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褪ロラ
2


 すぐに切り替えて、大人びた怜悧な顔つきで言葉を続ける。

 「どうしてか知らないけど、あいつの標的はロヴィだけで、俺たちのことは味方だと……、少なくとも敵だとは思ってないみたいなんだよね」
 「うーん……、いつの間にあんなやつの恨み買ったんだかなー、俺」
 「恨みっていうか……、十中八九、病気関連で君に用があるんだと思うけど」
 「……そうかあ? の割には、思いっきり首落としに来たぞ?」

 親指を首に向けて、真横に引くジェスチャー。けろりと言ってのけたロヴィに、アキくんは目を見開いて固まった。
 アキくんはその時、いつものように戦いに集中――あの状態はむしろ酩酊に近いらしいが――していたため、ロヴィがあの男に何をされたのか目撃はしていなかった。

 「……、そう、なの? そこまで?」
 「一瞬マジで殺されるかと思ったからな」
 「どういうこと? 君を殺したりしたら、誰も助からなくなる……!」
 「そうだなー……」

 深刻な様子のアキくんとは対照的に、応じるロヴィはどこか他人事で呑気である。誰かに本気で殺されかけた、明確な悪意や敵意を向けられた、そんな経験をした人の言葉とは思えないほどに。
 僕ですら感じた少しの違和感に、けれどアキくんからそれ以上の追及はなく、

 「エルド」

 その矛先は、エルドさんに向けられた。

 「……なんだよ」
 「どう思う?」
 「どう、って言われてもな……」

 エルドさんはこういう時に、黙って話を聞いていることが多い。わからないから不用意な発言をしないようにしている僕とは違うだろうに、なぜか彼が積極的に意見を口にしている印象はあまりない。
 今も急に意見を求められて、困ったように言葉を濁した。

 「俺もこの人も、こうなってからまだ日が浅い」

 アキくんはそう言って、ほんの一瞬だけ僕に視線を寄越す。
 その言葉通り、僕とアキくんがロヴィに武器を与えられてから、まだ一月も経っていない。

 「エルドの方が詳しいでしょ。何か心当たりとか、思うことないの?」

 真っ直ぐなアキくんの視線にたじろぐように、赤い瞳をどこともなく彷徨わせる。エルドさんは思案するような数秒の間を置いて、言った。

 「……ここは、かなり特殊なんだよ」
 「は?」

 アキくんが目を丸くする。期待した答えとは別の話が始まったのだから、当然の反応である。しかし当のエルドさんは、アキくんのそんな様子に動じた風もなく、真剣な面持ちで言葉を続ける。
 誰も、敢えて遮ろうとはしなかった。

 「他所はもっと……、いや――そもそも、俺たちと同じ境遇の連中に、まともに話のできるやつが少ないんだ。どいつもこいつも、身体的に精神的に、追い込まれてる。だからまあ……、もちろん味方には違いないんだろうが、なかなか打ち解けて話をするのは難しい」
 「……ああ、……そう、か……」

 この生活に、僕はやっと慣れてきた。慣れることが、できた。それは、ともすれば喜ばしいことのように思えるけれど、一概にそうと言い切ることも難しいのかもしれない。エルドさんの言葉に、僕は、僕の『これから』を思った。
 “慣れ”てしまったら、次に待っているのは何か?
 終わらない戦いのストレスと、常に隣り合わせにある死の恐怖。しかもその死は人としてのそれではなく、すなわち異形への転身である。そんな脅威が常時そこにあって、自らも”そう”なるまで、無くなることはない。こんな状況に何カ月も、何年も晒され続けて、まともな精神状態を保ち続けることなど、果たして可能だろうか。




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あきゅろす。
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