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褪ロラ
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 「――さて。ところでヒロくん。黒屍病の症状、覚えてるか?」
 「えっと…………。……あれ、なんだっけ」

 あの後、アキくんはすぐに寝室に下がった。疲れているからさっさと寝る、と言い張って、ご飯も食べずに寝てしまった。本当に疲れている様子のアキくんを無理矢理引き止めることは出来なくて、僕はその背を黙って見送った。
 カップの破片で切ってしまった右手は、エルドさんがきちんと消毒してあげてくれた。必要ないとアキくんは文句を言っていたが、それには応じずに黙々と手を動かすエルドさんをちらりと見ると、何も言わずに包帯を巻かれていた。
 白い包帯と、黒変した指先のコントラストが、目に染みた。

 「……痛みだよ。主な症状は激痛だ」

 僕の代わりに、エルドさんが答えた。

 「痛み……」
 「それもただの痛みじゃない。黒い靄によるものだから、いわゆる鎮痛剤の類が全く効かない」
 「そ。神経を麻痺させたところで、しょうがねえんだよな。実際に体のどっかが痛んでるわけじゃねえから」

 鎮痛剤の効かない痛み、神経を介さない痛み。
 医学の心得などまるでない僕には、それらの言葉の意味がなかなか腑に落ちないけれど。

 「どう説明すっかなあ……。まず、真っ先に『痛い』っていう事実があって、それ以外に何もなくて、それが全てなんだ」
 「…………」
 「んー……。エルド、ヘルプ」

 抽象的で、観念的すぎて、うまく想像ができない。もともと想像力の乏しい僕の頭では、尚更である。相槌すら忘れた僕に、今度はエルドさんが言った。

 「そもそも『痛み』ってものが何なのか考えてみろ。体のどこかが悪くなって、不具合が生じて、それを脳に訴えるのが『痛み』だ。けど、この病気は逆だ。まず痛みが先にある。原因は特に必要ない。だから……、治療法もない」
 「……どうしたら、そんなことが起きるんだろう」
 「さあ。あの靄にヒトの理屈が通じるなら、とっくに治療薬の一つでも開発されてるだろうさ」

 わかったような、わからないような。




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あきゅろす。
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