story 大好きな人@ 港から船が出港する。 それは商業船に見せかけた 海賊船シリウス号。 航海士シンは 風を読み 天気を予想し ありとあらゆる所に気を使い 沖に出るまでは座礁しないようにしばらくは 舵から離れられない。 食堂ではナギが トワとハヤテに手伝ってもらいながら 食料を倉庫に片付ける作業に大忙しだった。 そこへ 食堂にソウシが入ってきた。 「○○ちゃんここにいる?トワでもいいんだけど。 薬の整理を手伝って欲しいんだけど・・・」 「○○さんは ここには一度も来ていませんよ。ソウシ先生の所にいるのかと思いました。 僕、これが終わったら手伝いにいきますよ」 「トワありがとう。ナギ、あとでトワを借りるよ」 「かまいませんけど。○○、ドクターの所にもいないって・・・どこにいったんだ」 「どっかで寝てんじゃね?」 その時、ハヤテ意外に不吉なものがよぎった。 「ぼ、僕ちょっと ○○さんを捜しに行ってきます!」 「わたしも捜してみるよ」 「ハヤテ、お前 この鍋沸騰したら火をとめろ。オレもいってくる」 「えっ?ナギ兄?いいけど?どうしたんだよー。みんな慌ててさ」 三人は 手分けして船じゅうを捜して回った。 そのころ、 シリウス号が出航した後の港には 挙動不審な背の低い男の子がいた。 くたくたの色あせた黒というよりグレーに近いズボンに 黄ばんだ たるんとしたブラウス、 深々とかぶったエンジ色のカウボーイハット 帽子のおかげで髪型どころか顔さえよく見えない。 腰には短剣 首には大判のストールをぐるぐるに巻いた ○○だった。 「これで完璧ね!」 港のすぐそばにある 船のチケット売り場に、わざとらしく大股で歩いて行くと ドアをバン!と開ける。 その音に 狭いチケット売り場の店内にいた ガラの悪い4〜5人の男性客は ちらりと○○のほうを見た。 が すぐに新聞を読んだり 隣の男と話をつづけたり 先ほどの行動に戻るのだった。 ○○は視線にはお構いなしで カウンターに歩いてゆき 悪ぶってよりかかる。 声を低くして 「お・・・ん゛ん゛・・・オヤジ!チケット一枚」 ぶっきらぼうに 金貨を置く。 チケット売り場のよく太った ハンチングにサスペンダーの男は 煙草をくわえながら くしゃくしゃになった雑誌を熱心に読んでいる。 ○○の方を見ずに 金貨だけ確認すると 雑誌から目を離さず 金貨を片手で奪うようにとり すぐにポケットにしまいこんだ。 そして無言でチケットを1枚置く。 「ありがと。船はいつ出るんだ?」 「2時間後だ」 男は やはり○○のほうを見ずに くしゃくしゃになった雑誌に目をやりながら 答えたのだった。 ○○はとりあえず、煙草の匂いの充満する 窓から入る外の明るさだけが頼りの 薄暗い 息苦しい店内を出た。 外は風が気持ちいい 秋晴れの昼下がり。 けれど、○○の心は逆の どんよりした気持ちでいっぱいだった。 船が出港できるように 整備された海岸沿いに腰かけ 足を海のほうに放り出し 遠い地平線を眺める。 そして、もやもやと今までの事を思い出すのだった。 つづく [*前へ][次へ#] [戻る] |