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篝火(高新←攘夷)
あう様リク高新前提の攘夷時代タイムスリップ
篝火(高新)



終わりがない。この戦いには、この復讐には。

先生が護ろうとした侍の国を失うのが、先生が遺した仲間を失うことが怖くて苦しくて刀をただひたすらに振るってきた。銀時も、ヅラもそうだ。だが、ヤツらと俺とはどこか違うらしい。
俺たちが攘夷戦争に参加してそこそこ名も知れてきたのはつい最近、それも戦争も終盤に近づいてきていた頃だ。この頃には、天人の最新兵器や何やらしらねーがビームだなんだと刀でどんぱちやってた俺たちをあっさりと打ち抜いていく始末。この戦争の結果はハナっから見えてんだ。倒れていく仲間、刀を手放す仲間・・・珍しい事じゃねぇ。そう俺は思っていたが、ヤツらは嘆き、悲しみ立ち尽くすこともあった。

弱くて脆い。そんなんで戦場は生き抜けやしねぇ、諦めて剣を握れなくなれば仕舞いだ。憎い、憎くて堪らねぇ。俺たちから先生を奪ったこの世界が、それだけで十分じゃねーか。そう思った
それはただの破壊に過ぎないとヅラに言われようが、それでもこの刀をアイツらに突き立てないと気が済まねぇんだよ。なぁ、先生。この世界を憎まずにアンタを忘れろと言うのなら、アンタの教えに俺は背く。









「チッ、離れちまったか」
天人を斬り捨てて血路を開いてなんとか雑木林に逃れたものの、銀時たちの隊とは離れちまった。アイツらならしぶとく生きてるだろうが、今は返り血で若干視界が悪い。この近くには確か滝から流れる小川があった筈だ。そこで血は洗い流すか
乱雑に生えている木々を掻き分けて進んでいると、足元に転がる何かを踏んだ気がした。死体か・・・?そう思って足元を見れば、平凡な眼鏡を掛けて戦場には似つかわしくない無防備な袴姿で俺とそう齢も変わらないだろう坊主がすやすやと寝こけていた。

「・・・おい、」
ゲシゲシと数度踏んでも返事はない。ならば、と鼻を摘んで呼吸を遮ってやるも、今度はふにゃふにゃと何やら怒りながら口を開いて呼吸し始めた。
「・・・なんだコイツ」
思わずふっ、と笑ってしまった自分が居た。こんなに無防備にアイツらの前以外で笑ったことはない。その妙な焦りと苛立ちを隠すように、坊主の鼻を摘んだまま無防備に開かれた口を覆うように唇を重ねて呼吸を奪う。と
「―んむ!!!?」
ぱちり、と坊主の茶色いでかい目が見開かれて俺の胸板をドンドンと叩いて抗議する。それも無視して奥に引っ込もうとする舌を捕まえてじゅるっと啜ってやると信じられないという目で俺を見たあとに、何故か一瞬固まってから耳まで真っ赤になっていた。好きモンか・・・?ひとまず飽きて唇を離して口端を拭うと、呼吸を整えた眼鏡が言葉を搾り出すように叫んだ
「た、高杉・・・さん?高杉さんですよね!なんでそんな姿なんですか!?あれ、なんで片眼じゃないんですか?あれ、なんか印象が違うというか若く見えるというか・・・」
「・・・お前、どこから来た。見たところどこの隊にも入っちゃいないだろう。ましてや鬼兵隊の一員でもねぇお前が、なんで俺の名をしってる」
尻尾があったならブンブン振って飛びついて来ようとする眼鏡の頭を片手で掴んで制する。
「ぼ、僕は志村新八ですけど・・・今更何言ってんですか。僕のこと・・・忘れちゃったんですか?鬼兵隊のことは覚えてるのに」
どこか傷付いたようにしょんぼりと俯いている眼鏡の言葉が引っかかる。俺はコイツをしらないのに、何故コイツは俺の名も鬼兵隊のこともしっている
「オイ、お前は俺の何をしってんだ。どこから来た」
「・・・強いて言うなら、何もしらないって言った方が正しいんですけどね。アンタも、銀さんについても僕は過去を何もしらない。触れて欲しくない傷のように、過去を今の顔で覆い隠すアンタらを見てると、悔しくて腹が立って、寂しくて・・・とか思ってたら、なんでかこんなところで倒れてたんですよ」
そう一気に言えば、今度は観察するように俺の着物をまじまじと見てくる眼鏡。
「・・・何だよ」
「え、いや・・・いつもの派手な着物よりこっちの方が格好いいなとか別に思ってませんけど、なんでそんなかっこ
言いかけた眼鏡の頭を掴んで地面に押し付けるようにして倒す。眼鏡がつっ立っていた頭の部分を通り抜けて木の幹には天人製だろう太い鉄の矢が突き刺さっていた。
「ぶはっ、なにす
「行くぞ」
そのまま眼鏡の襟首をひっ掴んで担ぐようにして入り組んだ林の中で敵を撒きながら拠点の隠れ家に戻った。戻ったところで、また眼鏡が叫んだ。今度は銀時とヅラを見た瞬間に
「ぎ、銀さん!?桂さん!!」
驚く2人に知り合いかと聞けば、全く覚えはないという。
「知り合いではないが・・・しかし、このままこの子をここから出しておく訳にもいくまい。ここはひとつ、人手も足りないしここで色々と手伝って貰うことにしてはどうだ」
眼鏡を摘みだそうとした俺をヅラが引き止め、何故か銀時もそれに同意して暫く手伝いをすることになった眼鏡は何かに気付いた顔をしたあと、真っ青になってブツブツと何か言いながら炊事をしていた。
「えらい、えぇ匂いがしちょるのう!晩飯がかぁ!?」
そんな眼鏡をまた叫ばせたのは、炊事場に匂いに引き寄せられた坂本だった。
「さ、坂本さんまで!?しかもサングラスしてないし、この人もなんかいつもと違って若いし銀さん真っ白で白夜叉っぽいしホントなんなんですか!?ドッキリ!?ドッキリですよね!?銀さん達の過去に来ちゃったとかそんな馬鹿なことないですよね!!」
坂本の肩を掴んで前後にガクガクと泡を吹くまで揺するコイツは強いのか弱いのかとただ傍観していた俺に、眼鏡は坂本から手を放して俺に向かってくるりと振り向いた。
「・・・なに泣いてんだ」
見れば、眼鏡のでかい目玉からはボロボロと大粒の涙がとめどなく溢れ出ていた。
「も、戻れなかったら・・・も、僕・・・みんなに会えなくて、姉上にも・・・う、う・・・、高杉さんとあんなことしたからばちが当たったんだぁ」
「なに、こんないたいけな新八くんにあんなことやこんなことをしたのか高杉!?このショタコンめ!人妻好きとしては燃えるから新八くん、今度は俺と良いことをしよう」
眼鏡を抱きしめたヅラに肘鉄を食らわして気絶させれば、復活した坂本がいつの間にか眼鏡の両手を握りしめて求婚し始めたのを足払いを食らわせて床に沈めたが、その後ろでは
「・・・美味ぇ」
銀時は眼鏡の作った煮物を摘んで目を輝かせていた。チッ、どいつもコイツもとち狂いやがって・・・。
「これ、お前が作ったのか?」
不思議そうに問いかける銀時に眼鏡はこくりと頷いた。へぇ、とニヤリと笑って尚も鍋に手を伸ばそうとする銀時に眼鏡は慌ててその腕を掴んで止める
「ダメですよ銀さん、皆の分無くなっちゃいますから!」
その様に、当然だというように銀時の手首を掴んだ眼鏡に、眼を覚ましたヅラと坂本が目を見張る。最近はただでさえ激戦続きでピリピリとして警戒心剥き出しだった銀時は面識のない坊主に容易に手首なんて掴ませない筈だ。なのに、それをあの眼鏡には許した
「あー、わりーな。美味くてつい、晩飯もうすぐだろ?腹減って死にそう」
そんなことを言いながら、銀時はどこか愛し気に終始眼鏡を見つめていた。そんなことも気になり、なにかあると夜、便所と抜ける銀時を捕まえてヅラと坂本と門前の石段に腰を下ろして話をした。

「オイ、銀時…お前、あの眼鏡と逢ったことあんだろ」
「…あぁ、多分な。まぁ、今会えるなんて思ってなかった。夢の中でたまに見る、俺の隣で笑ってるヤツらの中にあの眼鏡も、新八も居てよ。もし、この戦いで生き残れたら、その先の未来でアイツと…アイツらと会えるのかも、なんて考えちまってたんだよ。もしかしたら、アイツ…未来から来たのかもな」
そんな突拍子もない話を誰が信じるかと、掴みかかろうとした俺の前にヅラが先に勢い良く立ち上がって銀時の肩をバシバシと叩いた
「お前もか銀時!!よかった、俺だけではなかったのだな、新八くんと逢ったことがあるような気がしたのは!」
いや、嘘吐けよと口を開く間もなく坂本もうんうんと深く頷いた
「いやぁ、実はわしもなんじゃ。新七くんとはどうも、初めて逢った気がせんきに」
「新七とか言う時点でもう初対面だろ」
俺が口を挟んだ瞬間、3人がギロリと睨んできた
「そういやおめー、新八にナニしちゃったんだっけー?」
「あんなことやそんなことをしたらしいな」
「アイツが馬鹿みてーに口開けてたから塞いだだけだ」
そう吐き捨てて俺は部屋に戻ったが、アイツらはまだ何か叫んでいた。たく、たかだか眼鏡の口塞いだだけでうるせーな…それに、可笑しいのはアイツらだ。その辺に落ちてたヤツに逢ったことがあるだのないだの嘘臭ぇ。
眼鏡の隣に寝転がれば、ヅラの羽織を掛けて貰っていた眼鏡がもぞもぞと動いてこちらを見つめていた。
「…寝れねぇのか、眼鏡」
「いや、まぁ…眼鏡じゃなくて新八ですけど。銀さんも、やっぱり今とは感じが違うし…みんな、僕のしってる人たちじゃない、ですから。その、寂しいというか…変ですよね、でも…なんて言うか、同じ人なのにしらない人みたいで」
寂し気な顔でそう零しながら困ったように微笑う眼鏡に、俺は上体を起こして耳元で
「早く寝ちまえ、じゃねーとまた呼吸困難にするぜ」
「…!!!?」
そう言えば、俺から2畳程後ろにすっ跳んで小さくなっていたが俺が寝る体勢に入ったところで俺の背中に掴って寝息を立てていたから無防備なモンだ。
どうしてか、その頬を指先で撫でた俺の顔は自然と笑みを浮かべていた。もう聞いてはいないことをしっていて、俺はそっと話しかけていた。
「…お前がこの先で俺たちと出会えてんなら、また会いにくんなら。この修羅みてーな道でも、歩いた先に…まだ何かあるならよ。もう少し…


この常闇から、その先まで…歩いてける気がする







朝の光が瞼を越えて眼球に直接当たるような眩しさに瞼を持ち上げれば、背中にあった温かさは消えていた。炊事場にも、門にも、部屋にだって眼鏡の姿は無くなっていた。銀時達に聞いても、寝ぼけてるのかとかそんなヤツ見ていないだとかすっとぼけた答えしか返って来なかった。…ありゃあ、夢、だったのか?そんな考えに至っていれば、銀時たちの騒ぐ声が聞こえた
「それは俺んだァァァ!!」
「違う、こんなに美味い煮物は俺のに決まっている!」
煮物…?煮物そっちのけで掴み合いをしている馬鹿どもを尻目に、器に残された煮物をひとつ口に含めば、アイツが作った煮物の味そのものだった。このむさい男所帯で、あんな味を出せるヤツは居ない。間違いなく、眼鏡がここに存在した証拠だった。
「あ、高杉てめ、なに勝手に全部食って…って、お前どこ行くんだ!オイ!
銀時が何か叫んでいる気がしたが、構ってる場合じゃねぇ。どこに行きやがったんだあの眼鏡は

そのあと、アイツを踏んづけた雑木林も探したが眼鏡の姿はどこにもなく、見回っていた敵に追い回されていたところを追い掛けてきた銀時が追い返した。
「…たく、あんな雑魚相手になにしてんだてめ
「…」
「なに探してんのかしらねーが、無くしちまったモンは仕方ねーだろ
「諦めんのか?失くしたから、奪われたからって諦められんのか?先生も…アイツも、
「…アイツが誰だかはしらねーよ。だがよ、俺はまだ失くしたとは思ってねぇ。約束が…あるからな。お前はどうなんだ?そいつと、約束とかねーのかよ」
「…るく、」
「あぁ?」
「…なんでもねーよ、戻るぞ。さっさとしろ」
「はぁあああ!?お前な、人がどれだけ探し回ったと

銀時の言葉を背に歩き出す










この暗がりの常闇ん中で、見えたその篝火を頼りに―


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