story キッチン@(ナギ→主←シン) 「ナギさーん。まだかかりそうですかあ〜」 「ああ。もう少しだ。先に部屋に行ってていいぞ」 「え、先に部屋に行ってるなんて悪いです。あそこは、ナギさんの部屋ですし、それに…」 キッチンで作業をしているので、食堂から話しかける○○の話声は、最後の方が聞こえなかった。まあいいか。大したことは、話ししてないだろう。 いつも、オレがキッチンで作業してると横にきて、ニコニコしながら、嬉しそうにしゃべっている。 今も似たような感じだ。 食事も終わって、明日の仕込みをもう少しで終わらせる予定が、あれもこれも思いついちまって、すっかり遅くなってしまった。 ○○が手伝える所は、もう終わったから先に部屋に行けばいいのに、変な所で気を使う。律儀なやつ。 オレの部屋に、○○が転がりこんできて、まだ一カ月もたってない。 明るくて、ころころ笑う○○は、あっという間にシリウスに溶け込んだようだ。 「……だったんですよ〜」 「ああ。」 まったく聞いてなかった。 まあ、話す内容云々よりこうやって 犬みたいにオレにつきまとってる姿が…可愛い…。 「ナギさーん。何か笑ってませんか?」 「笑ってねー」 食堂の、一番入口に近い席に座れば、キッチンとの距離はとても近い。 その、一番近い席に腰かけて テーブルに肘をついてこっちをみている○○。 やりづらい。 気になって、集中できねえ。 もちろん、注目されてるとやりづらいのだが、そういういみではなく ○○の事が最近、とても気になっている。 …… ふう。やっと、仕込みが終わった。 伸びをして、ふと食堂の方が視界に入る。 ああ。そういえばあいつまだ いたんだっけ。 気になっていたといいつつ いつの間にか集中してて、忘れてた。 「おい。おわったぞ」 ○○に近づいてみる。 ん? テーブルに突っ伏して…寝てるのか? はあ。 だから、先に部屋へ行けといったのに。 「おい、起きろ。部屋へ帰るぞ。こんな所で寝るな。風邪を引く」 右手を持ち上げて、無理やりたたせようとするが まったく目を開けず、ふにゃふにゃと眠っている。 「うん。わかってます…だけど、もうちょっとだけ…ここで寝かせてください…むにゃ。眠くて…」 ああ。 こいつは、一回寝るとなかなか起きないんだった。 子どもみたいで、手がかかる。 一応、ゆすってみた。 起きないな。 仕方なく○○を抱きかかえて 部屋まで連れて行くことにした。 よっと。 華奢で…だけどふにゃふにゃした、やわらかい女の体。 抱きかかえるだけで、ちょっとドキドキしちまう。 「!」 首に抱きついてきやがった。 胸があたって、さらにドキドキする。 あー。こいつが寝ててよかった。 きっと、今顔が赤い。 抱きかかえて、食堂を出る。 一度、寒空の甲板に出て そこからさらに下の階へ伸びる階段を降りると その先は 船室へとつながっている。 …今日は、冷えるな。 甲板に一度出ると、冷たい風が頬をさわって 火照った顔が、冷やされる気がした。 「んん」 気温の差で、目が覚めたのか? 丁度、船室へ続く階段を降りる手前で、○○の目がパチッとひらいた。 しばらく、オレをきょとんとした顔でみている。 抱きかかえたまま、二人で数秒見つめあっていると 「わわ!な、ナギさん!なんで?やだ〜!おろして!」 突然○○が暴れだした。 「コラ。暴れるな!あぶな…」 「うわ〜〜」「きゃーー!」 ドシーン!! オレは階段で足を滑らせて、落ちてしまった。 ○○をかばうように、○○の下に落ちて体のあちこちがいたい。 「きゃー!ナギさん!!大丈夫ですか!!」 「早く上からどけ」 「ご、ごめんなさい〜」 「怪我なかったか?」 「…はい。ナギさんが下敷きになってくださったので」 「そうか。よかった」 オレは先に立ち上がり、○○に手を出す。 「たてるか?」 「はい。すみません」 オレの手に 細くて華奢な手が 握り返してきて さっきの抱いた感じを思い出して、まだ顔が赤くなった。 隠すために、目線をそらしながら 力で○○を引っ張り、立たせた。 「あ、ありがとうございます」 「そもそも、○○があんなところで、寝るのが悪いんだ」 「すみません」 「先に部屋へいけといったろう」 「そうですね」 申しわけなさそうに、うつむく○○。 いや、別にあそこで寝ててもいいんだ。 こんな時間も 正直悪くない。 「おい、ナギ。ホットワインもう一杯頼む」 「!?」 誰もいないと、油断してた! ニヤニヤ笑ったシンが 階段の上から ひょっこり顔をのぞかせて、マグカップをちらちら見せていた。 あいつ、今日は不寝番だったか。 今の全部見て…くそ。 「○○先に、部屋へ行け」 ○○の顔を見ずに、言い捨てると階段を2段ぐらい飛ばして登り、シンからカップを奪う。 シンの野郎! 背中の向こうで、ニヤニヤしているシンの姿を 何度も頭に浮かぶのを書き消しながら オレは大股でキッチンに逆戻りした。 途中で、立ち止まり振り返る。 「シン!ちょっかい出すなよ」 「さあな」 「忠告だ」 「○○がいつ、ナギのものになったんだ?」 「シンのものでもないだろう」 「ふん。そうムキになるな」 腕を組みながら 壁にもたれてこっちを見るシン。 …あいつが、一番危ない。 「くくっ。シナモン多めで頼む。○○の世話係さん」 ふん。馬鹿にしやがって。 おしまい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |