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褪ロラ
4



 取り留めのない思考から僕を引き戻したのは、聞き捨てならない言葉だった。
 ――身内が全員死んでいる。なるほどそれでは、余計に銀の瞳は珍しいのだろう。
 しかし、なぜ。

 「……死んでるって、どうして……」
 「そっか。お前家族いねえもんな。わかんねえよな……」

 そう言われてしまえば、僕に二の句は告げない。
 また僕はわからないことを肯定されて、わからないままに放っておかれるのかと、咄嗟に身構える。けれど思いのほか呆気なく、ロヴィは言葉を続けた。

 「たとえばさ、お前、俺のこと好き?」
 「…………」

 果たしてその問いに、僕は咄嗟に答えられなかった。

 「うーん。じゃあさ、俺が誰かに酷いことされたとして、お前は怒ってくれるか?」
 「……怒るってことが、よくわからないけど……、でも嫌だなって思うよ。……やめてほしいって、思うよ」
 「おー、マジか……! はは、ありがとな」

 本当に嬉しそうに、ロヴィは笑った。親に頭を撫でられて無邪気に喜ぶ幼子のように。あるいは――。

 「だからまあ、そういうことだよ」
 「……そう、いう?」
 「『根絶やし』」

 不穏な言葉を呟いたロヴィの声から、一瞬だけ感情が消えた。
 けれどすぐにいつもの笑顔を見せて、左手でぐしゃぐしゃと僕の頭を掻き混ぜた。
 まるで、僕の視線から逃れるみたいに。……考えすぎかもしれないけれど。

 「じゃ! 俺はちょっと外見て来るから、お前はここ動くなよ!」
 「えっ、ま、待って……」

 引き止める間もなく、黒い背中は軽い足取りで遠ざかって行った。

 答えられなかったことを、初めて僕は心の底から悔やんだ。今すぐ追いかけて、その背に伝えようと思った。けれど、ここにいろとも言われた。どうすればいい、どうするのが正しいのだろう。そして、いつだってこんな風に停滞してしまう僕は、また一つ大切な時機を逃すのだ。
 僕は、君のことが好きだよ。好きな人が、誰かに酷いことをされたら、嫌だと思う。ロヴィが”影”との戦いで怪我をしたり、具合悪そうにしていたとき、確かに僕は嫌だと思ったのだ。

 ――だから、そういうこと?

 そもそも僕は、何を尋ねたんだっけ。
 どうして家族がみんな死んでしまっているのか、だ。
 根絶やし? 家族が? どうして?

 ――そういうこと、だから。

 「そういうこと、っていうのは……」

 ――怒ってくれるか?

 「君のために、怒ってくれる人……?」





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