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褪ロラ
11

 ロヴィが持ち上げた左足で、軽く空を切る。それだけの風圧で塵と化した結晶は辺りに霧散する。きらきらと光を乱反射しながら徐々に拡散し、見えなくなっていく。落ちていくごとに光を失っていく、打ち上げ花火のようだった。

 「あれが、浄化だ」
 「浄化……」
 「俺たちにできるのは、武器で損傷を与えた個所から、靄を追い出すこと。だがいくら追い出しても、そこに器があれば靄はいずれ戻ってくる。本当の意味で”影”を消すことが出来るのは、あの男だけだ」

 人々を病から救う。救われた人々を脅かす異形の影を消滅させる。そのどれもが、彼にしかできないこと。僕のそばにはロヴィがいるけれど、じゃあ他の人たちは? 今もどこかで戦っているであろう彼らは、倒すことのできない相手をただ退けるだけの、終わりのない戦いを強いられているのか。
 いつからこの世は、ただ毎日を生きるだけのことがこんなにも難しい世界になってしまったのだろう。これでは、誰も救われない。平和で安穏とした生活など、どこにもないではないか。

 振り返ったロヴィは、僕たちの姿を認めるとにっこりと笑って手を振った。尖った八重歯が幼さを感じさせる、いつもの笑顔。
 ほんの一瞬だけその瞳に虚ろに光ったように見えたのは、――きっと、僕の気のせい。




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