H【R*L】[F→G→]#
ああそろそろ行かなきゃ、とは思っていた。
へにょにょんと笑って、いつもみたいにあのコの元へ。
そうしないと、あの優しいコは気にするだろうから。
でも。
でもやっぱり。
あの唇の感触。預けられた身体の柔らかさ。甘い匂い。
その一つ一つを鮮明に思い出しては、躊躇った。
そんなふうに自分にしては珍しく、何日も何日も星霊界でうだうだしてたある日。
「――開け、獅子宮の扉!」
その“扉”は開かれてしまった。
H
「――さて、まずは理由を聞かせてもらおうかしら?」
ロキがそこに現れるなり主人であるルーシィは腕を組み、女王様然として問い詰めた。実に1週間ぶりのその迫力にロキはなんとなーく自ら床に正座してみる。そのほうが動きも制限されて、都合がいいというのもあった。
「ねぇロキ、なんで最近来なかったの?」
「………」
「答えて」
「………」
目の前に凛々しく立つルーシィをへにょにょんと見上げる。これで鞭でも持ってたら完璧だな――あ、あるじゃ〜ん持てばいいのにあはは〜……なんて、そんな余計なことばかり考えながら。
「……ロキ、聞いてるの?」
「うん」
ルーシィに笑顔で一つ頷いて、そのまま俯き苦笑に変える。
ちゃんと聞いてはいるけれど。
理由なんて言えるわけがない。
詰られたって。絶対。
――長い沈黙。
やがて。
「……怒ってる、の?」
「え?」
突然弱々しくなったルーシィの語調に、ロキは顔を上げた。
「私が2回もぶったから……」
「ち、違うよ!」
“ぶつ”、というあまりにもかわいらしい表現に一瞬噴き出しそうになったが――そんな可愛いモンじゃなかったよ、あの平手×2――ロキは懸命に否定する。
ルーシィは悪くない。それだけは確かに言える。むしろもっと殴ってほしかった――とか言ったらドン引きだろうから言わないが。
あの時殴ってもらわなかったら、きっとルーシィのほうが傷ついていたのだから。
「――でも」とルーシィは言う。「星霊に……大切な友達に手をあげるなんて私、サイテーだよね……」
「………」
きゅ、と小さな拳をつくり、華奢な肩を震わせるルーシィ。
そこにあるのは、星霊魔導士としてのどこまでも純粋な後悔。「ロキはずっとそういう目にあってきたって、知ってたのに……」と前オーナーのカレンの扱いのことを持ち出してまで自分を責める。
ああ、だからはやく来てやりたかったのに、とロキは思った。
星霊が大好きな優しい主。
星霊を“大切な友達”と呼んでくれる温かい主。
――本当に気にして欲しいのは、そういうことじゃないのに。
「――ねぇルーシィ」
本当は、“大切な友達”、というワードが少し苦かったが。
ロキはそんなことは露とも見せず真面目な顔で、言った。
「ツッコミは、暴力に入らないんだよ」
「………え?」
ほけ、とルーシィ。
「だってあれはいつものツッコミだろ?」
「そ、そう……かな?」
「うん。それでもってツッコミはすなわち愛なんだ。星霊魔法の本質と同じさ」
「そうなの……?」
「そうとも。ぶっ、ぶたれた僕が言うんだ」
途中ちょっと噴き出しかけながらの説得に。「信じて、ルーシィ」の一言を加えれば。
「――うん」
ルーシィはこくりと頷いた。
ロキの、信じて、というその言葉に、信じるよ、という強い意思で。
ロキは、うん、と満足げに微笑み――
「わかってくれたね?よーし、それじゃあ僕は」
「待たんかい」
スパン!
アデュー☆なポーズでいそいそと帰ろうとするロキの頭をはたくルーシィ。
ドスのきいた声はもう柄の悪いヤのつく職業のそれだ(闇ギルド)。
「……あっれー?ルーシィ、今のは暴力じゃ」
「ぶー。違いますー。ツッコミですー。すなわち愛ですー」
「くっ……開き直ったね?」
「ふふ、イイ女は済んだ過去のことはすぐ忘れるのよ」
「まだ30秒もたってないけど」
「残念。ほーらもう35秒」
「いや変わらないって」
ってゆーかなんで僕がツッコミにまわっているんだろうか?と思い、はっと気付く。
――この僕が会話の主導権を握られているっ!?
「さて、話はまだ途中よ」
「………」
ルーシィ(恐ろしいコッ……!)に顎で立てと促されて立ち上がれば。身長差のせいでいつものように見下ろす格好になる。
簡単に覆えそうな華奢な肢体。その背後には何かのお膳立てのように整ったベッド。
――あーホント、だから正座したのに。
「……ごめん。やっぱり今日は勘弁してくれないかな」
「何で」
「だから、僕、ルーシィといると――」
「また、ムラムラするとか言うのね?」
「……うん」
本当はもっと、ずっと汚い。愛、なんて呼べるかさえも微妙な歪んだ感情。
あの日から治まるどころか日に日に強くなって。そんな自分に罪悪感ばかりだ。
「ごめん」と謝ろうとすると。
ルーシィはそれを、そっと一差し指で塞いだ。
らしくない艶っぽい仕種に息を飲むロキ。しかし、はっとしたルーシィは慌ててその指を背に隠した。
それからはいつものルーシィで、口をもごもごとさせ始める。
「……んなの……、私だっ……るもん」
「え、なに?」
よく聞こえなくてきき返せば。
「だ、だから!」とルーシィは言った。
「私だって、ムラムラするもん、って言ったの!」
「………」
羞恥に顔を真っ赤に染めながらも、真っ向から飛んで来たとんでもない告白。
ああそうか、これが世界の拳か……とロキはわけのわからないことを考えて遠く、見えるはずのない故郷の星霊界を眺める。
そのまま、落ち着け、と自らに言い聞かせた。ムラムラすることくらい、ルーシィの年頃ならあるさあるある超あるマジある。
「あ、あの時いきなり……き、キス、されたから言えなかったけど」
「うん。がっついてすみません」
そこは心から謝るロキである。
ルーシィはまだ照れているのか、目を逸らしながら続ける。
「私だって、ロキに、さ、触ってほしいよ?」
「え……」
「……優しく、してほしいよ?」
「………」
…………え?ちょっと待って。
してほしいって、何を?ナニを?
大丈夫?ルーシィ、句読点の位置あってる?その言い方じゃいろいろ、なんかこう、駄目だよ?解釈が、ほら、こう、いいほうに変わるよ?僕の都合の。
暴れ狂う思考を笑顔のポーカーフェイスの下に必死で押さえ込もうとしたロキに。
「だから……もう一度」
つ、とルーシィは顔を上げた。
その熱っぽく潤んだ瞳に、ぞく、とした。
ヤバイ。ヤバイんだって。これ以上は。
ルーシィ、頼むから。
「き……」
やめてくれ。本当に。
好きなんだよ。大事にしたいんだよ。汚したくないんだよ。
なのに何で――
「キス、し」
て、を聞き終える前にはもう。
何かが、切れていた。
「ん……」
あの時と同じように唇を奪う。もちろんルーシィの望んだこと。抵抗なんてものはない。
もう一度、もう一度。
繰り返し、ルーシィの求めていた触れるだけの、優しいはずの、キスをしながら。
そっ、と豊かな乳房の形を、片手で円を描くようになぞった。
「……!?」
途端にルーシィは後ろに逃れようとする。
それはロキが許さなかった。いきなり深く、奥まで口を塞いで、細い腰を抱き寄せる。
そのまま右手は背中からタンクトップを捲くり上げ、中へ。初めて触れるわけじゃないのに、指に吸い付くような柔肌に胸がざわりとする。
腰を支えたまま、一気に後ろのベッドに身体を押し倒した。
「ロ、キ……?」
ベッドに膝を着いて、ルーシィを固定して。
――ああクソッ、邪魔だな。
舌打ちと共にサングラスはずしてジャケットを乱暴に脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。まったく、なんで服なんて。
「ロ……っ……」
今は少し黙らせたくて、乱雑にキス。逃げようとする頭を固定して、舌を何度も絡める。
しつこく続ければ、ルーシィから力が抜けた。乱れる息を調えようと、胸を上下させている間に。
「……ひぁっ……」
鎖骨の少し下を、強く吸う。ビクビクと華奢な身体が憐れなほど跳ねる。
それでも、止めない。
好きで好きで。大好きで。
ずっと、こうしたかった。触って、自分だけのものにしてやりたくて。
「……っ、キ……やっ」
捲りあげた白いタンクトップに下から手を入れて、柔らかい乳房を直に触る。手に収まりきらないそれを、今まで誰もこんなふうに触れたことがないだろう。
そんな考えは優越感すら、感じさせた。
そのまま、桃色の尖端に、吸い付くように唇を落とす。
「っ!」
ひっ、とルーシィの喉が引き攣るように鳴って。
――鳴って?だから、なんだって言うんだ。
左手で乳房を押し上げ、乱暴に揉んで。
どこもかしこも柔らかすぎる肌に落とすキスを、少しずつ下に下げながら白いふとももを撫でれば、思い出したかのように暴れようとする脚。
押さえ込んで、指先でなぞって。
閉じようとする内股を摩って、ビクッといちいち震えるのを愉しんで。
「……や、だよ……ねぇロキ…………ねぇ……?」
可愛い臍に指を滑らせる。
それから、その下に。
ショートパンツの中に手を差し入れた。
瞬間。
「――……っ、レオーーーーー!」
「!」
それは、特別な名前。
ロキの本質――主人と契約を交わした星霊の。
大切な契約者の声に、ロキの中の最後の理性が反応した。
手を止め、顔を上げて。
そしてロキは、漸く状況を理解した。
「……っふ……く……」
ルーシィは、泣いていた。
子供みたいに、しゃくり上げ。顔を手で覆って。がたがたと震えながら。
「ル……」
さあ、と音を立てて血の気が引いた。逃げるように身体をルーシィの上から退けて――初めて気付く。
ルーシィはひどい状態だった。髪は乱れ、服は脱がされかけ、犯されかけた後そのもの。
普段なら健康的に晒されている素肌が、今、この時ばかりは痛々しく見える。
そんなふうにしたのは、他でもない。
“大切な友達”の星霊レオ――ロキだ。
「……っう……」
やがてゆっくりと起き上がったルーシィは、震える手でかろうじて乳房の先を隠していたタンクトップを腹まで引き下げた。
その時。乱れた髪の隙間から、ぼろり、と大粒の水滴が零れたのをロキは見逃さない。
「………」
それだけで、謝罪の声もでなくなる。
もしこの後ルーシィが顔を上げて、怯えた目をしていたら。
ロキを拒絶する目をしていたら。
されて当たり前だと頭でわかっていても、認めたくなかった。見たくなかった。
言い訳して、今すぐ星霊界に逃げ帰りたい。なのに、身体は凍り付く。
「……っふ……」
ぐず、とルーシィは鼻をすする。
手の甲で顔を拭う。
そして、ゆっくり、その面を恐怖で固まるロキに曝した。
「……っ……」
ルーシィの目には、涙。
しかし。
「……の……」
その瞳に宿るのは――怒りだった。
「ロキのぉっ……」
どこまでも純粋なそれでもって。
ルーシィは、どこまでも真っ直ぐロキを睨んで。
「えっちーー!」
「……“えっ、ち”?」
あまりにもかわいらしい表現に、気ぃ抜けるなぁ、とか思いながら。
ロキは突き飛ばされるまま、ベッドから転がり落ちた。
>>【H】
1英語アルファベットの第8字
(ジーニアス英和辞典第3版より一部抜粋)
「――ちょっと泣くからそこで待ってなさい」
と息を乱した女王様はロキにものすごく気まずい厳命をしたかと思うと、ベッドで膝を抱えてしまった。
白い肩を上下させ、声を押し殺してこのまま泣き切るつもりのようだ。こうなると逆に泣き切った後の“ツッコミ”が怖い。
いつもなら肩を抱き寄せて慰めるはずのロキだが、流石に今日、このタイミングでは逆に泣かせる結果になる。
大人しくルーシィが泣き止むのを待つ間。
自主的に正座をしながらロキはひたすら貧乏揺すり。
そして。
「………」
ロキはルーシィにあんなことをして泣かせた罪悪感よりも、もっと深刻で切実な事態に直面していた。
チラリと顔を上げる。まだまだルーシィは泣き続けている。
でも、もうそろそろ限界だ。
「〜〜あ、あの……ごめんルーシィ」
「……何」
「す、すぐ戻るから一度星霊界に……」
「駄目っ!逃げるつもりでしょ!?」
真っ赤な泣き顔で、くわっ、と睨まれたロキは。
あう、と一度言葉に詰まり。
「じゃ、じゃあ――」
困ったように顔を歪めて。
せめて。
どうか。
お願いだから。
何も聞かずに。
「トイレ貸して下さい」
* * *
R-15“くさい”です。誰が何と言おうとR-15“っぽいもの”です。ぷっつんしたろきおかくのがね、たのしかったの。あーえっちのぶんさいがほしいね。あははもーにどとやらねーわごめん。
後半キッツイので前半遊びすぎましたね。ガラ●の仮面とか、うへへ。大好き。
お約束の“+”を挟んで次回に続きますがよろしいか。お願いみんな引かずについてきてー……。
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