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褪ロラ
6


 「シャロンがね」
 「え?」
 「シャロンが、『可哀想』だって、言ってたんだ……。あの人がそんな言葉を使ったのは、後にも先にもロヴィに対してだけだった」
 「……ロヴィが、可哀想」

 その言葉の指す意味と、彼の印象とが僕の中で上手く結び付かなかった。
 だって哀れと言うには、彼は幸せそうなのだ。いつも明るくて、無邪気に笑っている。辛そうにしていることもあったけれど、それでも次の日にはすっかり元気を取り戻して――。
 否。あの年齢で、家族を全員亡くしているのだ。それがどういうことか、僕は正しくわかっているのか?
 そうだ、考えろ。考えなくては。僕の目の前には、つい先日養父を亡くして傷付いた少年がいる。ロヴィだって同じだ。そして彼が失ったものは、父だけではない。家族全員、だ。
 それが哀れでなくて、何だろう。

 「……あ、……」
 「だから、ロヴィが今までどんな生活をしてきたのかなんて、俺は怖くて聞けない」
 「怖い……」
 「家族のことも勿論そう。だけど、もしかしたらそれ以上に酷いこともたくさんあったかもしれないって、想像がつくからだよ。そんなことを、わざわざ思い出して話してもらわなくてもいいんだ。……あの人にとってそれはきっと、忘れたいことなんだから」
 「……なるほど」
 「だから無神経だって言うんだよ。いつもにこにこ笑ってるからって、何も苦労してないはずがないんだから」
 「勉強に、なります……」

 本当に、勉強になる。アキくんは、僕を許してくれない。わからないことを、仕方がないとは言わずにちゃんと怒ってくれる。何が悪いのか、何が正しいのか、僕に考えさせようとしてくれる。だから僕はこうして、少しずつでも前に進むことができる。
 アキくんに助けられていることがたくさんある。だから僕も、アキくんのために何かできたらいいなと思う。
 ロヴィのことも、アキくんのことも、エルドさんだって。僕にできることなら何でもしてあげたいのに、この手で出来ることはあまりに少なかった。

 「でも、銀の瞳か……。君の言うことだから信憑性はいまいちだけど、もし本当なら気になるね」
 「……ロヴィの家族が、生きてる、とか」
 「可能性は、なくはないと思うけど……。……ねえこの話、もう絶対ロヴィの前でしないでね。理由はわかるよね?」
 「え、えっと……」
 「確証もないのに、家族が生きているとか無責任なこと言うなってこと」

 眉間に寄った皺を指先でほぐしながら、アキくんはそう続ける。主に原因は僕なのだろうけど、やっぱりこの子はいちいち仕草が子供らしくない。

 「期待させて、もし違ったら、ロヴィはがっかりするでしょ。がっかりしたら、傷付くでしょ?」
 「うん。……うん」

 みんなのために何かがしたかった。こんな僕にできることなんてほとんど無いけれど、ならばせめて、害になるようなことだけはしたくなかった。傷付けるようなことだけは絶対にするまいと、心に誓った。




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