こうぜ!」
「あい!」


ナツとハッピーがリクエストボードから新しい依頼書を持ってきた。
乗り物での移動が嫌いなナツにしては珍しい連続の仕事だ。もしかしたらナツなりに反省しているのかもしれない。
しかし。


「……もうアンタらとなんか行きたくないっ」


まだまだ絶賛むくれ中のルーシィは、プイ、とそっぽを向く。


「あ?んだよ、まだ怒ってんのか?」
「そーよっ」
「オイオイ、あんなのいつものことじゃねーか」


からから笑ってルーシィの肩に腕を乗せる。
その反省の色のない態度に、今回ばかりはカチンときた。
ルーシィはナツの手を乱暴に払いのけ、言った。


「私チームやめるっ!」


「ちょ……ルーシィ」とミラジェーンが止めたがルーシィの口はもう止まらなかった。


「その仕事も私1人で行くわ!ナツたちは3人でも最強だから他のS級にでも行けばいいのよ!」


言った瞬間。
ルーシィに後悔が押し寄せる。
しかし、もうナツたちに付き合うのも嫌気がさしたのは事実で。
一気に吐き出したことで気持ちがよかったのも事実で。


「……お前本気で言ってんのか」
「あ、ああそーよ。言ってるわよ」


ルーシィは不敵に笑ってみせる。
いつも空気を読まない青い猫でさえ、二人の間に漂いはじめた不穏な空気に「あい……」と唸ったまま黙り込んだ。
ナツは指で摘んだ依頼書をピラピラと揺らし、「はっ」と嘲りにも近い笑みを浮かべた。


「無理無理。ルーシィ1人じゃできねーって」
「できるわよ!」
「そーかー?今までだってほとんどハッピーとか誰かがいただろ?」
「……いたけど」
「ほらな。お前1人じゃ絶対無理だ」


絶対無理だ、と言う言葉がハンマーみたいにルーシィの頭を殴る。
一瞬、喉が詰まって。
でも、ここで黙ったら認めることになる。ルーシィは唇を噛み、膝の上で拳を固く作った。
そうして自らを叱咤し、必死に声を震わせないようにして。


「なん、で……決め付けるのよ」
「決め付けてねぇよ。ルーシィと組んで1番なげぇのは俺だからわかるだけだ」
「今からやってみなきゃわかんな」
「わかるって。ルーシィになんか絶対できねぇよ」


――ルーシィに“なんか”?


「ナツ、言い過ぎよ!」


流石のミラジェーンも止めに入る。俯いたルーシィの顔を覗き込んで「ルーシィ大丈……」言いかけて。
ミラジェーンは息を飲んだ。


「ま、この依頼はルーシィにやるから行きたきゃ行けよ」


反論がなかったことに気をよくしたのか、饒舌になっていたナツは辛辣に続ける。
ルーシィの様子にも気付かずに。


「どうせ1人じゃ無理だって気付いてすぐ泣いて戻って……」



バッチーン!



音が弾けた。
一際大きくざわめく酒場。
やがてルーシィたちの様子に気付き、徐々に静けさが伝染する。
しんと静まり返るギルドに、ルーシィの荒い息遣いだけ響いた。


ルーシィはゆっくり伏せていた顔を上げた。呆然としていたナツはギクリと身を揺する。
今更気付いたのだ。ミラジェーンも息を飲んだ、ルーシィの状況に。


「っ……」


ナツを殴ったことは何度もあった。蹴ったこともあった。
でも、初めてだ。
こんなふうに泣きながら、なんて。


じんじんと痺れる手の平を固く握る。
最後のあがきとばかりに、ルーシィは歪む視界でナツを睨んだ。


「――最低っ」


ぼろり、と涙が零れた瞬間。
ルーシィは駆け出した。


「ルーシィ!?」
「ルーシィ!」


ミラジェーンとハッピーの制止も振り切って。
とにかく今は誰も居ない何処かに行きたかった。
これ以上、醜態をさらしたくはなかった。
だからルーシィは振り返らずに、ただ、走った。







ルーシィはとぼとぼと行き場もなく湖の辺を歩いていた。
今は誰とも会いたくなかった。そうなるとこの場所しか思い浮かばなかったのだ。


「………」


ずず、と鼻をすする。
静寂に満ちた湖に、そんな小さな音は簡単に吸い込まれてしまう。
本当は顔を洗いたいが、涙で酷いことになった顔を見たくなくて、湖には近づけない。


――あの時。
自分からチームを抜けるなんて言ったくせに、ルーシィはナツの言葉にろくに言い返せなかった。
言い返せずに手を出した。
八つ当たり、だった。


言われていることがもっとも過ぎて。
ルーシィ自身もよくわかってて。


沸き上がったのは怒りより悔しさ。
自分の力が未熟なのは知ってるし、自分の実力があの最強チームの1番の荷物なのもわかってる。
それでも、ナツにだけは言われたくはなかった。


ナツは信じろって言う。
信じるって頷ける。


じゃあ逆は?


――絶対無理


――ルーシィなんかにできねぇよ


あんなこと言うなんて。
ナツがルーシィを信じてない証拠じゃないか。


他の誰が何と言おうと、1番最初にチームを組んだナツだけは、そんなこと言ってはいけないのに。
ナツだけはルーシィを認めてなくてはいけないのに。軽んじてはいけないのに。


「………っ」


もう、無理だ。
あのチームはやめるしかない。
ルーシィを信じてくれないような奴を、この先どうやって信じればいいかなんて、もう――


「――ルーシィ確保ぉっ!」
「!」


突然後ろから手首を掴まれた。
振り向けば桜色。どうやらナツが追い掛けて来たらしい。
もっと遠くまで走ればよかった、とルーシィは思った。とはいえこの体力馬鹿で鼻の利くナツから逃げきるのは難しいだろうが。


「は、放してよ……」
「嫌だ」
「放してっ」
「駄目だ」
「〜〜〜っ」


ルーシィは潤んだ目でキッとナツを睨みつけた。


「――痛いのよっ!」
「へ……?」
「手首折れる折れる折れるーっ!」
「わ、悪ぃっ……」


ルーシィの喚き声に驚き、ナツはぱっと手を放した。
「この馬鹿力っ」と罵って手首をさする。思った通り赤くなっていて、コイツ本当に女の子の扱いってもんがなってないわね、と思ってまた泣けてくる。


そうだ。ナツはどこまでも平等なのだ。
“仲間”としてルーシィだけを贔屓なんかしないし、思ったこともずばずば言う。
ああ。じゃあ、やっぱりさっきのは全部――


「お、おいルーシィ、顔ひでえことになってんぞ」
「……誰のせいよ」
「俺か!?」
「他に誰がいるのよ」


言ってまた涙を零す。
ナツはうっと一瞬言葉に詰まった。


「あ、あれはその……悪かったって」
「嘘よ、思ってないわ。アンタの謝罪には誠意ってもんがないもの」
「そうか……土下座が望みか」
「そこまでしろっつってないわよ!」


とナツの土下座を止めて。
そこで初めてルーシィはまじまじとナツの顔を見た。
左頬が見事なまでに腫れている。
思わずルーシィは噴き出しそうになった。


「ってゆーかアンタも相当ひどい顔ね」
「誰のせいだ」
「アンタのせいよ」
「む……言い返せねぇじゃねぇか」
「最初から言い返すんじゃないわよばーか」


ボロボロと涙を零しながらいつもの言い合いをするルーシィ。
端からみれば異様な光景でしかないだろう。まあ、こんなところ滅多に人は来ないのだが。


「………」


急に黙り込んだナツは唇をへの字に歪めてマフラーの端をルーシィの頬に伸ばした。
大切なはずのマフラーでルーシィの涙を乱暴に、でもなるべく優しくしてやろうとわかる不器用な手つきで拭う。


「……なあ、そろそろ泣くなよ。ルーシィに泣かれると弱ぇんだ」
「知ってるわよ。だから泣いてんのざまーみなさい」
「うわー……お前性格悪いな」
「うるさい」


ナツの手を力無く払い除ける。
こんなことされても惨めなだけだ。
ナツが側にいる限り涙は止まらないし、あの時言ったことも戻せない。


「ほっといてよ。もう――チームやめるんだから」


言った瞬間、ナツの表情が変わった。ふざけた顔から鋭く険しいそれへ。
睨むような眼差しでナツは言った。


「……やめんなよ」
「やだ。やめる」
「やめんなって」
「やめ」
「やめんな!」


一瞬。
何が起きたかわからなかった。
ルーシィは力強い腕に抱きすくめられていた。
甘美な温もりに身を委ねかけたのはほんの刹那。
次の瞬間には「放してよ!」とナツの腕を抜け出そうと腕の中で暴れ出す。


「嫌だ」


ナツはまるで拘束するようにルーシィを強く掻き抱いた。


「痛いの!放して!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!」
「なっ……」


子供みたいに喚き立てるナツに驚いたルーシィは暴れることを忘れた。
手の抵抗が止まれば、身体が反るくらい力強い抱擁が与えられる。


「ナ、ツ……?」


背骨折られるかも、と思ったルーシィは、仕方なくナツの背中に腕を回した。
力を加減しようとしているのか、小刻みに震える背中を宥めるように撫でてやる。
ってゆーか何で泣いてる私がこんなことしなきゃなんないのよ、とかもっともなことを考えながら。


「……さっきの、全部嘘だ」
「は?」


しばらくして、加減がわかってきたナツは、ルーシィの肩に顎を乗せて。
耳元で、言った。


「酒場で言ったのは嘘だ。ルーシィが強ぇの、1番知ってんのは俺だ」
「な、何それ……」
「ルーシィがチームやめるって言うからだろ」
「私のせいなの?」
「他に誰がいんだ」
「すぐもの壊すアンタのせい」
「……全部俺かよ」


拗ねたように呟きながらルーシィの後髪を撫でる。
ナツらしくないほど優しく、壊れものを扱うかのような手つき。
いつの間にか抱きしめ方も乱暴なものではなくて、しっかりした抱擁――まるで、小説なんかでよくある恋人にするそれに変わっていることに、ルーシィは気付いた。


「チームやめんなよ」
「なん、でよ」
「……俺が駄目になる」
「え?」
「ルーシィがいなきゃつまんねぇよ」


ルーシィが一緒じゃなきゃ仕事できねぇ。
ルーシィがいなきゃ絶対無理。
ルーシィが、ルーシィが。


子供みたいに並べ立てる。
拙いそれがなんだかおかしくて。
ふと、ルーシィは涙が止まっていることに気付いた。


「だから絶対、ルーシィはチームじゃなきゃ駄目だ」
「……なんで?」


そこまで言う理由を訊いてみた。
ナツは少し詰まって、結局、答えた。


「……仲間だから」
「ふうん」


――“仲間”?本当に?


「ルーシィ、俺を信じろよ」


ナツは言った。
いつもより、ちょっと不安げに。


「………」


ああ無理だ、とルーシィは思った。


信じられるわけない。
信じることなんかできない。


“仲間”、なんて。


こんなふうに優しく抱きしめられながら。
“仲間”とは絶対違う抱擁を受けながら。


信じられるわけないのに。


でも。


「――うん」


今は、微笑して頷いた。
頷いて、ナツをそっと抱き返した。
今はまだ、“仲間”として。









>>【keen】
1《文》[通例限定]鋭い,よく切れる
3<寒さ・風などが>身を切る[肌を刺す]ような;<光・音などが>強烈な;<言葉などが>辛辣な
(ジーニアス英和辞典より一部抜粋)









その後、ルーシィは自然にナツと手を繋いでギルドに戻った。
ナツの大きな手は力に加減こそつけているものの、強く縋り付いてくるようだった。放したらルーシィがまたチームを抜けるとか言い出すんじゃないかって思っているみたいだ。
そんなこと、もう絶対言わないのに。ルーシィは宥めるようにその手を握り返した。


「――ルーシィィィィィッ!」


出迎えた声にナツの手を放す。
青い猫が真っ直ぐルーシィの胸に飛びこんできた。
何となく予想はしていたのでルーシィはよろめくくらいで難無く抱き留める。


胸に顔を埋め、「オイラ、ルーシィとチームがいいよぉ……」と声を震わせるハッピー。「うん。……ごめんね」とルーシィは両腕で強く抱きしめてやった。
ハッピーはほんのり温かくて、なんだかまた泣けてきて、慌てて目元を拭った。
次に顔をあげると、エルザとグレイが待っていた。


「――ルーシィ、ミラから話は聞いたぞ」
「ご、ごめん。私、軽々しくチームやめるなんて……」


身勝手さを怒っているであろうエルザを直視できなくてルーシィは俯いた。腕の中のハッピーが「ルーシィは悪くないんだよ、エルザぁ」と怯えながらも庇うようなことを言ってくれた。


「ああ、いや、怒ってはないんだ」


エルザはふわりと苦笑した。


「私たちが不甲斐ないばかりに追い詰めてしまったんだろう。すまなかった、ルーシィ」
「エルザ……」
「わかってる」
「え?」
「ルーシィを泣かせたナツにはちゃんと黒羽の鎧で仕置きしたからな」
「あっれええええええ!?」


さっきまで横に居たはずのナツがズタボロになって転がっていた。文字通り瞬殺したのだろう。
ビビッたハッピーはルーシィの腕を飛び出してその後ろに隠れた。やっぱり自分の身が大事。賢い猫である。


ルーシィは「あはは……」と引き攣り笑い。
よかった。やめるって言ってもエルザ怒らなくて。
今更ながらルーシィの背中を冷えた汗が伝う。


「ほらよ、これ」


とグレイがルーシィの肩を叩いた。
ピラリと新しい依頼書を見せる。


「次はS級の魔物討伐にしようぜ」
「え……」
「危険はでけぇけど報酬もいいし、俺たちが暴れ回ってもちょっとは魔物のせいにできんだろ?」
「グレイ……」


ふにゅ、と顔を歪めた瞬間あわあわと慌てて、「な、泣くなルーシィ!頼むから!」とグレイ。
ルーシィの涙に弱いのはナツだけでもないらしい。
ルーシィは赤くなるのも構わずに目元を乱暴に拭って、


「ありがとうっ」


と地面を蹴って。
エルザの胸に飛び込んだ。


「そっちかよ!?」とグレイの呟きが聞こえたが無視。エルザの冷たい鎧に頬を押し付けると、エルザが「よしよし」とルーシィの背に腕を回して抱き留める。


「私たち最強チームならS級くらい余裕だろ、ルーシィ」
「……うん」
「今度はちゃんと家賃払えるぞ」
「う、うん〜っ」
「ほら、泣くな。グレイが困るぞ」


それは優しくて力強い、“仲間”としての抱擁。


これを見てナツは気付かないのかな?
気付いてくれないのかな?
――気付かれても、今は困るけど。


「っし、じゃあ早速行くか!」


早速復活したナツが言って。
「調子いいなテメーはよ」とグレイが毒突いて。
「よし」とエルザが頷いて。


「ルーシィも……行くだろ?」


ナツはいつかのように、ルーシィに手を差し出した。
やっぱりまだ少し不安げに。
だからルーシィは。


「――当たり前っ!」


ニッと笑った。
笑って、その手を取った。


「チームだもん!」











* * *
というわけで連載スタートォオオ。1話目にしてこの長さどうなの最高記録です。
これはもう全部完結まで決まっている話。プロットも最後まで作って、タイトルまで決めてあります。なので更新は早い……と思ったら大間違いだぞ!私気分屋。書きたくないときは書けないぜ。
次は“+”。これがルーシィのプロローグなら次がナツのプロローグです。

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