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褪ロラ
9

 最初に足を止めたのはロヴィだった。

 「……来た」
 「え」

 次いで、僕の背筋にもぞくりとあの悪寒が走った。
 ”影”が、近いのだ。
 日没からまだいくらも経っていない。第五支部を出たばかりで、今日の迎撃予定地には到着していなかった。

 「クソ、走るしかねえ……! こっから一番近い場所は、えっと」
 「あっち」

 アキくんが指さす方へ全員で踵を返して、僕も遅れないようにと慌てて足を動かした。
 と、急に襟を掴まれて、首が締まった。

 「ぐぇ」
 「お前はこっち」
 「へ」
 「エルド、こいつ足遅ぇから担いで走るぞ」
 「……、俺がか……?」
 「だって俺よりあんたのが体力ありそうじゃん」
 「ちょっ、おいこら……!!」

 問答無用で僕はロヴィに持ち上げられて、エルドさんの背中に乗り上げさせられた。

 「……ご、ごめんなさい」
 「別にいいけどよ……」
 「お邪魔します」

 僕たちを振り返りもせずに、アキくんとロヴィは走り出していた。不吉な気配は徐々に近付いてきて、喉の奥をせり上がってくるような焦燥感に気分が悪かった。


 転がるように駆け込んだのは、朽ちかけたフェンスに囲まれた空き地だった。もとは何か建物があったのだろうが、敷地をぐるりと囲む金網以外には何も残っていない。荒れ果てた地面に、草木だけがなお力強くそこに根付いている。まばらな雑木林だった。見通しはさほど悪くないが、草木の無数の影が地を這っているため、”影”を視認しづらいのではないかという懸念はあった。
 網目の一つに足をかけると、軽々とフェンスを飛び越えて着地する。胃の下のところが、ふわっと持ち上がるような心地がして、僕は思わずエルドさんの背中にしがみついていた。

 「おいおい……、何だここ」
 「うーん……、銃なら問題ねーだろうけど、俺らには邪魔だな」
 「手入れくらいしろよ! ――って、ここ第五の管轄だったか……」

 口々に文句を言う彼らの気持ちは僕にもよくわかった。ナイフも太刀も、刃物だ。近接戦を得意とする武器を持っている二人にとって、動きにくい場所での戦闘は不利な要素しかない。
 実体を持たない僕たちの武器は、保持者である僕たち自身や”影”にしか作用しない。つまり、武器だけなら木がどれだけ生い茂っていようと、ただ貫通するだけで何も問題はないのだが、それを振るう彼らの腕は、そういうわけにはいかないのだ。
 銃なら自分が動き回る必要はないから、シャロンさんはここでの戦闘に不自由していなかったかもしれないけれど。




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あきゅろす。
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