褪ロラ 12 「おい、次が来る前にとっとと移動しようぜ。もっとマシな場所に」 「……そうだな。待ってろ、片付ける」 ロヴィの手によって浄化された”影”は、微細な塵となって闇に融けていく。 ふと気付くと、いつの間にかアキくんの体を取り巻いていた黒い靄も消えていた。あれはいったい何だったのだろう。 「ロヴィ、包帯巻いて」 「ああ、わかっ……」 「俺がやる」 エルドさんがロヴィの手から包帯を奪い取ると、手早くアキくんの手首に巻き始めた。 アキくんは眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をしながらも、大人しくされるままになっていた。 「ここから一番近い、戦えそうな場所は?」 「一昨日の廃ビル。シャロンが死……」 「それ以外」 「……ここからじゃ、どこも少し遠いよ」 「今夜だけでも凌げればいいんだ。人目に付きにくい広い場所、ないのかよ」 「……じゃあそこの市民公園とか、広くて誰もいないと思う。何もないから見通しが良すぎてシャロンは使ってなかったけど」 アキくんの手当を終えて、エルドさんは僕とロヴィを見た。 「お前らも、そういうことでいいか?」 「うん」 「…………」 いつもなら僕よりも早く返ってくるはずの声が、なかなか聞こえずにいた。 振り返るとロヴィは、闇の向こうをじっと見詰めていた。何かに魅入られたような色をして、銀の瞳が不安定に揺れている。 「ロヴィ?」 僕は思わずパーカーの袖口を引っ張って、彼の左腕を引き寄せた。抱え込むようにして体ごと揺すると、漸くロヴィは僕を視界に入れて、びっくりしたように数度瞬いた。 「……あ、ああ。悪い、ぼーっとしてた。行こうぜ」 へらりと笑ったロヴィは、いつも通りの顔をしている、ように見えた。 けれどもう、僕は僕が信じるに足りないことを知っている。 黒いパーカーの背中を見て、少し考えてみた。 何一つ、これまでのように見落としたくはなかった。だから、僕は僕を疑うことから始めようと思う。考えすぎでも、勘繰りすぎていたとしても構わない。気付かないことよりは、いくらかましだ。 ロヴィには、僕に言わない何かがある、そう仮定しておこう。僕の勘違いだったなら、それでいい。何もしないままでいてはきっと、僕がそれに気が付くのはすべてが終わった後だ。僕は、その時に間に合いたいのだ。 そして、いつか――。 [*前へ][次へ#] |