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褪ロラ
5

 来客として改めて通されたのは、小さいながら上品な設えの洋室だった。ただし非常時ということで、照明は最小限に抑えられている。薄暗い室内にアキくんの淹れてくれた紅茶のいい香りが、暖かな温度とともに広がった。
 シャロンさんの長い指が優雅な仕草でティーカップを口に運ぶ。一挙一動が洗練された、無駄のない動きである。一口含んで、余韻を楽しむように目を閉じたその顔は、精巧な人形のように美しかった。

 「それで? 何が起きてる?」
 「うーん、まあ話せば長いんだけどさ」
 「構わない。おちおち寝ている場合でもないしな」
 「でもその前に、いい加減こいつのこと紹介していいか?」

 こいつ、とロヴィが僕を指す。三人分の視線がいきなり僕の顔に集まって、どうすればわからないまま僕は、ヒロです、と呟いた。特にシャロンさんのような整った容姿は、見るのも見られるのも慣れなくて、逃げるように俯いた。

 「……どこで拾ってきたんだ?」
 「拾ったって……、まあ否定、はしねえけど、でもしょうがない事情があったんだって!」

 金髪の男はす、と瞳を細めた。ソファのひじ掛けにゆったりと頬杖をついて、わずかに首を傾げてロヴィを見る。

 「当ててやろう。大方”影”との戦闘中に、何かへまでもして巻き込んだんだろう。運のないことに”影”との接触でそこの少年は症状が悪化、もしくは、急性中毒にでもなったか? そうして死にかけていたところを、例のごとくお前が助けた。――めでたく我々の仲間入りというわけだな」
 「相変わらず気持ちわりいほどドンピシャに当ててくるな、あんた……」

 嫌そうに顔を顰めてロヴィはティーカップに息を吹きかけている。熱い飲み物が苦手なのかもしれない。おそるおそる口をつけて、しかしそれでもまだ熱かったのか、いくらも飲まないうちにカップを置いた。

 「なんで、わかったんですか」
 「こいつは長く、重度のお人好しという大病を患っていてな。人助けを趣味にしている頭のおかしい男なんだ」
 「ああ……」
 「何納得してんだ、こら」

 ロヴィがそんな言葉で評される性格をしていることは、僕にも大体察しがついていた。
 いただきますと小さく手を合わせて、僕もティーカップを持ち上げた。花のような香りが濃くなる。

 「そんな男がよりによってここに君を連れてきた。つまり、君を巻き込まざるを得ないと判断したということだ。加えてさっき、君の命を救ったのは二度目だと言っていただろう。……これだけ出揃っていれば、馬鹿でもわかる」
 「今、しれっと俺たちのこと馬鹿にしやがったな?」
 「お前が馬鹿なのは元からじゃなかったか?」
 「ぐ……」



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