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「かわいそうに」
石棺に横たわりガラスの蓋を被せられた少年は虚ろな瞳で彼を見上げた。
ガラス一枚を隔てて彼の手は赤みを無くした頬を撫でる。
(ただ、愛しげに愛しげに)

棺の中の彼の臓器は停止はしていない。
トクトクと今も彼に血液を送り続ける心臓。
酸素を会得する肺。
どれもが正常。欠陥などない。
「だがお前はもう起き上がることも出来ない。満足に食事さえとれない」
白い指が磨かれたガラスを滑り、調度心臓の辺りで止まる。
(そこにあるのは肉塊かそれとも)

「ここが欠けているから」
心臓の深淵。
生物として必要な魂。精神。
「言葉だけで人を殺せるとはよく言ったものだ」
言葉は一文字一文字がナイフとなり彼の心を確実に抉っていった。
ぐしゃり、ぐしゃ
飛び散る筈の鮮血は誰にも見えないから躊躇などしない。
(だって見えないのだもの。なにを感じれば良いと言うの?)

ぐしゃ、ぐしゃ
なんと無惨に惨殺されたものか。
だが


「大丈夫だ」
俺がお前を死なせはしない。
お前の精神を踏み潰したものを許しはしない。
「少しだけ待っててくれればいい」
石棺のガラスの縁を一撫ですれば石棺はたちまち闇に。
棺という支えを失いバランスを崩した十代の身体をそっと支えてやる。
温かな躯。
その中にある精神はどれだけ冷たいものか。
もうこれ以上魂が冷えないように。
(もうこれ以上彼が外界に曝されないように)

闇の中に彼を寝かせればまるでベッドのように優しい闇が体躯を包む。
そして彼は立つ。その金色の瞳を鋭利に瞬かせて。
自分の身を守護する硬い鎧にを身に付けて。
もう、そこに彼の姿はない。
温かな笑顔は冷たい無表情。
明るい瞳は鋭利な瞳。

もう、そこには落ちこぼれ生徒は居ない。
彼が居た場所には全てを破壊しつくし全てを統べる覇者たる王。
(彼は彼だったのか彼が彼だったのか)

王は闇に近づくと彼の頬を撫で、
(ただ愛しげに、愛しげに)




そして 、






ああああ ああああ、あああ、ああああああ













「眠れ我が愛し子」
何も見ず何も聞かず何も感じず
ただ闇だけを想え。

五感全て暗闇に身を任せて。


頷いてくれなくとも
笑いかけてくれずとも
ただお前にやすらかな眠りを




(王の手のひらで佇む二つの塊は)






あきゅろす。
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