褪ロラ
8
「お前も何か食えよ」
「…………」
視線に温度があるなら、振り返ったアキくんのそれは氷のように冷たかったことだろう。横で見ている僕ですら少し背筋が冷えた。
しかしふと視線を緩めて、アキくんは微かに笑った。
久しぶりに見る笑顔だった。
「心配してくれてありがとう。でも俺は大丈夫だから」
「……あ、ああ……。いや」
そして僕たちが安心したのも束の間、すぐにそれは極寒の嘲笑に変わった。
「……って、言えば満足?」
「っ、この……!」
青筋を立ててエルドさんが立ち上がった。机の上の食器たちが一瞬だけ跳ねる。掴みかからんばかりの勢いに、ロヴィが手首を掴んで押し留めていた。
「ちょっ……、こらこら、喧嘩すんなって……!」
負けじと睨み上げるアキくんに、物怖じした様子は一切見られなかった。二回りは体格差のある相手を前にこうも凛とした姿勢を崩さずにいられるものかと、僕は感動さえ覚えた。
それにしても、先の思い遣られるメンバーだった。
――もちろん、僕も含めて、だけど。
*****
「何してんだ?」
「……遺品整理」
「……そっか、手伝うか?」
「いい。触らないで」
ぴしゃりとロヴィの申し出を跳ねのけたアキくんは、すぐにふっと息を吐いて少し肩を落とした。
その顔には、疲れたような苦笑が浮かんでいた。大人びたその表情は、憂いを帯びて艶やかでさえあったけれど、彼が十代半ばにも差し掛かっていないことを思い出すと、遣り切れない思いがした。
「って、実は整理するまでもなく片付いてるんだけどね」
「……はは。あいつらしいな」
エルドさんは散々アキくんに怒られて拗ねてしまったのか、散歩に行ってくると言い残して、去ってしまっていた。
脱いだ上着が無造作にソファにかけられたままだから、このままいなくなってしまうなんてことは、ないと思いたいけれど。
「シャロンさん、綺麗好きだったんだね」
「そういうことじゃないんだけど、君にはわからないだろうからいい」
「…………」
硬直した僕の肩を、ロヴィが何も言わずに叩いた。
また、いつもの。
直るといいな。そしてアキくんとも、仲良くなれたらいいのに。
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