褪ロラ
3
今日も今日とて、僕たちは戦いに赴く。
ここのところひっきりなしの戦闘が続いていたけれど、この日は珍しく一息つくだけの間があった。休憩も兼ねるつもりで、僕とロヴィで今日の迎撃地の西側を、アキくんとエルドさんが東側を見張っているところだった。
しゃがみこんで、僕たちは背中合わせにぽつりぽつりと言葉を交わしていた。
時折視界の端を、一筋の黒い靄がたなびくように過っては霧散していく。黒い靄は人の願いによって生まれるのだと、ロヴィは言っていた。とすれば、あれもきっとどこかの誰かが、何かを願った成れの果てだ。誰かのため、自分のための願いが、人を病ませては死に至らしめる。最悪な世界の醜悪な正体だ。
柱の足元に、吹き溜まりのように黒い靄が集まって停滞している。こんな闇溜まりを、僕は昨日も見た。
明け方、闇の中に見えた一対の銀。その珍しい色は、ロヴィの瞳によく似ていた。――ような気がする。あれは一体誰だったんだろう。あのフードの人物と何か関係があるのだろうか。
「……銀の瞳って、珍しいよね」
「…………へ?」
唐突な僕の言葉に、ロヴィは振り返って、ぽかんとした表情を浮かべた。
「銀の瞳。珍しいよね」
「あー……、だな。こんな目の色したやつ、なかなかいねえな」
「ロヴィも会ったこと、ないの」
「ねえなぁ」
「そっか……。昨日、見た気がしたんだけど。気のせいかな」
「……何を?」
「だから、銀の瞳。一瞬だったけど……」
ロヴィは目を見開いて絶句した。そこに浮かんでいるのは、驚愕の色だった。
と思えばすぐに胡乱げな目つきになって、僕を軽く睨んだ。
「ほんとかよー?」
「本当だよ」
「……実は俺だった! とかいうオチだったりして」
「違うよ。だってロヴィは隣にいた」
「は……」
「黒っぽい人影だったと思う。もしかしたら、あの人もフードを被ってたのかも。暗くてよく見えなかったんだけど」
「んだよそれ。見間違いじゃねえの?」
からかうように笑う銀を、僕はじっと見つめる。見れば見るほど、あの銀に似ていた。
「ロヴィの、家族って……」
「……いない」
「え?」
再び背を向けて、ロヴィは僕の背中に凭れかかってきた。そのずしりとした重みに耐えながら僕は、ふと彼という一人の人間の存在を感じた。彼もまた僕たちと同じように、なまぬるい温度を持った一人の人間であるのだなと、そんな当たり前のことをぼんやりと思った。
「……死んでるからな。全員」
「…………」
「この目は親父の遺伝だけど、父方の身内は全員死んでる。あ、母方も」
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