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褪ロラ
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 はっと、目を覚ました。傾きかけた日が、薄暗い室内にオレンジ色の光を差し込ませていた。よかった、今日もちゃんと起きられたみたいだ。近頃の僕にとって寝坊か否かの基準は、目覚めたときの部屋の明るさだった。
 体を起こせば、くう、と情けない音でお腹が鳴った。とてもお腹が空いていた。戦っているみんなの邪魔にならないようにと後ろの方で待機しているだけの僕だけれど、それでもなけなしの体力は消費されているらしい。
 つまり、お腹が空くのである。

 珍しいことに、その日はアキくんとエルドさんが二人で台所に立っていた。

 「……二人とも、どうしたの」
 「エルドに料理教えてもらってんだってさ」

 そう言ってロヴィは、にっこりと嬉しそうに笑った。まるで自分のことのように嬉しくてたまらないという彼の様子に、僕まで釣られて頬が緩んだ。

 「やっぱあいつら、仲良しだよなあ?」
 「うん。……そう、だね」

 何事か揉めているような声は聞こえてくるものの、並んで手を動かしている姿は微笑ましいと思う。言い争っている内容も些細なことで、喧嘩するほどなんとやらという言葉が浮かんだ。

 「兄弟みたいだね」
 「……だな」

 それきり黙ってしまうロヴィに僕は少し慌てる。彼が黙ってしまうと、僕も黙るしかない。
 もっとたくさん話したいことがあるはずなのに、不思議と言葉は詰まって、ただ彼の横顔を黙って見つめることしか出来ない自分に歯がゆさを覚えた。
 僕はいつも、君と何を話していたっけ。

 「……えっと。そうだ。ロヴィは、料理しないの」
 「料理ぃ? したことねえなあ……」

 やっとの思いで絞り出した話題も、一言で呆気なく終わりを告げようとしていた。

 「……そう、なの」
 「それに俺は、誰かに作ってもらう方が好きだからいーんだよ」
 「……楽、だから?」
 「ははっ、それもある」

 含みのあるような言い方が、少し気になった。それも、ということは他にも何か理由があるのか。
 眩しそうに、愛しそうに、目を細めて二人の背中を見守るロヴィは、けれどそれ以上何も言わなかった。
 僕は、――何も聞けなかった。




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